腕輪がくれた出会い



夢を見た。

今まですっかり忘れていた、まだ自分が若い頃の事

その中に、お前がいた・・・・・



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夕方
雲1つない、とても綺麗な空の日・・・


遠くの街まで買い物に来ていた帰りであった。

声が聞こえてきた。
そちらの方へと歩いていく。
高い声をしていたが、どうやら少年のようだ。
なにか独り言を言っているようだ。


「まったく、姉貴の奴、いっつも俺をこき使いおって・・・」

少年は木陰に1人で座っていた。
まだ6・7歳といったところであろうか。

声をかけた。

「僕、どうしたの?」
「俺、もうあんな家嫌なんや・・・」
「お家でなにかあったの?」

その少年に優しく問いかけた。

「姉貴が、いっつも俺の事こきつかうんや・・・。親父以外、男は
俺しかいないからって。もう俺嫌なんや!
もう、家出してやる!!」

少年はすっくと立ち上がると駆け出そうとしていた。
必死でそれを止めた。

「放せや!!」
「駄目だよ、そんな事で家出ちゃ!!第一、1人で生きていけるのか?!」
「うっそれは・・・」

少年は俯いていた。

自分は何かを思いつくと自分の付けていた腕輪をはずした。

「じゃあ、俺から良い物あげるよ。」
「良い物?」
「君が、どんな事にも負けないでいられるお守りだよ」

そう言って、自分は先ほど外した腕輪を少年につけてあげた。

「これがそうなん?」
「そうだよ。」

もちろん嘘だった。
でも、家出しようとしている、しかもまだ幼い子供を見逃す事は
出来なかった。

騙しているという罪悪感もあった。
でも、信じればきっと良い方向へ進むと信じていた。

「うわ〜綺麗やな〜。ありがとな!!」

少年は自分を見ると先ほどまでが嘘のように満面の笑みを向けた。
無邪気な笑い顔
夕日のようにオレンジ色に輝く髪

一瞬その姿に心奪われていた。


「ほんまにありがとう!これもって頑張るで!!」
「う、うん。
さぁ、もう日が暮れるぞ。お母さんやお姉さんが心配する。」
「うん、ありがとな〜!!」

そう言って自分に背を向けると去っていった。

そういえば・・・・・

「ねぇ、君!名前はなんて言うんだ〜?」

少年は立ち止まると振り返ってこう言った。

「俺の名前は、・・・・・」

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目が覚めた。

ずっと昔の、もう忘れてしまっていた事を、井宿は夢に見た。
体を起こして、もう1度今の夢を思い出そうとする。

「あれは、誰だったのだ?最後に名前を言っていたのだ・・・」

でも、それを聞く前に目が覚めてしまった。

「はぁ。すっかり忘れていたのだ、あんな事があったなんて・・・・・
それにしても・・・」

最後、自分に笑いかけた無邪気な笑顔
一瞬心奪われた、あの笑顔。

「もしかしたら、オイラが同姓を好きになったのは、あれが初めて
だったのかもしれないのだ。
って、オイラ何言ってるのだ・・・」

自分の右手に顔をうずめると自嘲するように笑った。



朝食の後、今日は特に何もする事がなかったので翼宿の部屋を
訪れる事にした。


しかし、いざ翼宿の部屋の前に着くと、そこは物の山でいっぱいであった。

「翼宿、一体何をやっているのだ?」
「片付けや。さっき柳宿が俺の部屋に来てな、俺の部屋の汚さについて
散々説教しくさってな。んで、しょうがないから片づけをする事にしたんや」

今度は服を片付け始めた。

「まったく、よくこんなに物を溜めたのだ〜」
「しゃ〜ないやろ。ったく〜、これじゃあ今日中に終わるか
わからんやんけ・・・」
「オイラも手伝うのだ?どうせオイラ暇なのだ」
「ほんまか〜!!助かるで!!ほんまに井宿は良い奴やで!!」
「ただし、お礼は体で払ってもらうのだw」

などと、さらりと危ない発言をする・・・

「そっ、それならごめんや!!」
「じゃあ、このまま片付かなくて寝れなくても良いのだ?」
「片付けてもお前に手伝ってもらうならどうせ寝れへんやんか!!」
「よし、じゃあ早速始めるのだっ」

翼宿の発言を完璧無視する井宿さんです・・・

「って!俺の話も聞けや!!井宿!」

またもや無視・・・
翼宿もようやく腹を括ったようだ(笑)

「しゃ〜ないな〜ったく・・・」

そうして再び片付けに取り掛かったのだ。



大方片付いた時には日がもう地平線に沈みかけていた。

「ようやく終わりそうなのだ〜。
翼宿、これはどこに置けばいいのだ?」
「・・・・・」
「翼宿?」

井宿は翼宿の方を振り返った。
翼宿はなにかをじっと見つめていた。

「翼宿、何を見ているのだ?」
「えっ、あぁすまん、これや」

翼宿は手の中にあったものを井宿に見せた。
それは・・・

「っ!?」

翼宿の手の中にあったものは、今日、井宿が夢の中で少年に渡した
ものであった。

「ん?どうしたんや、井宿?」
「なっ、なんでもないのだ!
それ、どうしたのだ?翼宿の大切なものなのだ?」

井宿はなんとか平静を装って聞いてみた。
翼宿は、えへっと笑って見せると語り始めた。

「これはな、俺がまだ6歳の頃に、1回家出しよなんて考えた事がある
んや。その時にな、偶然会った兄ちゃんにもろたんや。俺がどんな事に
も負けないでいられるお守り、なんて言われたわ。
今から思うと、どう考えても嘘やろうけど、そん時はこれのおかげで、
俺家出せんですんだし、家でも頑張っていけたんや。
まっ、結局家出してもうたけどな」

井宿は言葉が出なかった。

翼宿が覚えていてくれたのだ。
自分でも忘れてしまったような事を、今までずっと・・・

嬉しかった
それでいて、今までこんなに大切な事を忘れていた自分を悔やんだ。

「井宿、どないしたんや?」

しばらく黙り込んでしまっていたようだ。

「なんでもないのだっ」
「そか。
にしても、誰やったんやろな〜。俺の名前は聞いてきたのに、自分の名
前言わんで帰りおったんや、そいつ。会って、お礼でもしたいんやけど
な・・・。
また、会えるやろか・・・」

翼宿は窓の外の夕日を見つめていた。
そういえば、あの日も、今日みたいな雲1つない日だった。

「また会えるのだ、きっと・・・・・」
「そやな。」

井宿は翼宿をそっと後ろから抱きしめた。

自分と翼宿は、やはりいつかはめぐり会うべきだったのかもしれない。
それは、運命、と呼べるかもしれない。

井宿は、そうであってほしいと思った。
だって、今ここでこうしてめぐり合えているのだから・・・

「オイラの初恋の相手はやっぱり翼宿だったのだ・・・」

翼宿の耳元で小さくそうつぶやいた。

「なんや、井宿の初恋の相手は俺とちゃうやろ?」
「違うのだ」
「・・・ん?」

井宿は微笑んだ。

『翼宿は、知らなくて良いのだ。
この記憶は、オイラの中にだけあるのだ』


たとえ、2人が会ったのはたった数分でも、
2人にとってはとても価値のあるもの


あの日のような夕日が、2人を照らしていた・・・・・











  ☆管理人からのコメント☆

できた〜!!
今回はかなりのっていましたので、自分なりには良い作品ではないかと(爆)

今回も、夢ネタですね〜
私、夢ネタ多いですよね(^^;)
別に、これと言って好きなわけじゃないんですよ
でも、なんか書きたくなるんですよね〜
それに、自分自身が心からのって書けるというか・・・
不思議だなぁ・・・

今回は、ちょっと井宿視点で頑張ってみました☆
といっても、今から読めば井宿視点入りの3人称視点な気が(^^;)
てか、井宿の夢のシーン、実はすっごく難しかったんです(>_<)
なんでって?
それは、井宿が夢見ているのだから井宿の目になって、そこから見えるものを描写するように書きたかったからです。
ホントに難しかった;;

なんて裏話はさておき・・・
愛花様!!大変長らくお待たせしました〜
こんなんでよろしければ、お持ち帰り下さい☆
改めまして、キリ番おめでとうございました☆

どうでも良いつぶやき・・・
「最近鬼畜井宿書いてないな〜なんか井宿が可愛くなりつつあるし〜。どうせやら、超裏に走った井宿が書きたい!」
・・・・・、以上!(爆)