永遠を誓う笹


「やっぱり眠れね〜」


鬼宿は寝台から起き上がり、窓の外を眺めた。
そこには、真上から少し西に傾いた満月が雲1つない空に輝いていた。

時間で言えば、夜中の2時になるかどうかであろう。



「はぁ・・・まだこんな時間か・・・。早く朝になんね〜かな〜」

何故、朝が早く来てほしいのか、というと・・・


「早く翼宿に誕生日祝ってもらいてぇ・・・」



そう、今日は鬼宿の誕生日。

この日を、鬼宿は一体どれ位前から待っていたことか・・・


翼宿と、思いを告げあってから初めての自分の誕生日。
彼は一体どんな方法で祝ってくれるだろうか、と考えるだけでも幸せだった。


最初は、日付が変わったと同時に飛び込んできてくれるかも、と思った。
しかし、この考えははずれた。
とすれば、次のタイミングは朝であろう。
そう思い、さっさと朝が来るように寝台に寝転んだまではいいのだが・・・

興奮しすぎて、なかなか寝付けないのであった・・・・・

「これじゃあ、お出かけを楽しみにしてる子供とおんなじじゃねぇかよ・・・」


翼宿の部屋に夜這いをかけたらどうか、とも思ったのだが・・・
そこまでしたら嫌われてしまうかも、と思うと行動には出せなかった。



そんなわけで、鬼宿は朝が待ち遠しかった。
だが、まだまだ朝は顔を出す気配などしなかった・・・・・





やっと来た朝。

結局、一睡もしなかった鬼宿だが、嬉しさの方が増していて、眠気などまったく感じていなかった。
さっさと着替えを済ませて翼宿の部屋へと向かった。


部屋の前に来た時、ちょうど翼宿が部屋から出てきたところだった。

「たすきっ!おっはよぅ!!」

挨拶と同時に翼宿に飛びつく鬼宿。

「うわっ、朝っぱらからなにすんねん、たま!!」
「たすき〜、今日、何の日だと思う?」

早速本題を切り出す鬼宿。
もう待ってなどいられなかったのだ。

しかし・・・・・



「今日?なんや、今日はなんかあったっけか?」



鬼宿は言葉を失った・・・・・

自分の恋人は、自分の誕生日を覚えていなかった・・・


あまりにもショックが大きかった。

鬼宿は、翼宿を抱いていた手を放すと、無言で背を向け、今来た道を戻った。


「・・・、なんや?あいつ・・・・・」


翼宿に今言える事は、それ位であった・・・










鬼宿は、結局そのまま食事も取らず、街へと繰り出していた。

もう1度翼宿の顔を見たとき、自分が冷静でいられると言う自信がなかった。



ぶらぶらと、当てもなく歩いていたので、かれこれもう6人もの人とぶつかっていた。
まだ朝も早いうちだというのに、今日はいつもより人が多い。
それもそのはず、今日から10日間、つまりは七夕までの間、この街ではお祭が行われるのだ。
そして、みなはこのお祭の1番の出し物を求めて歩いている。

それは、『永遠を誓う笹』である。

一生を共にすると誓い合った相手と、1枚の短冊に2人の名前を書き、
それを『永遠を誓う笹』に一緒に結びつけると、
2人は一生共にいられる、と言われているものである。
笹の木は普通の物なのだが、それを置く場所が重要なのである。
その笹の木が置かれるのは、この街の真ん中を流れる川にかかる唯一の橋の真ん中

なぜこの言い伝えが出来たのか
それは、七夕の元となっている、織姫と彦星が会っていたのが、この川だったのかもしれない。
織姫と彦星は、自分たちの恋は叶わなかったから、後世の恋人たちを幸せにしようとしているのかもしれない。



鬼宿は今日、2人の名前の書いた短冊を、ここに結びに来ようと思っていたのだ。
翼宿の「おめでとう」の一言の次に、楽しみにしていたことなのだ。

しかし、それはかなわなかった・・・
七夕は7月7日だが、この『永遠を誓う笹』に短冊を結びつけて願いが叶うのは、6月28日
今日だけだといわれているのだ。

自分が、翼宿の所へ言って誕生日だといって、短冊に名前を貰えばいいのだが・・・
今日は、もう翼宿に会いたいと思わなかった

誕生日を覚えていてもらえなかったから、だけではない
自分が翼宿に会って、冷静に接することが出来るか、わからなかったからだ。

だから、今日は会わない。
宮殿にも帰らないつもりだ。





いつのまにか、鬼宿は『永遠を誓う笹』のある橋の所まできていた。

今も、その笹に短冊を結びつけた恋人たちが鬼宿の隣を幸せそうに通っていく。


鬼宿は、その橋の欄干に寄りかかると、ぼーっと川の流れを眺めていた。







翼宿は宮殿を出ると、当てもなく街へと駆け出していた。



鬼宿が翼宿のもとを去った後、食堂へ向かった翼宿が聞いた事は、まさに衝撃の事実だった・・・


「あら翼宿、なんでたまちゃんと一緒にいないの?」
「あいつ変なんや。俺に抱きついて『今日は何の日だ?』なんて聞いてきて、俺が知らん答えたら、
何も言わずに行ってしもたんや。
なぁ、今日って、なんかあったか?」
「・・・・・・・、あんた、たまちゃんにそんな事言ったの?」
「へっ??」


どっか〜〜〜ん・・・

翼宿は、一瞬のうちに食堂の外にまで飛ばされていた。
今まで一緒にいた中で、1番強いパンチだった気がした。


「った〜〜、柳宿、何するんや!死ぬとこやった・・・」
「あんた・・・・ぶぁっかじゃないの?!!なんでそんな事言ったのよ?!」
「なんでそこでお前が俺の事殴るんや?!」
「あんたが馬鹿だからよ!!恋人の誕生日を忘れるなんて、あんた・・・」
「たまのか?!たまの誕生日って、今日やったんか〜!??!」

殴られた痛みはどこへやら、柳宿に掴みかかって、今言った事を必死に問いただす。

「それホントなんか?!えっなんとか言えや柳宿!!」
「う゛っ・・・ぐ、ぐるじぃ・・・」

翼宿はついつい柳宿の首を掴みかかっていたのだ・・・


「あっ、わりぃ・・・」
「あっ、わりぃ・・・じゃないわよ!!死ぬかと思った・・・・教えてやんないわよ?!」
「それは困る!!!
んで、ほんまなんか、今日が、たまの誕生日やって事・・・・・」
「そんな事で嘘つく必要ないでしょ?!ったく・・・
にしても、ホントに知らなかったとは・・・・・あんたって、馬鹿ね」
「んなはっきり言わんでもええやろ?!」
「馬鹿な奴を馬鹿だって言って何が悪いのよ?!
恋人の、しかも、付き合いだして初めての誕生日って、なにより大切な物だと思うわよ?」

真剣な目付きで、柳宿は翼宿を見つめていた。

「そか・・・・」
「しかも、朝一で翼宿の所に行ったって事は、たまちゃん、きっと翼宿に祝ってもらうの、楽しみにしてたわよ〜?」
「・・・・・・・」


知らなかった・・・・・
楽しみにしていたであろう相手に、自分は、なんて言葉を言ってしまったのだ・・・


『なんや、今日はなんかあったっけか?』


あの時の鬼宿の、傷ついた顔を思い出す。
自分が同じ事を言われたら、あの時の鬼宿以上に、傷ついていたかもしれない。
それ位、彼を傷つけてしまったのだと、今更になって気づく。



「・・・柳宿・・・・・俺、どうしたら、ええ?」
「なぁに言ってんのよ?!さっさと探しに行きなさいよ!あんたから行かなきゃ、意味ないじゃない!」

今度は力をこめずにポンと翼宿の肩を押してやった。
翼宿は、何か言いたげな様子であったが、すぐに前を向いて食堂を後にした。



「あれ、鬼宿と翼宿はどうしたのだ?」
「あの2人なら今お出かけ中よ〜」
「あっわかった〜w『永遠を誓う笹』の所でしょ〜!!!」
「さぁ、どうでしょうね〜」
「まったくあいつらラブラブなんだから〜
まぁ、特に翼宿には鬼宿あげたんだから、ラブラブでいてもらわなきゃ私が許さないわよ!!」


きっと、みんなに「今日カップルが出かける所と言えば?」と問えば、
全員から「『永遠を誓う笹』でしょ〜!!」と答えが返ってくるであろう。

ただ1人・・・・・翼宿を除いては・・・・・・・・



柳宿は、翼宿に鬼宿のいるであろう場所を教えてあげても良かったのだが、あえて教えはしなかった。

「自分でみつけなきゃ、意味ないものね・・・」





翼宿が宮殿を出たのは、太陽が西に少し傾き始めた頃

今日中に、翼宿は鬼宿をみつけられるだろうか・・・・・・・










鬼宿は、橋の欄干に寄りかかったまま、何時間もその場を動かなかった。


もしかしたら、翼宿がここへ来てくれるかもしれない、なんて思ったときもあった。
だが、自分の考えをすぐに否定すると、再び、ぼ〜っと川の流れを見つめていた。


時刻は、もうすぐ日の入りの頃

鬼宿がこの場所に来てから、もう何十組の恋人たちが幸せそうにここを訪れたであろうか・・・

その光景を見ていたとき、ふと、少し昔の自分のことを思い出していた。

まだ、美朱と付き合っていた頃の自分・・・


さすがに女の子だけあって、こういう事はとても大事にしていた。
誕生日までは一緒に過ごせなかったが、きっと彼女なら、忘れるような失態はしないであろう・・・・・



「俺、美朱と付き合ってた方が、良かったのかな・・・」

はっ、と自分の失言に驚き、ついついきょろきょろと辺りに視線を送ってしまう。

『翼宿に聞かれでもしたら・・・・・』

翼宿がここまできてくれる確率はほぼ0%だろうと思ってはいるが、もしもの時を思うと、ついつい不安になってしまった。

『良かった・・・・・・』


にしても、そこまで自分が追い詰められているなんて、自分でも思ってもみなかった。
そして、こんな事で気持ちがふらついてしまう自分の翼宿への愛情も、まだまだなのだと思い知らされる。


『俺は、美朱を捨ててでも、翼宿を手に入れたいと思ったんだ。こんな事で、あいつを嫌いになるはずなんてない!』

そう言い聞かせると、少し気持ちが落ち着いた。
だが・・・・・



空を見上げると、いつのまにか雲が空を覆い隠し、ポタポタと雨が降り出してしまった。
まるで、織姫の父親の怒りに触れてしまったかのようだ・・・



この雨に、鬼宿はおもわず自嘲を浮かべる。
しかし、その場を動こうとはしなかった。



橋の上の人々は、突然の雨にみな姿を消してしまって、今、橋の上にいるのは鬼宿だけであった。

なのに、突然、どこかから声が聞こえたのだ。


『行きなさい。愛する者の元へ・・・
 でないと、一生後悔するかもしれませんよ? さぁ・・・』

誰の物だかわからない。
でも、鬼宿を動かすには十分であった。



鬼宿は歩き出した。
足の先は、宮殿を目指している。

一刻も早く、翼宿に会う為に・・・
そして、今日、もう1度ここへ訪れるために・・・!



と、その時・・・・・





「・・・・・ま〜〜、たま〜〜〜!」


幻聴だろうか?
鬼宿はそう疑った。

あいつの声がここでするはずはない。
だって、あいつはこの『笹』のことを知らないはずなんだから・・・・・


「たま〜〜!?どこにいるんや〜〜?」

でも、これはどうやら幻聴なんかではないらしい。
確かに、翼宿の声が聞こえるのだ。

突然降り出した雨のせいで、視界が悪いのがもどかしい。

一生懸命、鬼宿は翼宿の声のする方を探す。


「・・・・!?橋の方からだ!」

鬼宿は元来た道を駆け出した。

だんだんと、翼宿の声が大きく聞こえるようになってきた。



橋の袂まで着くと、鬼宿は、いてもたってもいられなかった。

「たすき〜〜!!どこだ〜〜たすきぃ〜〜〜!!」


雨音に消されないよう、必死に叫んだ。

「たすき〜〜!!!」
「・・・・たま〜!」
「たすき?!翼宿〜〜〜!!!」

どうやら、翼宿は橋の反対側にいるらしい。
鬼宿は再び駆け出した。

たった20m位の長さの橋なのに、先が見えないこともあって、とても長く感じられた。
ところが・・・


「鬼宿!!」

ひたすら走っていたせいか、下ばかり見ていた視線を上げると、すぐ目の前に翼宿がいたのだ。



「翼宿〜!!!」
「鬼宿っ!」

2人は同時に駆け出した。
そして、お互いの腕で、お互いを包み込んだ。

2人の体温が、1つに混ざってしまったような錯覚に陥りそうなほど、2人は激しく抱き合った。



「たま・・・、ごめんな、俺・・・・・お前のたんじょう・・」
「良いんだ・・・勝手に浮かれてた俺が馬鹿だったんだよ。ちゃんと言えば良かった・・・」
「そないなことない!俺が忘れてたから・・・・・恋人として、誕生日を忘れるなんて、俺、最悪やわ・・・」
「そんな事ないって!お前は、こうして、俺のいる場所まで来てくれた。
 もう、それだけで十分だ・・・」
「たまぁ〜〜〜」

翼宿の目から出た雫は、この大雨によって、静かに流されていった。


「そうだ、翼宿がせっかく来てくれた事だし、短冊、結んでこうぜっ」

翼宿の体を静かに放すとそう切り出した。

「短冊?」
「?やっぱり翼宿知らなかったんだ・・・今日はどんなことがあろうとここに来ようと思ってたんだ」

と言って、橋に飾られている笹へと近づく。

「この笹はな、『永遠を誓う笹』って呼ばれてて・・・・・」

鬼宿は、この『笹』にまつわる言い伝えを翼宿に話した。

先ほどとは違い、少し穏やかになった雨が、2人を包み込んでいた。


「そやったんか・・・・・。でも、男女で来てる中で男同士がこの笹に短冊つけてたら、めちゃ怪しかったんやないか?」
「俺はそんなの気にしない!翼宿と永遠に一緒にいられるなら・・・」
「俺は気にするんや!!」
「じゃあ結果オーライじゃないかっ。今は雨で誰もいないし。今のうちに結んじまおうぜ?」

そういうと、鬼宿は短冊と筆を取り出した。

雨でにじんでしまうのを少し気にしながら、『j鬼宿』と書いた。
続いて、鬼宿に手渡された短冊に赤面しながらも、翼宿は『候俊宇』と書いた。

そして、2人で一緒に短冊に結びつけた。


鬼宿が翼宿のほうを向くと、ちょうど翼宿と目が合い、お互いに微笑んだ。

そのまま、何かに引きつけられる様に、2人は唇を重ねた。





雨はいつのまにか上がっていた。

そして、雲の切れ間からは、織姫と彦星がキラキラと光り輝いていた。











  ☆管理人からのコメント☆

っっっっったいっへん遅くなりました(>_<)
やっとのことで出来上がりました;;
鬼宿、誕生日おめでとう!!
(おっせぇんだよこの馬鹿管理人!!←by鬼宿
 ひぃ〜〜〜お、お許しをぉ〜〜〜;;←by管理人)

さてぇ、ホントに久しぶりの更新&小説書きでした(^^;)
しかも、何も考えずひたすら打ってたら、こんなにも長い物になっちゃいましたよ〜
これじゃSSじゃありませんね(爆)
しかも、めちゃ繋がりのない文というかなんというか・・・
どこがって??
そりゃあもう・・・
翼宿が全然照れ屋じゃないし、鬼宿が一瞬美朱とより戻しそうになるし、etc・・・
もう、ほんますんません><(爆死)
ツッコミはなしで(^^;)

さて、この小説のネタを必死こいて考え始めたのが7日だったので(爆)、どうしても七夕ネタも入れたくて頑張りました(^^;)
そしたら、かなりめちゃくちゃなないようになりましたが(爆)
『永遠を誓う笹』は完璧オリネタなのですが・・・もう少しまともな名前にしたかったです(・・;)
これ以外に思いつかなかったんですね〜これが(汗)

それにしても、たまたす小説は久しぶりですね〜というか、キリ番で書かせていただいて以来だから2度目?
何故鬼宿の誕生日にたまたすを書いたのかといいますと・・・
カップリング投票の所にたまたすを1票入れてくださった方がいらっしゃいまして、
コメントに「みてみたい」とあったからです^^
いやぁ一応キリ番で1回書いたことはあったのですが・・・
そういえば書いてないな〜なんて思って、時期もちょうどいいし書いちゃえ〜〜!という事で今回書きました(笑)
この1票を入れてくださった方!!大感謝です(>▽<)
ぜひぜひお名前とともにBBSにご報告を!!

さてさて、もっと語りたいのですが、これ位にしないとホント長くなりそうなので・・・(笑)
さて!こんなめちゃヘボい小説ですが、配布しちゃいます(爆)
ご報告は任意ですが、してくれちゃうと泣いて飛んで嬉しがります!!←単なる馬鹿・・・
しかも、BBSも滞ってますしね;;
潤いを与えてやってください(笑)
配布期間は・・・この小説が「Bookshelf」にお蔵入りするまで!です(んなあいまいな(爆))

それでは・・・鬼宿、誕生日おっめでと〜★☆
(あっ、鬼宿に私からあげられるのは、『翼宿からの愛』だけだからね(爆))