抵抗をしないと?! 2



亢宿はこの声を聞いてついに決心した・・・。



「ピュルルル〜♪」
「ん?なんだこの音は・・・、あっ頭が・・・割れそうだ〜!」
「「「「「うわぁ〜!!!」」」」」
「あに・・・き?」
「ピュルルル〜♪」

角宿は音のする方を見た。
その視線の先には、亢宿がいた。
でも、いつもとは少し違っていた。
亢宿は笛を手にしていなかった。
縛られているのだから無理もないが・・・。

亢宿は口で直接音色を奏でていた。
つまり口笛であの脳を狂乱させる音を奏でているのである。

「いてっ!」

角宿も少し頭痛がしてきた。
どうやらいつも気をコントロールしている媒体である笛がないので気の
量を制御しきれていないらしい。
確かに、いつもより多くの亢宿の気を感じた。

『兄キ・・・すげぇ・・・。笛がなくても・・・』

男たちは頭をかかえて地面で狂ったように苦しんでいる。

「いった・・・い、だれ・・・が・・・・・うがっ・・・。」
「このおと・・・ふせ・・・ぎ・・・きれねぇ・・・!」

角宿にはただ見ている事しかできなかった。
頭痛も少しするし、何より少し亢宿に恐怖も感じてきていたのだ。
亢宿が笛を使って気を操る所は見た事があったが、それで人を殺す所は
1度も見た事はなかった。

ただでさえ、亢宿は人を殺す事を極端に嫌っていた。
例え相手が悪者であっても…。

その亢宿が目の前で人を殺そうとしている。
自分の為に、である。
しかし、とはいえ怖さは隠せない。
角宿は身動きさえ取れなかった。


亢宿はただ一心に吹き続けていた。
男たちは目の前で苦しんでいる。
しかし、笛がないせいかいつもより効き目が悪い。
亢宿は笛の音の速さを速めた・・・。

男たちは今だに苦しんでいる。
でも、もはや限界に近いようだ。

1人・・・、また1人と動きが止まっていく。
ボス格の男も、亢宿につかみ掛かろうとしていたが、ついに絶命した・・・。


角宿は亢宿への恐怖がだんだん大きくなってきて角宿の中に渦巻いていた。
こんなにも気を操る事ができ、それでいて1回にたくさんを殺すできる。
そんな亢宿の事が怖くなった。


「ピュル〜・・・・・。」

亢宿の口笛の音が止まった。
亢宿は極度の疲労を感じていた。

『そ・・・うだ・・・、すぼし・・・は?』

そう思うと最後の力を振り絞って辺りを見渡す。
亢宿は改めて自分がした惨状に絶望した。

『僕が・・・、僕がこんな事したのか?』

亢宿の回りには恐怖の顔を浮かべたまま絶命している男たちがいた。
亢宿は自分が怖くなった。
疲労を余計に感じる。
もう意識が途切れそうであった・・・。

『すぼし・・・角宿は?』

亢宿は更に視線を巡らす。
角宿は、男たちの死体の中に座って亢宿の方を見ていた。
しかし、その瞳にあるのはいつもの角宿の瞳ではなく、恐怖でいっぱいの
瞳であった。
明らかに自分の事を見て怖がっている。

「すぼし・・・・・、なん・・・で・・・?」

亢宿はそこまで考えるのが精一杯だった。
亢宿の意識はそこで途切れた・・・。





「・・・・・・ん・・・ん?ここは?」
「あっ兄キ!気がついたんだ。良かったぁ。ここもう家だよ。」
「ん・・・なんで・・・?」
「兄キ、あの後気ぃ失っちゃうんだもん。それから全然目覚まさないし・・・。
心配したんだよ。」
「そんなに長く気を失ってたのか?」
「そうだよ、5日間も!でもホントに良かった。」
「5日間も!?そんなに・・・。」
「兄キは気を使いすぎたんだよ。笛なしで5人相手に気を送ったんだから。」
「そうか・・・。」

亢宿は全てを思い出した。
自分が何をしてしまったのか・・・。
そして、その事に角宿がどんな表情をしていたのかも・・・。

亢宿は角宿の顔を窺った。

『いつもと変わりない、よなぁ・・・?』

亢宿は角宿にあの時の事を思い出させてしまう事は可哀相だと思った。
でもどうしてもその事を聞きたかったので、やはり聞いてみる事にした。


「すっ角宿?あの・・・」
「ん?兄キ、なに?」
「そのぉ・・・、あの時、お前なんで怖そうにしてたんだ?」
「えっ?!あれは・・・あいつらに、あんなことされかけたからで…」
「それだけじゃないだろ?」
「えっ・・・?そっそんな事・・・。」
「良いんだ。言ってくれ・・・。角宿っ!?」

亢宿は強く言い放った・・・。


角宿は正直かなり動揺した。
確かに亢宿の言った通りであったからだ。
でも本当の事を言ったらもちろん亢宿の事を傷つける事になってしまう。
でも、亢宿は自分の名前をあえて強く呼んだ。
いつもは口調も優しい亢宿だが、こういう時に嘘は許されない。
角宿は言う決心をした。

「・・・それは、あの時の兄キがその・・・怖かったから・・・。」
「っ・・・・・、やっぱりそうだったのか・・・。」

亢宿は顔を下に向け震えていた。
角宿はやはり言わない方が良かったのだと後悔した。

「兄キ、ごめんよ・・・。」
「なんでお前が謝るんだ?良いんだ・・・あんな事をしたんだ。
悪いのは僕なんだよ・・・。」
「そんな事ない!悪いのは俺だよ!兄キは俺の為にやってくれたんだ!
兄キは人を殺すのなんて嫌なのに・・・。俺が兄キの言ったとおりに
しないであいつらにつっかかったから・・・。」

角宿はそう言うと静かに泣いていた・・・。
亢宿は髪をそっと撫でてやる。

「お前は優しい子だね・・・。だから人を殺す所を見て怖くなったんだ。
僕は悪い兄キだな…。」
「そんな事ない!兄キは世界で1番の兄キだよ!」
「ありがとう、角宿。
あの時僕はお前があの人たちの手にかからないようにしようと頭が一杯だった。
でも・・・だからって殺すまでしなくて良かったのに!笛なしであんな事を
するのは初めてだったから上手くコントロールできなくて・・・。
ってこれは完璧言い訳だけど・・・。」
「・・・・・兄キ・・・?」


亢宿は泣いていた。
角宿は亢宿の泣いた所を初めて見た。
亢宿はいつも何があっても泣かなかった。
両親が生きている時はもちろん、2人で暮らすようになってからも、
まだ弱かった角宿を守る為と、どんな時も泣かずに頑張っていた。
その亢宿が泣いている。

角宿はぎゅっと後ろから亢宿を抱き締めた。
自分の温もりが伝わるように・・・。
そして、
『兄キは悪くなんかないんだ。俺がいるよ。』
と伝えるように・・・。

亢宿は角宿の温もりを感じながらベッドの上で静かに泣き続けた・・・。











  ☆管理人からのコメント☆

第2弾!またまた長くなってしまった〜!!絶対これで終わらそうと思ってたのに・・・。ホントおまたせしてして
すみません。

にしても・・・、角宿が亢宿の事を怖がるなんてホントにあるのでしょうか・・・?絶対にないような・・・。
私はそんな話を書いてしまったよ・・・。







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