天使の雪 下巻



ちょっと出かけてくる


そう言って芳准が家を飛び出してから、すでに30分は経過していた。


「芳准、遅いなぁ・・・何してるんやろ・・・」

俊宇は、芳准が出ていった時のまま、玄関に座り込んでいた。

しかし、さすがに足腰が冷えてきた。
こんな所を芳准に見られたら
「腰を冷やしてはいけないのだ〜!大事な体に何かあったら
どうするのだ?!」
などと言われてしまうであろう・・・

そんな事を思い出してしまい、急に恥ずかしくなってきた。
リビングへ戻ろうと思い、ちょうど立ち上がった時、玄関のチャイムが
鳴り響いた。

「ん?芳准やろか?」

芳准ならわざわざチャイムを鳴らす事はないのだろうが・・・
それでも、ついつい期待してしまうのであった


「はいっ、今開けるでっ!」

ガチャッ


芳准か、と思って開けたドアの向こうにいたのは、見知らぬ人で
あった。

「・・・どなたさんですか?」

来ているコートからして、女性だろうか
女性にしては、かなり背が高い気がする。
顔を見たいのだが、フードを被っているうえに、下を向いているため
良く見えない。


「部屋間違えたんか?ここ、あんたの家とちゃうで?」
「・・・・・いいえ」

どこかで聞いた声な気がする。
いや、もっと良く知っているような・・・

「ここは私の家なのだ」

『ん?「なのだ」?!』

「私」と言ったのは気になるが、この口調、それにこの声・・・



「もしかして、芳准か?!」
「あったりなのだ〜!!」

そう叫ぶと同時に、芳准は俊宇に飛び付いた。

「俊宇〜どうしてしぐわかってくれなかったのだ〜オイラ寂しいのだ〜」
「せ、せやかてっ、そんな格好してたらわからないのも当たり前や!
ってか、そのコートどないしたんや?!」

そう、芳准は女物のロングコートを着ていたのだ。
それも、真っ赤の・・・
しかも、フードにはふわふわのファーがついている

下にはズボンをはいていたが、男には見えなかった。

「それにしても、どうしてそんな格好しとるんや?」

もっともな質問である。
「だって、俊宇が『普通』に見えれば良いって、そう言ったのだ。」
「は?」

未だに状況が掴みきれない。

「だから、オイラが女の格好していたら、2人で歩いても恋人にしか
見えないのだ。
わざわざ美朱ちゃんの家まで行ってきて借りてきたのだ〜w」

・・・、ようやく理解できた

つまり、芳准は自分が女装し、まるで普通のカップルのように
出かけようと言っているのだ。


「せっせやかて、芳准はそれでええんか・・・?」

芳准は優しく微笑みかけながら俊宇の頬に手を重ねる。

「オイラは、俊宇のためならなんでもするのだ」
その優しさが嬉しかった。
芳准のためなら、何でもしてあげたくなる。

俊宇は真っ赤になりながら、芳准の腕を引っ張る。

「ほな、はよ行こか・・・」
「だ〜!」

芳准が自分の腕を俊宇のに絡める
何から何まで、女の子のふりをしている。

こうして、夜になってやっと、2人のクリスマスデートが実現した





今まで2人では出かけた事のない所まで出かけた。

遅い夕食を、デートにもってこいと言われるレストランでとり
2人で仲良く街中を歩いた。

街はあちこちイルミネーションが飾られて、とても綺麗である。

「綺麗やな・・・」
「そうなのだ・・・
あっ、俊宇あっちに行こうなのだ!」

人をかき分けぐいぐいと進んでいく。



足下ばかり見ていたので、芳准が突然立ち止まったのに
対応できなかった。

「いてっ!」
「大丈夫なのだ?!」
「急に止まんなや、ったく・・・?!」

顔を上げると目の前には・・・

「これ・・・うちの窓から見える・・・・・」
「俊宇はこれを見たかったのだ?」

目の前には、天までそびえるような、大きなクリスマスツリー


「・・・芳准には、何でもお見通しなんやな・・・・・」


そう
俊宇が今日1日ずっと悩んでいた事の大きな原因は、
まさにこれであったのだ。

芳准と、このクリスマスツリーを一緒に見たかった
普通の恋人みたいに・・・

その夢がかなった


「芳准、ほんまありがとな・・・俺、こんな幸せなクリスマス、
初めてや・・・」
「オイラも、俊宇にこんなに喜んでもらえて、ホントに幸せなのだ・・・
女装したかいがあったのだ♪」

最後はちゃかすように囁かれた。

「ホントに、そないな格好させてごめんな・・・
いつか、普通なんて気にならない日がくるまで、待っててくれな」
「無理しなくて良いのだ。オイラは俊宇のためなら、
こんな事どってことないのだ」

俊宇の顔が自然とほころぶ。


2人の唇が自然と触れ合う。
軽く触れるだけの優しいキス



それだけで、俊宇の心は満たされた。

しかし、ふと回りの反応が気になってしまい、
キョロキョロ辺りを見渡した。

「大丈夫なのだ。みんな、自分たちの事でいっぱいなのだ」

芳准の言葉どおり、みんな2人だけの世界に入っている。

「オイラたちも、仲間入りなのだ♪」

くすり、と芳准は笑った。



「あっ!」

芳准が空を見上げる。

白い花のような雪
風がないせいか、静かにひらひらと舞い降りてくる。


芳准が俊宇の手を取る。
自分の手のひらの上に俊宇の手を重ね、空へ差し出す。
空から舞い降りた花は、2人の手のひらの中に舞い降りた。
そのまま、優しく包みこむ。


「俊宇。エンジェルスノウって、知ってるのだ?」
「エンジェルスノウ?」
「そうなのだ。」


その年の初雪には天使が舞い降りてくる、と言われている。
そんな雪を2人で掴んだ恋人たちは、永遠に幸せになれる

そんな素敵な言い伝え


「オイラたちが、その言い伝えを本当の事にしようなのだ・・・」
「そやな。ずっと一緒にいような。」

握られたままの手に力が込められる。

「愛してるのだ。」
「・・・俺もや・・・・・」


顔を赤らめながら、言う俊宇が本当にいとおしい。



再び2人の唇が触れ合った

甘く、優しいキス





手の中のエンジェルスノウが、2人の中に溶けていく

2人が、1つでいられるように、と・・・・・











  ☆管理人からのコメント☆

メリークリスマス

さて、25日配布分ですw
やっと完結!! どうでしたでしょうか・・・?

なんとか間に合わす事が出来ました〜(^^;)
かなりの急展開でした〜(笑)
今回の翼宿はかなり自分の気持ちを率直に出してる方でした〜
ちょこっと私の翼宿へのイメージとはずれてしまったのですが、
この話ではこれで上手く収まったのではないかと思います(^^)

ちなみに、「エンジェルスノウ」とはフジTVの「ラストクリスマス」に
出てきたものを、言い伝えの内容を少し変えて使わせていただきましたw
この小説の題名も、ここから来ていますw

にしても、1番失敗したのがイラスト・・・
イラストを描く、というつもりでこの小説を描かなかったので、
井宿が女装することになっている事を忘れていました(爆)
うひゃ〜翼宿のお相手が女性に見える〜(・・;)
まずった〜><
皆様!!お許しを〜;;
※写真はATELIER M様からお借りしました☆