言いたくて。



「「えっ?!」」

亢宿と角宿は同時に心宿に聞き返していた。

「何度も言わすな。 これから亢宿には間者として紅南国に行ってもらう。」


それは亢宿と角宿が倶東国の宮殿に来てまだ5日目のことだった。
宮殿にもやっと慣れて、初めての命令だった。

「でも、よっぽどの事がない限り危なくはないのですか?」

心宿は嘲るように笑った。

「案ずるな、亢宿。朱雀どもは今残りの1人張宿を探している。だから、
張宿として潜り込むのだ。」
「でも、本物の張宿が出てきたら危ないじゃないか!」

心宿は更に嘲笑した。

「だから亢宿なのだ。」
「えっ?」
「角宿、お前はまだ技も未熟だ。それに気性が激しい。更に、
今お前が言ったように本物の張宿が出てきても、亢宿なら
即朱雀のものを1度に殺す事もできる。わかったか?」
「でも・・・」

角宿には言い返せなかった。でも、そんな危険な事を亢宿にさせたくない。
それに、まだ亢宿には伝えてないが、角宿は・・・
兄として以上に、この気持ちがあるから尚更危険な事をして欲しくない。

「わかりました。で、いつ出立すれば?」
「兄キ?」
「それは後日連絡する。だが少なくとも1週間しないうちに出立して
もらう事になる。」
「わかりました。」
「兄キ!」
「もう下がってよい。」
「失礼します。」

亢宿は納得のいかない様子の角宿を引っ張るようにして心宿の部屋を出た。


「兄キ、なんであんな命令受けたんだよ!」
「角宿、将軍の命は絶対なんだよ。それに、角宿にこんな危ない事は
させられないし・・・。」
「俺はそんなに弱くない!第一これを兄キがやらなくちゃいけない
わけじゃないだろ!?」

角宿は1つも納得できなかった。

「角宿、わがまま言うな。大丈夫、ちゃんと帰ってくるから。
僕が最後の1人なら、朱雀の人たちは僕が現れたらすぐ儀式をするだろう。
それを失敗させたら帰ってこられるんだから。な?」
「でも・・・。」

角宿はこの気持ちを言ってしまおうか悩んだ。
でも、これを言ったら兄は確実に悩むだろう。
自分のせいで兄を悩ませたくはなかった。

「でも、やっぱり嫌だ!だったら俺が行く!」
「角宿!お前では危ない!」
「嫌だ!」

言ってしまいたい、この気持ちを・・・。
でも・・・。

「とにかく嫌だ!」

「わがまま言うな、角宿!!」


「・・・・だよ。」
「え?なんだ?」


「俺はずっと前から兄キが、亢宿の事が好きなんだ!」



亢宿は驚いた。
血の繋がった実の双子の弟からの告白、しかも名前で呼ばれたのである。



「なっ、なに言ってるんだ・・・。第一僕たちは双子なん・・・。」
「双子なんて関係ないだろ!俺はずっとこの気持ちを隠してきた。
亢宿を困らせたくなかったから・・・。でも亢宿が俺の気持ちわかって
くれなかったから、行って欲しくないって気持ち。だから・・・。」

亢宿は角宿の予想通りとっても困った。
自分の気持ちが良く分からなかった。
だからと言って、適当に答えるなんてできないし、角宿が本気で
怒りかねない。

「僕はお前の気持ちには答えられない。お前は大切の僕の「弟」だ。」
「くっ・・・・・・、そうか、ごめん兄キ、困らせて・・・。今のは
忘れてくれ。・・・、お休み。」


その日、角宿は初めて亢宿と離れて顔も見ずに寝た。



「それでは行ってきます。」
「連絡はこちらからは行わない。そちらからのみ、角宿を通して
行うのだ。」
「はい。」
「ん?角宿はどうした?」
「部屋で別れは言ってきました。」
「ふんっ、喧嘩でもしたのか?」
「いっいえ、そんなことはありません。」
「ふっ、そうか。」

心宿は嘲笑した。

「では、行って来い。」
「はい、行ってきます。」


角宿は遠くから兄が出かけるのを見送っていた。
自分が兄を傷つけてしまった。
言わなければ良かった。
自分の本当の気持ちなど・・・。

傷つけたくなかったのに・・・





あれから1ヶ月。

こんな長い間兄から離れたのは初めてだった。
しかも、あの気持ちを告げてから兄への、亢宿への気持ちは更に
増していた。
受け入れられる事はないのに・・・。

・・・その時

「っつ!」
「あっ、兄キ!」

兄からの連絡が腕に浮き上がる。

「あにき・・・。いよいよ儀式なのか。兄キ・・・、大丈夫だよね?」

角宿は心宿にこの事を知らせに行った。










それから数十分・・・。


『−−−−−ビクンッ』

「兄キ・・・、兄キ!?」

「兄キの気が消えた・・・。」

朱雀のやつらに殺された!?

「そんな・・・。・・・兄キ・・・」


「兄キーっ!!!」





「・・・きしょう・・・。ちきしょう・・・!!」

角宿は泣いていた。
すると、突然誰かの温もりを感じた。

見るとこの前自己紹介した少女が自分の事を抱いていた。

兄に抱かれたような感覚にとらわれた。
すごく懐かしく、それでいて手に入れる事のできなかった愛しい人の
温もり。
抱えていた気持ちが一気に流れ出てきた。

「うっ・・・」

思い切り泣いた。
この少女、青龍の巫女である唯と、愛しい我が兄の温もりを
重ねて・・・



「あにき・・・」

恥ずかしいが、女の子の胸の中で泣いた事で少しは気持ちがすっきり
した。
角宿は部屋にある兄のものを片付けることにした・・・。



『・・・ぼし?』


「・・・・・え?」

兄の声がした気がした。

「気にせい・・・だよな?」


『すぼし・・・?角宿!』

「兄キ?・・・兄キなのか?!」

『ごめんな角宿、約束守れなかった・・・。』
「兄キ、兄キ?生きてるよね死んでなんかないんだよね?」

『・・・ごめんな、角宿。僕はもうお前の前にはいけない。でも、
わかってくれ、朱雀の人たちは悪くないんだ。むしろ悪いのは・・・、
僕たち青龍側かもしれない。わかってくれ、角宿・・・。お前は
僕のようにならないで、生きてくれ・・・。』

「嫌だ!俺のそばにいてくれよ!兄キ兄キ!!」

『最後に聞いてくれ。』
「嫌だ!最後なんていわないでくれよ!俺兄キの事大好きなんだよ!
兄キとしても、亢宿としても!!」
『僕はこの1ヶ月お前から初めて離れて暮らしてわかったんだ。
僕も・・・、僕もお前と同じ気持ちだったんだ。』

「・・・え?どういう・・・」
『僕もお前の事が、角宿のことが弟として以上に好きだったんだって、
わかったんだ。』
「兄キ・・・」
『僕は馬鹿だな。今頃気づくなんて、近くにいられなくなってから
気づくなんて・・・。遅すぎるよな。・・・僕のことなんか忘れて
生きてくれ。』

「なんで忘れろなんていうんだよぉ。せっかく両思いになれたのに・・・。
忘れるもんか・・・、忘れるもんか!」
『それだけで僕は嬉しいよ。 1回で良いから・・・お前に抱かれたかったな。
じゃあな、また会えるよ、きっと・・・』
「兄キ・・・?」

『・・・・・』



「兄キ〜〜〜!!!!!」





「・・・・・、ちょっと、あんた?あそこの川岸に人が倒れてるよ!」
「・・・え?」

「ほら!ちょっとあんた?!」
「しっかりしろ!」

「あんた・・・、この子、懐可と同い年位だね。」
「そうだなぁ」
「・・・ねぇ、この子私たちで育てようよ。」
「えっ?」
「きっとこの洪水に巻き込まれたんだ。家族もわからないし・・・。
第一見捨てられないじゃないか」
「・・・、そうだな。」


「・・・ん?」
「おっ、気がついた。」
「ん?ここは・・・、僕は・・・、誰ですか?」
「・・・、この子記憶が・・・」
「・・・お前は懐可、懐可だよ。」

その男はそう答えた。

「・・・、懐可?懐可・・・。」
「そうだよ、これからよろしくね。」





この懐可があの洪水に巻き込まれた亢宿であり、その亢宿が本当は記憶を
なくしていなく、再び朱雀や青龍の人たちに会い戦うのはまた別のお話・・・。











  ☆管理人からのコメント☆

短編なのに長くなってしまいました(^^;)でもでも、書いてみたかった角×亢。今までの中では1番の出来のような
気がします。

今回はかなりシリアスでした。せっかく角宿は両思いになれたのに、その時にはもう亢宿はこの世にいない(ことに
なっている)んですから・・・。
文句メールもドシドシ(^^;)