それぞれの思い 8



「井宿〜!!!」




『井宿〜!!!』

井宿は翼宿の声を聞いた気がした。

『・・・、気のせいなのだ。翼宿はもうオイラの事を嫌ってしまった。
そんな事あり得ないのだ。』

井宿は今聞こえた声を振り払い笠を手に取り宙に投げようとした・・・
その時・・・?!



「井宿〜!」
「・・・・・、翼宿なのだ?」
「っはぁ〜、やっと見つけたで・・・。」

翼宿はあの後無意識のうちに門の方へ走っていた。
まるで井宿の気をつかんだかのように・・・

井宿は話しかけようとしたがやめた。

『翼宿・・・、見送りに来てくれたのだ?オイラはそれだけで嬉しいのだ。
でも、今話しかけるとオイラまたここにいたくなってしまうのだ。
だから、何も言わないのだ・・・。』

そう思うと井宿は笑いながら笠を宙に上げた。

『さよなら・・・、なのだ。』

そう心の中でつぶやき目を閉じた・・・。
と、その時・・・。



サッ・・・・。


妙な音に井宿は目を開けると、そこはまだ至t山であった。

『あれっ、オイラ失敗したのだ?』

そう思って笠を捜す。
その視線の先には・・・

なんと笠を手に持った翼宿がいた。


翼宿は自慢の俊足で井宿に駆け寄っていたのである。
そして勢いよく飛び上がって笠を空中でキャッチしていたのだ。

「翼宿?何をしているのだ、いったい・・・」
「これは返さへんで・・・。」
「・・・、なにを言ってるのだ?オイラはここを出て行きたいのだ。
それがないと困るのだ。さぁ、翼宿・・・。」
「いややで!」
「なんでなのだ?オイラは翼宿のために・・・」
「だから出てくな言うとるんや!!」
「えっ・・・?」

井宿には何がなんだかわからなかった。
昨日あそこまで自分を嫌いだと言っていたのに、今は出ていくなと言って
いるのである。
理解できるはずもない。


「どっどうしてなのだ?翼宿はオイラの嫌いではないのだ?」
「確かに・・・、確かに昨日井宿にあの、・・・されかけたときはそう
思ったで。でも、あの後今さっきまでずっと考えてたんや。その間も
井宿に言われた別れの言葉が頭ん中ずっと回ってた。」
「・・・・・。」
「で、朝日が昇ってきた時俺はなんでか焦ったんや。そして、なんでか
涙が出てきたんや・・・。」
「たすき・・・。」
「・・・・・、恥ずかしいな、ようわからん。俺、男やのに馬鹿みたいやな。
でも、俺それでわかったんや。俺が間違ってたんやて。俺は井宿の事が
好きやったんやって。離れとうない思たんも好きやったからやて。
やっとわかったんや・・・。」
「翼宿・・・。」

井宿はようやくわかった。
そしてとても嬉しかった。

『でも、オイラは昨日無理やり翼宿を抱いてしまったのだ。それはやはり
許してもらえないのだ・・・。』

そう思うとまだ疑いの気持ちも残った。

「本当なのだ?昨日オイラは翼宿を無理やり抱いてしまったのに、良いのだ?」
「へっ?何のことや、井宿」

翼宿はそういうとにっこり笑った。
井宿はそれでやっと自分の事を許せた。
そして翼宿が自分の事を許してくれたのだとわかった。
もう井宿に疑いの気持ちはなかった。

「ありがとうなのだ、翼宿。」
「俺の方こそ自分の気持ちに気づくん遅くて悪かったな。井宿はずっと
俺の事思とってくれてたんにな・・・。」
「良いのだ、今両思いになれたのだから・・・。」
「なんか、照れるな。」
「可愛いのだ、翼宿」
「何ぬかしとるんやっ」

翼宿は照れた。
井宿はそんな翼宿をまた可愛いと思った。
世界で1番可愛いと・・・

「そういえば・・・」
「ん?何や?」
「翼宿は男同士は嫌だったのではなかったのだ?」
「井宿もしつこいやっちゃな!もうどうでもいいんや!好きなもんは
好きなんや。」
「そうなのだ・・・。」

井宿にもう疑問はない。

「なぁ、井宿?」
「なんなのだ?」
「そのぉ、良かったら、ここに・・・ここにおってくれへんか?」
「え?」
「俺、もう井宿と離れとうないんや。なっええやろ?」

井宿にもう悩む事はない。

「可愛い恋人に頼まれたら断れないのだっ。」
「また可愛い言うたなお前は!」
「良いのだ。本当の事なのだ。」
「なっ・・・。」

翼宿はもう言い返せなかった・・・。

「そうやっ、これ返すなっ。」

そういうと翼宿は井宿にさっき取った笠を返した。

「だ〜!!!」
「なんや?!」
「笠がくしゃくしゃなのだ!」

笠は原型がわからなくなりそうな位くしゃくしゃになっていた。

「あっ、悪い井宿に返したない思て強く握ってたからや・・・。
すまんな井宿」
「すまんではすまないのだ!」
「あっ、今のシャレか?」
「誤魔化さないでほしいのだっ!」
「だからすまんて言うたやろ!」
「だからすまんではすまないのだ!」
「だから・・・。」

2人は同じやり取りをしている自分たちをどちらからともなく笑った。



「翼宿、これからはずっと一緒なのだ。」
「あぁ。」
「大好きなのだ」
「俺もやで・・・井宿。」


すると2人は口付けあった。





朝日が今地平線から今、完全に出てきていた・・・・・。











  ☆管理人からのコメント☆

とうとうやって来ました!最終回です!
皆様、ここまで読んで頂き本当にありがとうございました!感謝感激です!

いやぁ、にしても何度も脱線しかけたものの、最後にはなんとか直ってこうしてハッピーエンドに出来て良かった
です!一安心・・・。
今回の翼宿は本当に可愛いですねぇ。そう書いたのは私なのですが、出来て読み返してみるとますますそう感
じてしまうのです。こういう翼宿も私は大好きです!

本当はこの話は1番最初に書きたかったのですが(告白シーンもあることだし・・・)長編という事でサボってしま
いちょっと遅れてしまいました。これを読んだ後に短編を読むと一味違いますよ(多分・・・)!

今回は長い間読んで頂きありがとうございました!ではまたっ!






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