消毒 上
「ちちり〜、高いで〜!!」
「気をつけるのだ〜!」
「大丈夫やて!ほれっ!」
翼宿は今木登りに夢中なのである。
翼宿が登ってる木は、宮殿内にあるものにしてはかなり高い方である。
その木を翼宿はまるで子供のように登っている。
井宿は、そんな翼宿を先程から少し離れた所から見ていた。
『翼宿ホントに可愛いのだ〜。あんな翼宿も抱いてみたいのだ〜』
などと多少不謹慎な事を考えてはいるが・・・。
翼宿は随分高い所まで登っていた。
もうそろそろ頂上である。
翼宿は嬉しさのあまりかなり速いペースで登っていく。
あと1歩
井宿は一瞬翼宿から視線を外した。
その時・・・
ずるっ
「うわっ!」
井宿には、足を滑らすような音と翼宿の声が聞こえた。
「翼宿っ?!」
嫌な予感が過ぎる。
井宿は、叫ぶと同時に井宿は駆け出していた。
『間に合うのだっ!』
井宿は今までにないような速さで走る。
あと5m
井宿は、翼宿が地面に着くより少し遠い位置にいるようだ。
井宿は渾身の力を込めて走る。
あと2m
「たすき〜〜〜!!!」
どさっ
「はぁはぁ、はぁ・・・、良かったのだ・・・」
井宿は翼宿の下に滑り込んだのだ。
なんとか間一髪で翼宿の下に滑り込む事ができた。
「翼宿、大丈夫なのだ?」
「・・・・・」
「翼宿?」
翼宿の返事がない。
それに、翼宿の体重はいつもより重たく感じられた。
嫌な予感が再び井宿の中をよぎる・・・。
急いで翼宿の下から這い出る。
「翼宿?」
「・・・す〜・・・」
「・・・良かったのだ。気を失ってるだけだったのだ・・・。」
井宿は安心したのか体の力が抜けてへばりこんでしまった。
まだ目を覚ます気配はなかった。
このままなのもどうかと思い、井宿は膝枕してやる事にした。
井宿はずっと翼宿の寝顔を眺めていた。
いつもとまったく変わらない寝顔、体温・・・。
それらはいつもと変わらないのだが、また不安がよぎるのだ。
もし、翼宿がこのまま目を覚まさなかったら・・・?
「・・・ん?おれ・・・」
目を覚ましたのは良いのだが、まだ意識がはっきりしない。
「翼宿・・・?」
井宿からはいつもとまったく違う、とても安堵に満ちた声がした。
「ち・・・ちり?」
少しだが意識が戻ってくる。
『そうやっ。おれ、木に登ってて、そんで足滑らして落ちたんや・・・。
そんで・・・』
その時何となくだが頭の辺りに人の暖かさを感じられる事に気付いた。
『ちっちちりっ!お前なに膝枕なんかっ、ん?まてや・・・』
何かを思い出しそうだった。
『なんや、落ちた時もこんな感じやったような・・・』
頑張って思い出そうとする。
木を登って、あと1歩という所で足を踏み外して、落ちて、そして・・・?!
ようやく思い出した・・・。
あわてて飛び起きる。
「井宿っ、俺を助けようとして、自分は大丈夫やったんか!?」
「大丈夫なのだ。それより翼宿の方こそ休んでいるのだっ!」
と言うともう1度自分の上に寝させようとする。
「せやかて・・・。
膝枕なんて恥ずかしいやんか・・・」
「ん?なんか言ったのだ?」
「いっいやなんにも言ってへんで。」
と言いつつ、井宿から少し離れる。
「にしても、ほんまに大丈夫なんか?」
そう言うと、また井宿に近づき、体を触って怪我はないかと確かめ始める。
井宿には、その触り方がいやらしく感じられてたまらない。
もちろん翼宿は大真面目である。
井宿は自分の気持ちを悟られない為に声を隠そうとするが、あまりに
翼宿のが上手(?)なのでとても大変であった。
『翼宿は、責めにも回れるのだっ?新しい発見なのだ。でも、オイラ
翼宿に攻められるのは嫌なのだぁ。』
などと井宿らしい、かなり不謹慎な事を考えていた。
体も熱を帯びてくる。
しかし、その間も翼宿は一生懸命なのである。
自分のせいで井宿の体に傷がついてしまったかと思うと・・・。
翼宿はくまなく調べた。
翼宿の手が井宿の右膝辺りを触れた時・・・
「いたっ!!」
「どうしたんやっ!?」
「なんでもないのだっ。」
「せやかて・・・、ここかっ?」
もう1度右膝辺りを触ってみる。
「いっ・・・なんでもないのだぁ〜」
「やっぱ痛いんやろ?ほれっ見してみ!」
「なにするのだっ?!」
井宿のズボンを捲し上げる。
すると、右膝の辺りが青く腫上がり、そこから血が出ていた。
「こんなになってるやんけ!!」
「こんなの大丈夫なのだっ!」
「大丈夫やない!なんで言わなかったんや!?」
「気づくわけないのだ・・・。翼宿が心配で心配で・・・それどころ
ではなかったのだ。」
「ちちり・・・?」
「翼宿が、翼宿が、もう目を覚まさないかと思ったのだ。いつもと
変わらないのに、でも、目を覚まさなかったらと思うと・・・。
オイラどうしたら良いのだ?オイラ、もう大切な人を失うのは嫌なのだ!」
井宿は怪我した方の片膝を抱くように座り、静かに語った。
さっきとはうって変わって大真面目に、である。
翼宿はもう聞いているしかなかった。
「もう心配させないでほしいのだ。」
「あぁ。」
「本当なのだ?」
「本当や。」
「絶対なのだ・・・。」
「あぁ。・・・そや」
すると、翼宿はすっと井宿の足を取ると、足の傷をなめてやった。
そっとそっと、何度も・・・
「なななな、何してるのだっ!?翼宿?!」
「その証拠。まぁ、俺がなめて消毒になるか分からんけどな・・・」
そう言うと、更になめ続ける。
何度も・・・
井宿にはそれがただただいやらしく感じられてたまらない。
しかし、今度は声を隠す事などしなかった。
「あんっ・・・・」
「どないしたんや?!」
井宿の膝から舌を離して話しかける。
突然熱を封じられて、違和感を感じた。
『オイラ、このまま我慢できないのだ〜〜!』
ドサッ
「井宿?!どないしたんや!」
急に井宿が倒れた。
翼宿に不安が過ぎる。
そんな翼宿に井宿はこう告げた。
「抱きたいのだ・・・」
とっさの事に翼宿には井宿が何を言っているのかわからなかった。
「今、何て言ったんや?」
「抱きたいのだ、翼宿を。」
「えっ・・・・・?じょっ、冗談はよせや」
「冗談ではないのだ!」
「ななな、ななななな?!」
翼宿は言葉も発せないほど動揺している。
顔はもう真っ赤である。
「翼宿が、オイラのここをこうしたのだ」
そう言って井宿は翼宿の手をとり、自身へと持っていく。
「なにしとるんやお前は!・・・って?!」
井宿の自身はかなり熱を帯びていた・・・。
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