君の面影に惹かれ・・・



翼宿は無我夢中で川に飛び込んだ。

『あっ、あかん。俺泳げなかったんや…』

そう、翼宿はカナヅチなのである。
でも・・・そうも言ってられない。

『また目の前であいつを失うんは嫌や・・・。あいつだけは・・・。』

そう強く思い込んだ。
そしてなんとかして子供の所まで着いて服を力一杯握った。

もう2度と離すまいと・・・。



「翼宿っ?!」

井宿は翼宿が川に飛び込む瞬間を見た。

「翼宿っ、君は泳げないのだ〜!」

とても心配である。
子供ではなく翼宿が溺れてしまうのではないかと・・・。

「翼宿〜!!!」



翼宿は真っ暗闇の中にいた。

『・・・ここは?』

その時向こうに綺麗な野原が見えた。

『おう、綺麗やなぁ。』

そう思うとそれに惹かれるように歩き出した。

あと少しで野原へ入れるという所まできたその時・・・

『・・・う! げんろう!』

『えっ?』

何処からか声がした。
その声は昔聞いた人の声に似ていて、翼宿はハッとしてその人の名前を
呼んだ。

『玲麗か?』
『幻狼!』
『玲麗!』

翼宿は嬉しかった。

『お前もそこにいるんか?俺も今行く!』

翼宿は今すぐにでも会いたくて駆け出そうとした。しかし・・・

『幻狼っ、駄目!』
『えっ?なんでや?!どうして行っちゃいかんのや?玲麗!』
『幻狼にはまだいるべき場所があるんだ!だから駄目!』
『訳が分からんのや!』

『さっきは偉かったやん…。今度は守れたやん。』
『えっ・・・・・。』

・・・そうだ。俺はさっきガキ助けよ思って・・・。


『・・・・・き!たすき!』

今度はまた違う声がする。

『ほらっ、あんたの大切な人が呼んでる。行きなっ。』
『玲麗、ちっちょっ…』
『また会おうね。大好きだよ・・・』

『玲麗〜!!!』





井宿は何度も呼びかけた。
「翼宿、翼宿!」

反応してくれない。
まさか・・・まさか?!

「死ぬな・・・翼宿〜!」
「・・っ麗!」

井宿はハッとした。
翼宿が生きている事は嬉しかった。

でも、同時に悲しさも隠せない。
翼宿は今自分ではない名前を呼んだのである。


「玲麗〜!!!」
「翼宿っ!」
「っは!はぁはぁ・・・」
「良かったのだ、気がついたのだ」
「ち・・・井宿。俺・・・。」
「翼宿、子供を助けた後気絶してしまったのだ。まったく自分は
泳げないって事を忘れてはいけないのだ。」

井宿はさっきの事が気になりながらも普通を装って言った。

「そうか・・・。で、そのガキは?」
「無事なのだ。」
「そうか・・・、良かった。」

翼宿は満足そうだった。
しかし、井宿は納得いかない。

「何故こんなことしたのだ?」
「そりゃ、もちろんガキ助けよ思って・・・。」
「・・・、それだけではないのだ?」
「なっ、何言ってるん・・・」
「翼宿、目が覚める前に玲麗と呼んでたのだ・・・。」

翼宿はハッとした。
夢の中だけで叫んでたと思ったのに・・・

「聞かれてもうたか・・・」
「玲麗とはだれなのだ?助けた子の名前とは違うのだ!」

井宿はちょっとやきもちを焼いたのか、口調が強くなっていた。

「あのガキ、玲麗に似てたんや・・・。」
「玲麗とは一体誰なのだ?」

井宿の口調は更に強くなった。

「わかった、説明する。」

翼宿は今まで誰にも言ってなかった自分の過去、玲麗との事を井宿に
語った。





「そうだったのだ・・・。」

井宿はそうとしか言えなかった。
翼宿にそんな過去があるとは思ってもいなかった。
さっきの怒りはどこか行ってしまった。

しばらく沈黙が流れたのち、翼宿から口を開く。


「あのガキ、その玲麗に似てたんや。2度も俺の目の前で失いとう
なくて・・・、せやから・・・。」

井宿は翼宿の気持ちが良く分かった。
自分も昔目の前で大切な人を失ったから・・・。
自分でも同じ事をしていただろう。
でも・・・。

「それはわかったのだ。でも、それで翼宿が死んでいたら、翼宿は
オイラにまた同じような思いをさせてたのだ・・・。そしたら、
オイラ今度は立ち直れないのだ。」

翼宿は何も言えない。
その時は無我夢中だったから考えてなかったが、今思えばそうである・・・。

「すまん。悪かった、井宿・・・。」
「それではすまないのだ・・・」

翼宿はうつむいていた。
そんな翼宿に井宿は近寄り頬に手をあてて顔を上げさせいきなり口付けた。

「んふ・・・。」

翼宿はいきなりの事で戸惑いを隠せない。
しかし、だんだん激しくなっていくにつれ、翼宿は井宿のすることに
答えていった・・・。

しばらくしてお互い口を離す。
「ん・・・、ちちり・・・。」
「今日のお仕置きなのだ。」

そう言って井宿は翼宿の上に乗る。

「こんなに冷え切ってるのだ・・・。お仕置きも兼ねてオイラが暖めて
あげるのだ。」
「井宿・・・。」
「愛してるのだ、翼宿・・・」
「俺も・・・、好きやで。今日はすまんな、もうせん。」
「わかってくれれば良いのだ。でも今日は眠らせないのだ。」
「死にかけたやつにそりゃないやろ!」
「だからお仕置きなのだ」

「・・・、お前やっぱ鬼畜やな。」
「そう言って貰えると光栄なのだ。」
「褒め言葉とちゃうで・・・。」
「翼宿が言えば何でも褒め言葉なのだ」

惚気である・・・・・。

「勝手にしい!」
「そうさせてもらうのだ♪」


「そういえば・・・。」
「ん?なんや?」
「翼宿は、目が覚める前になんでその子の名前を叫んでたのだ?」

「ん?あぁ、夢で玲麗と話してたんや。」
「夢で?翼宿はそんなロマンチックだったのだ?」
「余計なお世話や!・・・夢の中で真っ暗な中に綺麗な野原があって、
そこに行こうとした時、いきなり呼ばれたんや。そして元の所に戻るように、
それと、今度は助けられたやんか、て・・・。」
「そうだったのだ。」
「あと、最後にまた会おうなって・・・。それと・・・・・」
「それと?」
「・・・大好きやって。」
「えっ?」

井宿はカチンと来た。

「そうなのだ・・・?」
「あっ・・・その・・・」

翼宿はしまったと思った。
でももう遅い・・・

「今日はつらいお仕置き決定なのだ!!!」
「あ〜それは堪忍や〜!」



2人の夜は長い・・・











  ☆管理人からのコメント☆

井宿惚気てます(−−;) いやぁ、このネタも書いてみたかったのです!私としては一応満足です(^^)

にしても、今回は外伝のネタを含んでしまいました。読んでない方はすみません(汗)詳しくは小学館パレット文庫
「ふしぎ遊戯外伝1」を参照してください!