誕生日には?! 井宿Ver.



「これならどうや?!・・・、いや、やっぱ駄目や。こっちなら!あぁ
せやけど・・・。」

翼宿は朝から様子がおかしい。
ご飯も食べずにずっと部屋にこもっている。
聞こえてくるのはさっきのような言葉ばかりである。
考え事をしている翼宿は珍しいが、それ以上にご飯を食べていない事の
方が珍しい。
みんなは翼宿の部屋の近くであれやこれやと理由を考えた。

「翼宿、今日はいったいどうしたのかしら?あんなの翼宿じゃないわ。」
「柳宿さん、それは言いすぎですよ!」
「でも、あの翼宿が、もうお昼過ぎてるのに、1回もご飯を食べてないのよ!
絶対おかしいわ!」
「確かにそうだな。腹でも壊したのだろうか。だったら薬を調合して
やるのに。」
「翼宿もご飯を食べる事を忘れて鏡を見ているのではないか?」
「もう、星宿じゃないんだから・・・。」
「じゃあ金数えてるとか?!」
「たまちゃんじゃないんだから〜!」

ド〜ン!!!

鬼宿は柳宿の強烈な一撃をもろに食らった。

「あぁ〜うるさいんじゃ!!!静かにしたってや!」

翼宿はみんなにこう一言告げるとまた部屋に入った。
・・・、また独り言が聞こえてくる。

「やっぱりおかしいわ。なにか拾い食いでもしたのかしら?」
「美朱じゃあるまいし・・・。」
「鬼宿、それどういう意味?!」
「あっいや、その・・・。そっそういえば井宿は知らないのか?」
「あ〜話逸らした〜!」
「良いだろ!」
「良くない!」

柳宿は目いっぱい空気を吸った。
・・・・・、

「うるさぁい!」
「「はいっ!」」
「まったく・・・。で、井宿は知ってるの?恋人なんだし・・・」
「オイラも知らないのだ・・・。」
「恋人にも話さないなんて、翼宿ったら!」
「あっ!早くあれやらないと間に合わないよ!」
「あ〜そうだったわ!みんなこんな所で話してる暇はないわよ!ほら、
食堂へ行くわよ!あっ、井宿は翼宿の事を見張っていてよ!宜しくね〜!」

柳宿はそういうと、半分みんなを引っ張るように食堂へ向かった・・・。



翼宿はまだ考えていた。
外ではみんなが自分の事を言っているがやっと静かになった。
翼宿には時間がない。

「あ〜、あと少しで日が暮れてまう!何にしたらええんや!」

実は、今日は井宿の誕生日だったのである。
翼宿は以前井宿本人からその事を聞いていた。
更にその時、

「オイラの誕生日の事を言ったのは、親友を失って以来、翼宿が初めて
なのだ。」

と言っていたのである。

井宿の事だから、今だにみんなには言っていないだろう。
すると、翼宿が祝ってあげないと井宿は誰からも誕生日を祝って
もらえない事になる。

翼宿は記念日と言うものをとても大切にする。
  だから、自分が井宿を祝ってやろうと思って朝からどうすれば喜んで
もらえるか、プレゼントは何にしようか、と色々考えていたのである。

みんなに相談しようかとも思ったが、井宿は誕生日の事を言ってないで
あろうから聞けなかった。
翼宿は記念日は重んじるがプレゼントなど気の利いたものを考えるのは
苦手であった。

でも今回は1人で考えなければいけない。
更に祝う相手は自分の恋人である。
変なものは渡せない。

そう思うと更に気が重くなる一方である。

「あぁ〜どないしよ!」

そういう間に時間はどんどん過ぎていく。

「ええぃ、しゃあない!」

そういうと翼宿は部屋を出た。



「コンコン」
「あら?誰?もしかして星宿様?!どうしよ私ったら・・・」
「何言っとんねん!俺や俺!翼宿や!入ってええか?」
「なんだ翼宿かぁ・・・。ええ、どうぞ。」
「ほな失礼します、と・・・」

柳宿は椅子に座っていた。
柳宿の部屋は綺麗に片付いている。
翼宿は柳宿の前に椅子を移動させて座った。

「んで、どうしたのよ?」
「あぁ、実はな、その・・・。」
「何よはっきり言いなさい!今日の翼宿はずっと変よ!」
「変ってなんや?!いつもの俺やないか!」
「ぜ〜っんぜん違うわよ!ご飯も食べてないで部屋でずっと考え事してるし!
もしかしてその事と関係あるの?!」
「うっ・・・」

翼宿は来た目的を言われてしまい虚を衝かれた。

「や〜っぱりそうなのね。ほら、さっさと姉さんに言っちゃいなさい!」
「それを言うなら兄さんやろ・・・。」
「あ〜ら翼宿ちゃん、今何か言ったぁ?」
「いいえ、何も!」

こんな事を言ったら柳宿の事である、ぶっ飛ばしかねない。
翼宿はこの言葉は飲み込み、本題に入る事にした。

「あっ、あのな。柳宿なら・・・、誕生日に何渡すんかと思て・・・。」
「あらっ、最近誕生日の人でもいるの?」
「あっ、あぁまあな・・・。」
「う〜ん、そうねぇ。愛!」
「あい?!」
「私が誕生日にプレゼントをあげる方なんて、星宿様しかいないわ!」
「それじゃ俺には役にたたへんやんか!」
「あらそうねぇ。」
「あらそうねぇ、やなくて・・・。」

『柳宿に聞きにきたんは間違いやったんか?』

そう思い始めた。

「ん?翼宿、どうしたのよ?」
「い、いやなんでもあらへん。」
「で、プレゼントよねぇ。
あげるのはどんな人なのよ?」
「えっ、そ、それはちょっと言えんのや・・・。」
「じゃあアドバイスのしようがないじゃない!」
「そ、そやな・・・。」
「そやな、じゃなくて・・・。」

柳宿は半分呆れ果てていた。
今日の翼宿は明らかにおかしい。
まぁ、放っておく事にした。

「まぁいいわ。プレゼントねぇ・・・。」
「・・・・・。」
「やっぱ・・・。」
「へ?」
「気持ちじゃない?」
「きもち?」

翼宿には少しも理解できない。

「きも・・・ち・・・。」
「そうよ。物をあげるだけが大切な事じゃないのよ。物をあげる気持ちが
大切なの。その人は翼宿の事を好きなのよね?だったら翼宿のあげた
ものならなんでも喜んでくれるんじゃない?そういえば好きって変な意味じゃ
ないわよ。それとも、そういう意味を含んだ方が良い?」

柳宿は意味ありげに笑った。

「そ、そんなんやあらへん!」
「あ〜ら、やけにムキになってるわねぇ。もしかして図星?」
「せやからちゃうて!」
「まぁ良いわ。」

また言い方が意味ありげである。

「まぁ、ようわからんけど、ありがとな。」
「わかったの?」
「あぁ。悪かったな。俺、部屋戻るわ。」
「そう、じゃあね。・・・、あんたはいつもどおりにしてた方が良いわよ。
みんな気にしてたわよ。」
「さよか・・・、そやな、飯も食わなきゃな。」
「やっと、元の翼宿に戻ったみたいね。」
「元のって、なんやそれ!」
「ほらほらいつまでレディーの部屋にいるの!出てってよね!」
「さっき入って良い言うたんはお前やんけ!しかもお前はレディーちゃう・・・」
「なにか・・・、言った?」
「い、いや、言うてまへん!」
「そ、じゃあね。」
「あぁ、またな。」

そういうと翼宿は部屋を出た。

「翼宿きっとあの人にあげるのね。ふふっ。」

翼宿に柳宿のこの言葉はまったく聞こえなかった・・・。





「気持ち・・・、きもち・・・・・。」

翼宿はまだ自室で考えていた。
しかし、いっこうに考えがまとまらない。

「あ〜、もう日が暮れてまう!」

窓の外では夕日が地平線にかかっている。

「あ〜、もうしゃあない!プレゼントはなしや。ともかく、おめでと位
言いに行くか・・・。」

そうつぶやくと、翼宿は仕方なしに手ぶらで井宿の部屋へ向かう事にした・・・。





「コンコン」
「誰なのだ?」
「あ、俺やけど・・・、入ってええか?」
「良いのだ。」

そう言うと翼宿は静かに部屋に入り井宿の前に立った。

「ち、井宿?」
「なんなのだ?翼宿は今日変だとみんなに言われていたのだ。
いったいどうした・・・」
「誕生日おめでとう!」
「・・・・・、え?」
「誕生日あめでとう、て言うとるんや、ちちりっ!」
「えっ、あぁそういえば、今日はオイラの誕生日だったのだ。」
「あ、なんや?!本人が忘れてもうてたら駄目やないか!」
「・・・・・。」
「ん、井宿?どないしたん・・・」


井宿は泣いていた。
翼宿は驚きを隠せない。
井宿がこのような形で泣いた事はみんなといるうちでは初めてだった。

「ちちり、どないしたんや?」
「あぁ、すまないのだ。オイラ、親友を失ってから誕生日を祝って
もらった事などなかったのだ。オイラ自身も忘れてたし・・・。もう、
祝ってもらう事ないと思っていたのだ。本当に、ありがとうなのだ。」
「な、なんかそこまで言われるとこっちが照れるやないけ。」
「あははなのだ。」
「こらっ!」

2人はしばらく笑い続けた。
井宿の涙は止まっていた。

「そういえば、翼宿今日はなんで変だったのだ?」
「井宿!他に聞き方あらへんのか!どいつもこいつも俺を変人扱い
しよるからに・・・。」
「だって本当に変だったのだ。」
「じゃかし〜い!!」
「で、どうしてなのだ?」
「その・・・、お前へのプレゼントを考えとったんや・・・。」
「えっ?!そんな事考えてくれてたのだ・・・。」

井宿は、本当に自分は幸せなのだと感じた。
自分は、今愛されているのだと・・・。

「でもな、俺なんにも思いつかへんで、柳宿にも聞いてみたんやけど
柳宿には気持ちが大事や言われて、考えたんやけどようわからなくて、
結局何も準備出来なかったんや・・・。」
「オイラは何もいらないのだ。」
「さよか・・・。」
「でも、その代わりオイラの言う事を1つ聞いてくれるのだ?」
「あぁ!そんなんでええんなら!」

翼宿はとても嬉しそうである。
よほどプレゼントの事を気にしていたのであろう。

「俺にしてほしい事てなんなんや、井宿?」
「それは・・・。」

そういうと、井宿は翼宿をベッドに押し倒した。

「なっなんや!?」
「オイラ、翼宿が欲しいのだ。」

井宿は優しい声でこう言った。
翼宿はもちろん動揺した。

「なっ何いきなり言い出すんや!第一今はまだ夜やあらへんし・・・。
みんなに見つかってまうで。」
「みんなオイラたちの事は知っているのだ。だから大丈夫なのだ。」
「知ってるからやて・・・。」
「翼宿はオイラに言う事を1つ聞いてくれると言ったのだ。それとも
翼宿は嫌なのだ?」
「そんな事あらへん!せやけど・・・。」
「だったら気にしないのだ!」

もうこうなったら井宿には何を言っても関係ない。
翼宿は諦めた。

「しょうがない奴やな、お前は・・・。」
「そんなオイラを好きな翼宿もしょうがない奴ではないのだ?」
「うっ・・・。」
「もう良いのだ?」
「・・・、ほんっとにしょうがないやっちゃな・・・。」
「あははなのだ」

井宿は嬉しそうである。

『でも、井宿にこんなに喜んでもらえるならええか。ほんまに良かった・・・。』

翼宿はとっても嬉しくなった。
しかし、その時フッと思い出した。

「そういえば、俺今日なんにも食べてへんかったんや・・・。安心したら
急に空いてきてもうた・・・。なぁ井宿?やっぱ晩飯の後にせえへんか?」
「や、なのだ。」
「なっ、なに言うとるんや!?」
「だって今日はオイラの誕生日なのだっ。だから良いのだ!それに、
オイラの夕食はあるのだ。」
「はぁ?」

翼宿はキョトンとした。

「オイラの今日の夕食は翼宿なのだ。だから平気なのだっ!」
「なっななな何言うとるんや!ハズいやないか!第一それは井宿だけで
俺は結局空腹のままやないけ!」
「すぐにそんな事忘れてしまうのだ!というか忘れさせるのだ。
だから・・・、お願いなのだ・・・・・翼宿。」
「うっ・・・・・・・・・・。」

翼宿にはもう断れない。
好きな人にここまでお願いされてしまったのだ。
断れるはずもない。

「ったく、しょうがないやっちゃ。俺が断れるはずないてわかっとるんに・・・。
この鬼畜っ・・・」
「オイラは鬼畜なのだっ。そんなわかりきってる事言わないでほしいのだ。」
「ったく、今日だけやで。こんなわがまま聞いたるんわ・・・。」
「良いのだ。聞いてくれなかったら押し倒すのだっ!」

翼宿は心底井宿の事を呆れた。

「もうええ。はようしよ・・・。」
「そうなのだ。では・・・。」



そういうと井宿は翼宿に優しく口付けをした・・・・・。











  ☆管理人からのコメント☆

長〜い!マズったぁ・・・。いやぁ、かなり予定外です。こんな長いのを読んで下さって本当にありがとうございます。

今回は井宿の誕生日、と言う事で書きました。いやぁ、井宿・・・、わがまますぎます!凄いです!これが井宿の
本性なのでしょうか・・・?うわ〜!!!!!

翼宿は可愛いなぁ。悩んだ翼宿も良いです(^^)


今度翼宿Ver.も書きたいなぁ。というか書く!
待ってて下さい!