それぞれの思い 7



翼宿は手にしたものぎゅっと握って振り上げた・・・。



「井宿っ!今すぐやめぃ!さもないと俺はこれで自分燃やすでっ!」

井宿はハッとして、行為をやめてさっと目を上げた。
もしかして・・・。

翼宿が手に持っていたものは、やはり翼宿が愛用しているあの鉄扇であった。
それを頭の上から自分に向けていたのだ。

「本気なのか?!そんなことしたら死んでしまうぞ?!」
「ええで別に!」
「別にって・・・。俺はそんなことで死んで欲しくない!」
「だったら今すぐやめぃ!」

井宿は静かに翼宿の上から退いて立ち上がった。
でも、翼宿とは逆の方を向いている。
翼宿は鉄扇を下ろして服を着直した。

「・・・・・翼宿はそんなに嫌だったのか?」
「あぁ、むっちゃ嫌や。好きなら相手の承諾を取るやろ?!それもせんと
いきなり押し倒しおって・・・。お前は術までかけたんやで?そんなん
してまで俺を抱きたかったんか?俺は・・・、俺はそんな井宿キライや!!」
「うっ・・・・・。」

井宿は言い返せなかった。
その気力もなかった。
1番大好きな人にここまで言われたのだから・・・。
「そんな井宿キライや!」とはっきり言われてしまったのだから・・・。

翼宿の声は本気だった。
あのままやめなかったら本当に自分を燃やしていただろう。

『俺のせいだ・・・。俺が自分で好きな人に嫌われるような事をしたのだ。
もう翼宿はきっと声もかけてくれないだろう。見てもくれないだろう。
きっと・・・・・。』

そう考えるともう井宿は悲しくて、悔しくて、自分を怒った。
そして、決心した。



「すまなかったのだ。オイラが悪かったのだ。もうオイラの事は忘れて
欲しいのだ。
明日の朝早くにでもここを出て行くのだ・・・。・・・・・、さようなら、なのだ・・・・・。」
「・・・っちちり?」

井宿はその後何も言わず部屋を後にした。





井宿は自室に戻るとベッドに倒れこんだ・・・。
自暴自棄になっていた。


「おいらは馬鹿なのだ!馬鹿なのだ!」

そう言いながら手で膝を思い切り叩く。
そして頭を抱えた。

「もう翼宿はきっとオイラの事を見てくれないのだ。そんなふうにしたのは自分なのだ。
飛皋もオイラが手を離したせいで死んだ。そして翼宿も・・・、自分が
抱いてしまったせいでオイラの事を嫌いになった。オイラは自分の手で
2人も手の届かないところへ追いやってしまったのだ・・・。」

そして、井宿は涙を流した。
そして声をあげて泣いた・・・。





「・・・・・はぁ。・・・・・はぁ・・・・・。」

翼宿はさっきから何回も部屋を行ったり来たりしながらため息をついていた。

「きつく言い過ぎたやろか?・・・いいや、あれはあいつが悪いんや!
でも・・・」

翼宿はなぜかやりきれない気持ちでいた。
胸に穴が開いたような・・・


『さよなら、なのだ・・・。』

さっきから井宿の言った最後の言葉が頭から離れない。

「くそっ!」

頭をかきむしる。
でもまた聞こえてくる。

『さよなら、なのだ・・・。』

『・・・俺は間違ってたんか?』

さっきからこの結論にしか達しない。


朝日が昇ろうとしてきた。

翼宿は焦った・・・。


「ん?なんで俺は焦ってるんや・・・?訳わからん!」

考えに考えたが答えが出ない。
焦るばかりである。
その時また井宿の言葉が頭の中で響いた。

『さよなら、なのだ・・・。』



ポタンッ

「ん?なんや・・・?勝手に・・・」


翼宿の目からは涙が出ていた。
拭いても拭いてもとまらない。

「なんでや・・・?」


その時翼宿はわかった。

『俺・・・、本当は井宿の事・・・?そうや、きっと・・・。じゃあ、
俺はなんて事を・・・。井宿っ!』

「あっ、あいつ確か朝早く出る言うとった!」

ハッとして外を見る。
朝日があと少しで完璧に地平線から出る、という所まで昇っていた。

「あかん!泣いとる場合やない!井宿が行ってまう!」

井宿がああ言い切ったのだ。
行ってしまったら本当にもう2度と会わないつもりだろう。気を感じても
何もしないだろう。そうなったら翼宿にはコンタクトが取れる
可能性は限りなく0(ゼロ)になるだろう・・・。

「井宿、行くな!行くな〜!!!」

そう言って井宿の部屋へ駆けて行った。





井宿は門の外に立っていた。朝日が昇りきるまで、建物に向かって翼宿に
別れを告げているつもりだった。

「さよならなのだ・・・、翼宿。オイラ、もう一生君の前には顔を
出さないから安心するのだ・・・。オイラも翼宿の事は忘れるから、
どうかオイラの事も忘れてほしいのだ・・・。」

朝日が今にも昇りきりそうである。

「さよならなのだ、翼宿・・・」

未練はあったが、井宿はそれを振り切り笠を手に持った。





「・・・・はぁはぁ、井宿?!」

翼宿はなんとか井宿の部屋に着いたが、もう井宿はそこにはいなかった。
外を見ると朝日は今にも昇りきりそうである。
その時・・・

『さよならなのだ、翼宿・・・』

確かにそう聞こえた。
井宿の声が・・・。


「井宿?!行くな、行かんでくれ〜!!!」
そう叫ぶと翼宿は走り出した。

当てもなく建物の中を走った。
井宿を探す為、そして、自分の気持ちを言う為に・・・



「井宿〜!!!」











  ☆管理人からのコメント☆

いよいよ第7弾まで来ました! 翼宿は死ぬ、とまで言って井宿にやめさせる。あんなの本当に言われたらやはり
かなりショックでしょう・・・。私なんて寝込みそうだよ・・・。井宿今回もつらいなぁ・・・。だんだん暗くなってきちゃっ
てすみませんっ。ホント文句も受け付けますから(;;)

でも、翼宿はやっと自分の気持ちに気づきました。でも、その時はもう朝・・・。翼宿は井宿をとめられるのか?
次回感動の(?)最終回!!






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