翼宿争奪バトル
唇の柔らかい感触に、翼宿は心地よい夢から覚めた。
こんな事をするのは、あいつしかいない
唯一、自分にとって愛しい存在
重い瞼を持ち上げる
しかし、目の前にいたのは違う人で・・・
「おはよ〜さん。良い目覚めやったやろ?」
自分を笑顔満面で見つめていたのは、これまた大切な存在で・・・
「こ・・・攻児〜〜!!?!?!」
この叫びに、井宿を初め皆が集まった。
長い1日は、今始まったばかり・・・・・
さて、どうして攻児が、宮殿の翼宿の寝台の上(笑)にいたのかというと、
彼曰く・・・
「翼宿が、俺がいなくて寂しがってる思たからやvv」
などとぬかして・・・
もちろん、翼宿と井宿が相思相愛な事も知っていてなお、こんな事を言っている
のだから翼宿も愛されているのだろう・・・
それはさておき、
目覚めがショッキングであったため、翼宿は頭からすっぽり布団を被ってしまった。
井宿は、そんな翼宿を思いやりながらも、攻児を睨み付けている。
それに気付いた攻児は早速とばかりに話を切り出した。
「なぁ井宿はん、翼宿をかけて勝負せぇへんか?」
「勝負、なのだ?」
いつになる低い声の井宿に、翼宿の体が一瞬震える。
皆はというと、井宿と攻児の間に今にも見えそうな闘志の炎を感じて、
話し出せないでいた。
「そや。影で睨みきかすんやなくて、堂々と勝負しよやないですか。
それとも、負けるのが怖い、言うんなら止めてもええんですけど?」
明らかに挑発している。翼宿の事となると、
こんな事にさえ井宿が反応してしまう事を攻児は知っていた。
井宿が挑発に乗るであろう事も・・・
「良いのだ、ノったのだ。
で、勝負の方法はどうするのだ?」
「ふっふっふ・・・ずばり、かくれんぼやっ!!」
「かくれんぼなのだ??」
明らかに意外だ、という顔をしている。
「しかも、ただのかくれんぼじゃあらへんのや!
ルールは・・・」
攻児の言葉によると・・・
隠れるのは翼宿1人で、井宿と攻児が鬼
そして、隠れる翼宿を先に見つけた方が勝ち
ただし、この時翼宿は無理に両方から逃げ隠れないといけないわけではなく、
自分が見つけて欲しい人の前に現れて見つけてもらう、というのもありなのだ。
逆に、井宿や攻児が翼宿を相手に譲って探さない、というのもありである
(絶対にありえないだろうが(笑))
勝者には翼宿の彼氏でいる権利が与えられる
負けた者は、翼宿に触れるのはもちろん、話す事さえも禁じられる
もちろん、七星や宮殿にいる人、誰にも頼ってはいけない。
これは、翼宿にも言える事である。
話しかけるのも駄目である
これを破ったものは即失格。
範囲は宮殿の敷地内
時間は翼宿が見つかるまでの無制限
「わかりまっか、井宿はん?」
「バッチシなのだ!!」
既に2人の間には火花が散っている。
「ほな、幻狼争奪バトル、始めまひょか!」
「絶対に、負けないのだ!!」
「そない事言ってられるんも今のうちでっせ〜!」
かくして、翼宿の意見を120%無視した形(笑)で『翼宿争奪バトル』は
幕を開けたのだった・・・
「審判はこの宮殿の主である私、星宿が努める。
・・・翼宿が隠れて10分が経った。
2人とも、準備は良いな?」
「もちろんなのだ」
「早よう始めて下さい」
お互い、もう1度睨み合う。
「位置について。よ〜い、ドンッ!!」
2人とも、勢いよく飛び出していった。
「さてと、翼宿の隠れそうな場所は・・・きっとあそこなのだ!」
自称宮殿と翼宿(笑)を知り尽くしているという井宿だけあって、
目星はついているようだ
「さてと・・・っと。術は使っちゃいけなかったのだ〜
う〜ん、あそこは遠いのだ〜
でも、翼宿への愛のため、頑張るのだっ!!!」
「よしっ、ここなら絶対見つからへんで!!」
翼宿が意気込んで隠れたのは宮殿の端
いつも誰も訪れず、翼宿が秘密の場所としている所
ちょうど小さな林のように、木々が茂っている
更に、ここはスタート地点のちょうど反対側になる
座り込んだ翼宿は誰もいないのを良い事に2人の悪口を言っていた
「にしても、なんで2人は俺を無視してこんな事決めるんや!!ほんまひどいで!
ここなら、絶対見つからん!絶対見つかってたまるかっ!!
俺はどっちに見つけられても困るんや!!」
言ってみて、自分の不満に思ってる事が初めてわかった
「そや・・・俺、どっちに見つけられても困るで・・・」
確かに、翼宿の1番大切な人は井宿かもしれない
でも・・・
「俺、もし、攻児に井宿みたいな事されたら、断れるんやろか・・・」
翼宿にとって、攻児は唯一無二の友達と言って良い
しかし、それはあくまで「友達」という枠の中である・・・気がする
その枠が曖昧な気がするのだ。
そう、攻児に攻め寄られても断り切る自信が、翼宿にはなかった
「たすき〜!!」
「ヤバッ!!!」
考え込んでいる間に、井宿が近付いてきていた。
改めて、自分がちゃんと隠れているのを確認する。
そして、ちょうどよい隙間から井宿を窺い見た。
声の感じから、まだそれほど近くではないようだが、近付いてきているのは確かだ。
「翼宿!ホントに翼宿は隠れるのが上手いのだ〜」
近付いてくる・・・
「翼宿の事、こんなに愛してるのに・・・
いや、翼宿への愛は攻児さんより強いのだ・・・!!
絶対、翼宿を見つけ出すのだ!」
ドキッ
不意に胸が高鳴った。
『井宿の顔が見たい』
そう思った
なんとかして穴から覗いてみる
井宿は少しの間に更に翼宿に近付いていた。
『もうちょいこっち・・・』
ふっと、視界に井宿の顔がうつった。
その顔は、いかにも真剣で
それでいて、切羽詰まったような顔をしていて
珍しく、顔に汗の滴が見てとれた。
しかし、そんなの少しも気にしないで、一心に翼宿を探している。
あちこちにある茂みを掻き分け、翼宿を探している。
「っ・・・」
「あっ・・・」
井宿の手に紅い鮮血が流れる。
飛び出してしまいたかった
見つかってしまいたかった
でも・・・
そんな翼宿の瞳に映るのは、井宿の必死な姿・・・
『よし、決めたで!!』
「井宿っ、俺はここ・・・」
「みぃ〜つけたっ♪幻狼はほんま隠れんぼ上手いな〜苦労したで〜」
後ろから翼宿を抱き締めている腕は、攻児のもの
翼宿が井宿の前に出ようとしたほんの少し前に、攻児が翼宿を見つけたのだ。
井宿も近寄ってくる。
とはいっても、ホントに数歩の距離ではあったが・・・
「こっ、攻児?!」
「俺って凄いやろ〜褒めたってや〜
初めての場所やのにこんなに早くお前見つけたんやで〜
まぁお前の隠れそな場所はわかってたしな
でも、この宮殿ほんま広いな〜疲れたで〜
せやから幻ちゃ〜ん、俺を癒したって〜な♪」
攻児の弾丸トークに、2人は口を挟む隙もなかった。
「ほな幻狼っ、お前の部屋行こな〜」
「わっ、ちょっ待てて、攻児〜!!」
腕の中に翼宿を抱いたまま、攻児はすたすたとその場を後にする。
井宿は、一言も話し出せなかった・・・
バタン・・・カチャッ
「ほな幻狼♪」
扉を閉め、鍵をかけて、
攻児は翼宿の方へ振り返る
「いやぁやっぱお前の部屋っぽいな〜
なんや懐かしさ感じるで〜」
キョロキョロと部屋を見渡しながら翼宿の方へと歩み寄る。
「あのな・・・攻児?」
攻児の動きが止まる
「あのな、俺・・・」
「もう、それ以上言わんでええで」
「えっ??」
翼宿には攻児の言葉が理解できなかった
「幻狼の気持ちはようわかったで・・・
俺の方がお前といる時間長いんやから、顔見りゃ一発や。
・・・お前、俺があん時お前に抱き付かなきゃ、
井宿はんの前に出てたやろ・・・?」
「えっ攻児、どないしてそれを・・・」
「ん?それは・・・・・内緒や」
「なんやそれ〜」
「まぁええやんっ」
攻児の向けた笑顔
それはとても切なげで・・・・・
「それより、はよ井宿はんの所行きなや」
「攻児・・・」
つい、翼宿は嬉しさのあまり、攻児のその前の発言を忘れてしまった。
『言えるわけないわな。
お前がどう動くか、しばらく後ろでお前を見てたなんて・・・
しかも、お前が井宿はんの前に出ようとしたのが見えて、
抱き締めてでも、お前を止めたんやから・・・』
見ていた時、もし翼宿が井宿の前に出るならそれで良し
出ないなら、自分が見つけてやろう
そう考えていた。しかし・・・・・・・・・・
翼宿が井宿の前に出ようとしたのを見た時・・・
体が無意識に動いてしまっていたのだ・・・・・・・
「そんな誘うような顔すんなや〜やっぱり手放したくなってまう・・・」
翼宿はさっと視線を逸らした。
「ははっ、大丈夫や。そんな事せぇへんて。
さっ、はよう井宿はんのとこ行ったり。
じゃないと、俺が殺されかねん」
「せっ、せやかて攻児。このゲームの勝利者は・・・」
「あぁせやな。何もなしはイヤやし・・・せやな〜
そやっ。幻狼、ちょい目瞑ってくれへんか?」
何もなしではさすがに悪い、と思っていた翼宿は喜んで目を瞑る。
「そのままやで・・・」
攻児の声がやけに近くから聞こえると思った瞬間、生暖かい感触を唇に感じた。
翼宿にも、“それ”がなんであるかはわかった。
でも、瞳は閉じたままだった・・・
瞳を開けた時、攻児はすでに翼宿から離れていた。
「・・・これからも、俺の事、好きでいてくれな?」
『好き』の意味を『友人』としての意味だと解釈し、翼宿はゆっくりと頷く。
「ありがとな、幻狼」
「・・・・・」
攻児がふっとほほ笑む
そこには、先程のような切なさはもう見えなかった
「さっ、はよ井宿はんのとこ行きや」
翼宿は、無言で自室を後にした・・・
続いて、攻児も部屋を出る。
「俺、ほんま損な奴やなぁ・・・
でも、俺がお前を好きでいるのは、自由だよな・・・?」
この言葉は、いつまでも部屋の中に響いているようだった
「・・・・・・・・・・翼宿・・・」
井宿は、すっかり気分が暗くなっていた
バトルのルール上、もう2度と翼宿に触れる事も、話す事もできないのだ。
今まで近くに居過ぎた分、失うとその大きさを改めて思い知らされる
「翼宿・・・・・・」
「・・・コンコン」
扉をたたく音がした
しかし、井宿は返事を返さなかった
『今は、誰とも会いたくないのだ・・・』
しかし、その後に聞こえた声は思いも寄らぬ人のもので・・・・・
「井宿・・・、いるか?」
「翼宿?!」
「・・・入るで?」
カチャン
井宿の返事を待たずに翼宿は部屋の中へ足を踏み入れる
「井宿・・・あのな、俺・・・」
「翼宿、オイラと話してはいけないのだ・・・それが、ルールな・・・」
「俺の気持ち無視すんなや!!
2人がどう言おうと、俺が好きなんは、井宿しかいないんや!!」
井宿は一瞬嬉しそうな顔をして、翼宿に抱きつこうとした
しかし、すぐに思い止まった・・・
「・・・攻児さんからの新しいイジメなのだ・・・?それとも・・・」
残りの言葉は、全て翼宿の口の中へ消えていった
そのまま、翼宿の舌がおずおずと差し込まれると、
井宿の理性は一気に吹き飛んでしまった
唇が離れると同時に紡がれる、弱々しい翼宿の言葉
「俺が好きなんは、お前だけなんやで・・・」
胸に染み込んでいく・・・
愛している人からの、言葉
「でも、さっきのバトルはどうするのだ・・・?
攻児さんは、それで・・・」
翼宿の綺麗な指が、井宿の唇に触れる。
「それ以上は言わんでや。
大丈夫、攻児もわかってくれたんや・・・」
「ホント、なのだ・・・?オイラ、翼宿と一緒にいても・・・・・」
「あたりまえやで・・・」
翼宿を腕の中におさめる。
とっても暖かかった
翼宿は今、自分の胸の中にいるのだと、実感できた
井宿の抱き締める力で翼宿の体は痛かったが、
それでも、翼宿は何も言わなかった。
翼宿も、井宿のぬくもりを感じていたかった。
「もう何があろうと、絶対に離さないのだ・・・」
2人の胸に、永遠に響き渡るだろう・・・・・
誓いの言葉
☆管理人からのコメント☆
ホントにホントに(無限大)遅くなりました〜><
やっと、キリリク1個消化〜(残数:数えたくない;;)
このネタ書くのに2ヶ月ほどかかってしまうなんて・・・・・
まぁ、その間ずっとこればっかり書いてた訳じゃありませんが、ありえない(>_<)
おかげで、書いたのは良いけど長いしな〜;;
かなり頑張りました〜(・・;)
ぜひぜひ感想など下さいw