罰ゲーム


「翼宿〜!」
「おうっ、どないしたんや、井宿?」
「じゃんけんしようなのだ〜!」
「じゃんけん?なんやそれ・・・。」
「美朱に教えてもらったのだ。手で3種類の形を作って、それを同時に
出して勝ち負けを競うのだ。掌を握ったのを「ぐー」、開いたのを
「ぱー」、人差し指と中指を出したのを「ちょき」と言って、ぐーは
ちょき、ちょきはぱー、ぱーはぐーに勝つのだ。」
「ちょちょ、ちょい待てや!そんなん早う説明されても俺にはわからへん!」
「やってみると簡単なのだっ。」

そういうと井宿はゆっくりと実際に翼宿にやって見せる。
翼宿はそれでなんとか理解出来たようだ。

「な〜るほど、確かに簡単やな。」
「そうなのだ!」
「じゃあ、さっそくやるで〜!」
「ちょっと待ったのだ!」

井宿は翼宿を止める。

「なんや?」
「まだルールがあるのだ。」
「まだあるんか〜!?俺もう頭に入れられへん・・・。」
「簡単なのだ。ただ、負けた人には罰ゲームがある、という事なのだ。」
「罰ゲーム?!」
「そうなのだ。」
「一体なにやるんや〜?」
「それは自由に決めて良いのだ。今回のは・・・、「女装」で
どうなのだ?」
「女装〜!?」
「そうなのだっ。」

井宿は実はこれを狙っていたのである。
井宿は美朱にこれを習った後みんなで(翼宿を除いて・・・)じゃんけん
大会をした所、1人で軽く6人抜きをしたのである。
それをした時、フッとこれを思いついたのである。

『オイラじゃんけんは強かったのだ。これで翼宿に罰ゲーム付きで勝てば、
翼宿の女装姿が見られるのだ〜w』

・・・などと考え付いたのである。

もちろん、翼宿は井宿がじゃんけんに強いなどとは知らない。
井宿にとってとても有利な試合になってしまったのである。

「お〜し!やったろやないか!」

そんなことを知らない翼宿は、考えもせずにOKを出してしまった。
井宿は心の中で笑った。

『これで翼宿の女装姿が見られるのだ〜!それで、露出度の高い洋服を
着せて、でっでも、そしたら外に出られないのだ!
そしたら、部屋の中で押し倒してしまうのだ!そうなのだ!』

などとさっそく色々な事を考えている。
井宿は楽しみで仕方ない。

「では、やるのだっ!オイラが「じゃ〜んけん」と言ったらその後に
同時に出すのだ!3回先に勝った方が勝ちなのだ。」
「わかったで!」
「いくのだっ!じゃ〜んけん・・・」
「「ぽんっ!!!」」



「おぉ〜!」


そこに女装して立っていたのは・・・

「ちちり・・・、きれいやでぇ・・・。」

なんと井宿であった。

井宿はすっごく自信満々で望んだのだが、なんとあっさりと翼宿が
3連勝して勝負がついたのである。
翼宿は勝負がついた後さりげなくこう言っていた。

「俺、昔っから勝負事は負けたことないんや。やっぱ腕なまっとらんかったわ」

こんな筈じゃなかったのだ・・・。翼宿が勝負事に強いなんて知らなかったのだ。

「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないのだっ!それよりこれ、恥ずかしいのだ〜。」
「そんな事ないで!むっちゃ綺麗やで・・・。俺なら、こんな女が街
歩いてたら一目惚れしてまうで・・・。」
「ムッ!元のオイラではいやなのだ?」
「あっ、別にそんなんや・・・」
「嘘なのだ!やっぱオイラより、男より女の方が良いのだ。」
「そんなんやない!俺は井宿が1番や!井宿の女装だからこそや!」
「もう良いのだ。わかったのだ・・・。」

井宿はまったく聞く耳を待たない。

翼宿があれこれ悩んでいると、井宿はサッと錫杖を持ち上げた。

「ちちりっ、なにしようと・・・」

ドロンッ

「なにしとるんやっ!?」
「私が女なら良いんでしょ!」

なんと井宿は本物の女性に変身したのだ。

「なに言うとるんや!こんなん井宿ちゃう!口調まで変えおってからに!」
「私は私よ!」
「いや、こんなんちゃう!」

井宿と翼宿はお互い顔を見つめあう。

「・・・もう良いわ。さて、せっかく女性に変身したんだし街に出たいな。
翼宿、行きましょ〜。」

そういうと女体井宿(笑)は翼宿の手をとる。

「なっなに言うとるんや!?第一、そんな格好で出たら危ないやんか!」
「だったら翼宿が守ってくれるでしょ?」
「そんなん言われても・・・。第一俺は女は好かん!」
「さぁ、行きましょっ!」

女体井宿は翼宿に有無も言わさずに手を引っ張る。

「ちちょっと待てや!」

井宿は力いっぱい引っ張る。

『あ〜、これやから女は好かんのや!あっ、でも、こいつ元は男やし・・・、
でも、今の体は女なんや・・・。
あぁ〜もう訳わからん!』

こんな事を考えながら、翼宿は仕方なく井宿についていくのだった・・・。



「ほらっ翼宿、速く〜!」
「ったく、待てっちゅうに・・・。」

翼宿は井宿と街に出てきた後、さんざん連れまわされて、もうくたくたに
なっていた。

「井宿、ほんまに元気やな〜。待てっちゅうに!」

翼宿は井宿に追いつこうと駆け出した。
追いつくと井宿の細い腕を力強く掴んでしまった。

「痛っ。」
「あっ、悪い・・・。」
「女の子には気をつけてよっ。」
「あ、あぁ・・・、すまんな。」

翼宿は非常に違和感を感じていた。
自分の好きな人は確かに目の前にいる井宿なのだが、どうも違う。
そんな気がしてならないのだ。

「さっ、もっと回りましょっ。私1度で良いから翼宿と恋人みたいに
街を歩きたかったんだ〜。」
「えっ?」
「さぁ・・・」

と言うと、井宿は一方的に翼宿と腕を組んた。
更に、頭を肩に乗せてきた。

「ちょっこんなとこで・・・」
「私たち男と女なんだから別に関係ないじゃない!」
「そりゃそうやけど・・・、やなくて!」

やっぱり、翼宿は女の人とこうして歩きたいのだ・・・。

「ん?なんか言うたか?」
「なんでもないわっ。さっ、速く行きましょ!」

そういうと井宿は翼宿の腕を引っ張るように歩き出す。
翼宿は静かについていった。



しばらく行くと、2人は川原に出た。
井宿は川岸にそっと腰掛けた。
翼宿も隣に座る。

「翼宿とこうしていられて嬉しいな。」
「井宿・・・。」
「でも、翼宿は女の人の方が好きなんだね・・・」
「え・・・?」
「私、今は女なんだよ・・・」

すっ・・・

井宿は翼宿の首に腕を回してきた。
にっこり笑っているその顔は、いつものお面の顔で・・・。

ドキッ

翼宿の胸が一瞬高鳴った。
でも、いつもの井宿の顔であるのに、すごく違和感を感じた。

井宿は目を閉じ、そのまま顔を近づけてきた。
もうあと少しで唇と唇が接しそうになった時、


ふっ・・・・・

「たすき?」

翼宿は顔を背けたのである。

「やっぱちゃう・・・。」
「何が違うのだ!?オイラはオイラなのだ!・・・あっ。」

井宿は自分の口調が戻ってしまった事気づき口をおさえる。

翼宿は一瞬悩んだのだが、やはり言うことにした。

「俺の好きな井宿はな、今みたいに話してて、袈裟に笠・錫杖なんか
持ってて、お面つけた顔でにっこり笑うてくれて、時々お面を外して
寂しそな顔してて・・・。でも俺にはすんごく優しゅうて、それで・・・」
「たすき・・・」
「あ〜もうわけわからん!でも、俺にはいつもの井宿やないと駄目なんやっ!
いつもの、男の井宿やないと駄目なんやっ!!」

翼宿はうつむいた。

そのまま泣いていた・・・。


井宿は胸がチクッとした。
そして、自分がした事は、言った事は間違っていたのだとわかった・・・。

「翼宿、もう良いのだ・・・オイラが間違っていたのだ。」

ドロンッ・・・

「うっ・・・ちちっ・・り・・・」

ぎゅっ

「ほら、もう本当の、いつものオイラに戻ったのだ。
だから泣かないでほしいのだ。翼宿・・・」

井宿は翼宿を強く、強く抱き締めた。
翼宿はそのまま井宿の胸の中で泣き続けた。



落ち着いた頃、井宿は優しく涙を拭ってやった。

『あぁ、井宿や。いつもの井宿や・・・』

井宿に笑ってみせる。
そして、そのまま目を閉じた。


夕日を浴びながら、2人は長い間口付けを交わした。
長く、熱い口付けを・・・。





あの後しばらくして、2人は仲良く手をつないで宮殿への道を歩いていた。

「本当にすまかったのだ。」
「もうあんなんは堪忍な。やっぱ俺、女は好かん。
ていうか、なんでこんなんになったんやっけ?」

2人は真剣に考えてしまった。

「あっ!確かオイラがじゃんけんをやろうと言い出したからなのだ。」
「お〜、そやった!でも、勝ったんは俺やなかったか?」
「う〜ん、確かそうだったのだ。」

翼宿は再び真剣に悩む。

「結局俺が罰ゲームやらされたみたいやないか・・・。まったく、
だから女は好かんのや・・・。」
「あれっ、オイラの女装姿を見た時、俺なら、こんな女が街歩いてたら
一目惚れしてまうで、と言ってたのは誰なのだ?」

翼宿はちょっと顔を赤く染める。

「あああれは、井宿だったからやで・・・。そん後言うたやん。」
「知らないのだ。」
「知らないって・・・、あっ!もしかしてあん時すでに理性吹っ飛んで
たんとちゃうか〜!?」

井宿は人差し指を顎に当てちょっと考えてみた。

「そういえばそんな気もするのだ。」
「そんなあっさり肯定すんなっ!
・・・ほんまに俺の罰ゲームやで、これ・・・」
「きっと負けた者勝ちのゲームだったのだっ。」
「なんやそれ〜!?今更そんなんありか〜!」
「ありなのだっ。」
「あぁ〜井宿が得したままはいやや!も1回やろうやっ!」

翼宿はやる気満々である。

「望む所なのだ〜!」
「今度は勝った者勝ちの3回勝負や!」
「わかったのだ!」
「ほな行くで!じゃ〜んけん・・・」

「「ポンッ!」」


「あっ・・・。」

翼宿はぐー
井宿は・・・?





「やったのだ〜。翼宿の負けなのだ〜。
さて今度の罰ゲームは何にしようかなのだ〜♪」

井宿は、ぱーを出していたのである。



結局この2人の場合、翼宿が悪い目にあうのが恒例なのであった・・・。











  ☆管理人からのコメント☆

今回はいつもイラスト、その他私に沢山贈り物をして下さってるみずち様のリクエストで書きました。「女体変身井宿
と翼宿」と言う事で書きました〜。
いやぁ、女の井宿に翼宿を攻めさせるのはちょっと大変でした。やっぱり翼宿は受けではないと、思ったんで(^^;)
みずち様も同じく井×翼ファンなので、井宿には攻めでいてもらいました!

いやぁ、でも今回のは自分で書いててなんとなくわからなくなってきそうでした・・・。

みずち様へ>いつもありがとうございます!
リクエストに合っていたでしょうか(?O?)