小さいままでいい
「たすきさ〜ん・・・」
「ん?誰や〜?」
後ろから聞こえた声に、翼宿は振り返る。
「ん?誰もおらんやんか〜」
「たすきさ〜ん・・・」
「だから、誰や?!」
「僕ですよ〜。下です・・・」
翼宿が下を向く。
「なんや、張宿か〜」
「気付いてくださいよぉ〜」
「しゃ〜ないやん。張宿、ちっこいんやから〜」
張宿は俯いた。
翼宿は、張宿の様子がいつもと違う事に気付いた。
「張宿・・・。どないしたんや?」
張宿からは、しゃくりあげるような声が聞こえた。
しゃがみこんで張宿の方に手をのせた。
体が小刻みに震えている。
「張宿?」
「ひっく、たすき・・・さん・・?」
「ん、なんや?」
優しく問いかけ、相手からの答えを待った。
「どうし・・・たら、大きくなれる・・んですか?」
「大きくやって?!」
「はい・・・うぅ・・・」
翼宿は両手を張宿の肩へ置く。
その時、翼宿は張宿の手に飴が握られている事に気付いた。
だが、今はそんな事を気にしている時ではない。
「なにかあったんか?」
「実は、さっき街へ出かけた時に・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「すみませ〜ん」
「あいよっ。おっ、お譲ちゃん、いらっしゃい!」
「えっぼっ、ぼくの事ですか?」
「おっ、もしかして男の子・・・ごっごめんな〜。
何が欲しいんだい?」
「お茶を下さい」
「あいよ〜!」
店の主人が慣れた手つきでお茶を袋へと詰めていく。
「ボウズ〜、家のおつかいかい?」
「えっ、まぁそんなものです」
実際の所、星宿に内緒で買ってきてくれ、と頼まれたのだからまぁ
間違ってはいないだろう。
「偉いな〜。まだ小さいのに」
「小さい・・・?」
張宿は黙り込んだ。
「はい、お待ちどう!」
主人は袋に入れたお茶を渡した。
「重たくないか?」
「あっはい、大丈夫です。」
「力持ちやな〜。あ、そや・・・」
主人は店の奥へ急いで戻り、ガサガサと音がしたかと思うと戻ってきた。
「はい、これはおじさんからのご褒美だ」
そういうと、張宿の手に飴を1つ握らせた。
「あっでっでも・・・・」
「帰り気ぃつけるんやで!まいどあり〜!」
店の主人は足早に店の中へと戻っていった。
張宿は、仕方なく宮殿へと足を向けた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そうやったんか・・・」
鈍い翼宿でも、全てを悟る事が出来た。
「ひっく・・・うっ・・・・・」
張宿はただ泣くばかりだ。
翼宿は、そんな張宿をそっと抱きしめた。
張宿は、翼宿の腕の中にすっぽり収まった。
13歳にしては、確かに小さい方であろう。
でも、張宿は張宿で自分なりにその事を考えていて、気にしているのだ。
「泣き・・・気持ちがすっきりするまで泣き。俺がこうしててやる
さかい。な・・・?」
「うっあり・・・・・ひっく」
感謝の言葉を言おうとしていたのか・・・
しかし、その言葉は泣き声にかき消されてしまった。
しばらくすると、張宿の泣き声も収まってきた。
「だいじょぶか?」
「はい、ありがとうございます」
涙を拭うと、翼宿にこっと笑いかける。
しかし、その笑顔にはどこか悲しい色が含まれていて・・・
翼宿は居た堪れなくなる。
「張宿、無理せんでええんやで?」
「?!・・・・・やっぱり、翼宿さんにはわかってしまうんですね、
えへへ・・・」
張宿の目から、また涙が浮かんできている。
翼宿は張宿を抱く手に力を込めた。
言葉もなく、ただただ抱いていた。
翼宿がやっと口を開いた。
「張宿は、ちっさいの嫌なんか?」
「・・・いつまでも、自分が弱いままな気がして、張宿になっている
間でさえ、みんなのお役にも立てなくて、自分が情けないんです。
翼宿さんみたいに大きくなって、強くなりたいんです。」
翼宿は、ただただ静かに聞いていた。
「大きくなったって、弱くなる時もあるんやで。俺だって、強い時
だけやないんやで・・・」
「でも・・・」
「張宿?」
「はい?」
翼宿は張宿を自分の腕から離すと、張宿の瞳を見つめた。
「ちっさいままでもええやん・・・」
「でも・・・」
「俺は、今のままの張宿が好きやで」
「えぇっ?!」
張宿の顔が真っ赤になっている。
「大きさなんて関係あらへんよ。張宿は張宿や。」
「でも・・・」
「それに・・・」
「それに?」
翼宿の頬がちょっと赤らむ。
「俺は、ちいさいままのお前が好きやで・・・」
「翼宿さん・・・」
「弱くてもええ。だったら、俺が一生お前守ったる」
「はい・・・」
2人は見つめあう。
そして、どちらからともなく、口付ける。
触れるだけの、優しい口付け
翼宿の口にすっぽりと収まってしまう、可愛らしい口
腕にすっぽりおさまる小さい身体
その全てが、翼宿にはいとおしくて堪らない
「僕、まだ13歳なんですからね」
「じゃあ、この先はお預けやな」
「はい・・・」
守れるようになりたいと思った。
でも、今は違う
守られるのも良いと思った
小さくても、弱くても良いと思った
それが、好きな人の手によってなら・・・
☆管理人からのコメント☆
はい、書いちゃいました!
なんと2日連続UP!?
自分が1番驚きです(^^;)
翼×張と聞いて、パッと浮かんだのがこのネタでした
やっぱり張宿には小さい、って事へのコンプレックスがあるんじゃないかな〜と思いまして・・・
翼宿、ずいぶん大人な事言ってますよね〜
珍しい(笑)
てか、キスまでさせてしまいました(爆死)
あちゃ〜
どうしても、翼宿の口にすっぽり収まる、ってのを書きたくて・・・
あぁ、やってしまいましたよ(−−;)
夏海様!!こんなんで良かったら掻っ攫うなりなんなりなさって下さい。