手料理
「トントン、いってぇ〜!!!」
「大丈夫なのだ〜!?」
「あぁ〜!井宿、また俺の事見てたな〜!?大丈夫やて、言うたやんか!」
「でも、さっきからずっとその調子なのだ?オイラ心配なのだ〜」
「大丈夫や!さっ井宿は部屋に行っててくれや!」
「・・・・・、わかったのだ」
井宿は静かに出て行った。
「よっしゃ〜、やったるで〜!」
そんな声が料理場から聞こえてきた。
井宿は心配で堪らない。
翼宿が料理を作るなんて・・・・・
今日の昼過ぎの事だった。
急に翼宿が井宿の夕飯は自分が作る、と言い出したのだ。
いきさつは何もわからない。
ただ、昼ご飯の時に話していて急の事だったので、その話に何か関係が
あったのだろうが・・・。
井宿は珍しく翼宿から離れて座っていた為詳しく聞こえなかったのだ。
『しかし、心配なのだ・・・』
先程、翼宿に料理場から半ば追い出されるように出てきてから、かれこれ
2時間が経っていた。
井宿は心配で堪らなかったのだが、翼宿にあそこまで言われたのだ。
こうしているしかない。
「あぁ〜でも心配なのだ〜。翼宿の事なのだ。怪我だらけになってるのだ。
翼宿の綺麗な指が・・・・・
大変なのだ〜!!!」
などと、あながち嘘ではないだろう事を考え、再び料理場に向かうので
あった。
翼宿が料理場にこもって、料理を作り始めてからかれこれ3時間が
経っていた。
それなのに、出来たものは何にもなかった。
「あぁ〜もう1回やっ。くっそ〜このままじゃ・・・」
「翼宿・・・?」
「うわぁっ!?」
今考えていた本人にいきなり声をかけられて、おもわず翼宿は大声を
上げてしまった。
「ち、井宿ぃ。脅かさんといてくれや・・・」
「ごめんなのだ〜」
「何しに来たんや?」
「何しにって、翼宿が心配で来たのだ〜」
「だっ大丈夫やって・・・」
「何か出来たのだ?もうそろそろ夕飯の時間なのだ・・・。」
「えっ、あっそそうやな・・・」
翼宿は口ごもってしまった。
「やっぱり、何も出来てないのだ?」
「えっ、そっ・・・・・、すまん」
「やっぱり。はぁ・・・」
そう言うと同時に、井宿は流しの前に立ち料理を作り始めた。
「なっ、なにしとるんや?!」
「なにって、オイラたちの夕飯つくりなのだ」
「なんで井宿が?!」
「今からオイラたちの分を頼んでも悪いのだ。だから、オイラたちで
作るのだ。」
「せやかてっ、もう材料がないんやないか?!」
2人は辺りを見渡した。
確かに、翼宿が色々な物を作ろうとしたのだろうか。
食料がほとんど残っていなかった。
「じゃあ、もったいないし、翼宿の作りかけのものを使うのだ。」
「せやかて、もうそんなん使えないもんばっかやろ?!」
「大丈夫なのだ。これ位なら使えるのだっ。さて、始めるのだ!
翼宿も手伝うのだっ!!」
「俺もかっ?!俺なんにも出来へんで!むしろ、邪魔になるんやないか?」
などと、とっても心配そうにしている。
「大丈夫なのだ。オイラが教えてあげるのだっ。さっ、早くなのだ!」
「おっおう」
翼宿は井宿の言うとおりにした。
早速2人は夕飯作りを始めた。
「あらっ?」
料理場を覗いた柳宿が見たものは、翼宿と井宿が仲良く料理をしている所
であった。
「あらっ、仲良いわねぇ。あっ、あの2人はそれ以上かっ。にしても、
翼宿は一体どういう風の吹き回しかしら?」
その時、昼ご飯の時の会話を思い出した。
「はっはぁ〜ん、翼宿ったらあんな事きにしちゃったのね。まったく、
井宿には弱いわねぇ。」
柳宿は全てをわかっているようだ。
さすが、である。
柳宿はそんな2人の事を優しく見た後、その場を後にした。
「できたで〜!!」
「やったのだ〜。」
「あぁ〜腹減った!速いとこ部屋に運ぼうや!」
「いっただっきま〜す!」
「いただきますなのだ。」
・・・・・
「ん〜うまい!こんな上手い食事初めてやで!」
「そんな事言ったら宮殿の人々に失礼なのだ〜」
「だってほんまの事なんやで!」
「なっなんか照れるのだ〜」
「あぁ〜ほんまに上手いで〜」
2人はしばらく食べる事に集中した。
「んっそうなのだ!」
「なんやっ?」
「なんでいきなり料理するなどと言い出したのだ?」
「ぶっ・・・」
翼宿は噴き出してしまった。
「大丈夫なのだ?!」
「なっなんとかな・・・」
「で、どうしてなのだ?」
「そっそれはやな・・・。しょ、将来のため・・・や」
「将来?」
翼宿は考え込んでいるようだ。
井宿はしばらく待つことにした。
「あのな、今日の昼ご飯の時にな。美朱とたまがもし結婚したらって、
話してたんや。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「俺たちいつになったら結婚できるんだろうなぁ」
「もう、なに弱気になってるのよっ!絶対大丈夫よ!
結婚したら、すっごくおいしい料理作ってあげるからね!」
「うげっ・・・」
「な〜に〜鬼宿〜。なにか言いたいわけ?」
「いっいや、そんなこたぁねえよ!でも、やっぱ、結婚したらおっいし〜い手料理食べたいよなぁ。」
「それは私へのいやみぃ〜?」
「えっ、だっだから、そんなんじゃねぇって!」
「ちゃんと練習するから心配しないでね!」
「あぁ・・・まぁ、楽しみにしておくよっ、美朱・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それが、なんの関係があるのだ?」
「俺たち、これからもずっと一緒にいるって決めたやろ?」
「そうなのだ」
「でも、その時食事を作ったりせなあかんやろ?それは、普通なら女の
やる事やろ?というか、男としたら、女に作ってもらいたいもんやろ?
で、そん時、俺たちの間でならどっちが作るべきかて思ってな。そした
ら、
やっぱ俺の役目やろ思って・・・。
でも、俺は料理なんてできへん。せやから、俺練習せなあかんて思って・・・。」
「・・・・・」
長い、長い沈黙が流れる。
翼宿にはこの沈黙はとっても痛かった。
口を開いて何か話そう、そう考えついた時、
「翼宿・・・」
「なんや?」
「はい、あ〜んなのだっ」
そう言って肉を一欠けら挟んだ箸を翼宿の方へ持ってくる。
翼宿の顔が一気に赤くなる。
「なにしとるんやっ!?」
「何って、食べさせてあげようとしてるのだっ」
「んんんな、普通に答えんなっ!」
「さっ、速くっ!落としてしまうのだっ!」
「・・・・・」
「ほら、あ〜ん」
あ〜、パクッ
「可愛いのだっ!おいしかったのだ?」
「かかか可愛いって!?・・・んまぁ、美味しかったで・・・」
体中の血が蒸発してしまいそうなまでに真っ赤になっていた。
なんとか頭を働かせて井宿に話しかける。
「なんでこんなんしたんや?!恥ずかしいやんか・・・」
「・・・・・」
「井宿っ!」
「なぜそんな事気にするのだ?」
「へっ?」
「確かに、オイラがもし結婚したなら、女性の手料理を食べてみたいと
思うかもしれない。」
「せやったら・・・」
「でもっ!オイラたちは結婚するわけではないのだ。それに、翼宿は
女性ではないのだ。だから、そんな事気にすることないのだ。」
「井宿・・・。俺、これからも井宿の料理が食べたい。」
「いくらでも作ってあげるのだ。」
「へへっ」
翼宿は照れてみせる。
「ほらっ、もう1回あ〜んなのだっ」
あ〜ん、パクッ
「ん?」
「何度もあげないのだっ」
なんと自分の口に収めていたのだ。
「あ〜騙しおったな〜!」
「へっへ〜んなのだっ」
「くぉ〜ら〜!!!」
「やっぱそうだったのねっ」
柳宿はたまたま2人の会話を聞いてしまっていたのだ。
柳宿の考えていた通りであった。
「やっぱ、翼宿は井宿には敵わないわね」
そう言って立ち去るのであった。
☆管理人からのコメント☆
1900HITを管理人が自爆してしまった為、ある期間に先着1名で権利を譲る企画を出した所、あっきー様から
ご連絡を頂いたので書かせていただきました!
大変遅くなってしまいすみませんでした(*_*)
ほのぼの甘々、とリクを承ったのですが、やっぱり、どこか切ない所が出てしまいました・・・。
私にはほのぼのが書けないのでしょうか・・・?
特訓いたします;;
表小説のつもりで書いていたので、書かなかったのですが、翼宿が井宿に「あ〜ん」とやっている所を見せたり
したら、本来なら絶対寝かせてもらっていないでしょうね(^^;)
翼宿、命拾いしましたね。
まぁ、私としては井宿残念っ、と思うのですがね(爆)