ひまわり畑の迷路
「軫宿、今日あいてるのだ?」
「あぁ、今日は患者も来なさそうだし」
「だったら、久し振りに出掛けないかなのだ?」
「あぁ、良いぞ」
久し振りに2人だけで出掛ける事になった。
井宿は七星士としてやる事は、主に実際の戦いに重点が置かれるため、
平和な時は主に暇である。
僧である、とは言ってもちゃんとしたものではないのでそちらの仕事は
少ない。
しかし、軫宿は七星士としてみんなのバックアップをするのと同時に
医者である。
平和な時も患者の診断をしている。
しかも、腕が良いと評判になっているため、1日の患者数もかなり多い。
そのため、余程の事がない限り休みはなかった。
井宿が軫宿の恋人となったあともそれは変わらなかった。
井宿も、それはしょうがない事だと思っていた。
軫宿にとって大切な事を自分のせいで犠牲にしてほしくもなかった。
でも、もちろん一緒にいたいという気持ちがないわけではない。
だから、こうして軫宿の暇そうな時は外に出掛けようと誘うのだ。
「で、どこへ行くんだ?」
「良い所があるのだ〜!」
そう言うと、早速錫杖と袈裟を取り出す。
「さっ、オイラに掴まるのだっ」
腕を差し出す。
軫宿が静かに手を掴んだ。
と、突然井宿が腕を軫宿のに絡ませてきた。
「なっ、どうしたんだ?」
「なんでもないのだっ」
嬉しそうに腕を組んでいる井宿を見て、軫宿は自分まで幸せになった。
「それじゃあ、出発なのだっ!!」
錫杖が鳴ったと思うと、2人の姿は消えていた・・・・・
「さぁ、着いたのだっ!」
「これはっ?!」
そこは、一面にひまわり畑が広がっていた。
「先日、偶然見つけたのだっ。綺麗なのだ?」
「あぁ、ありがとう、井宿」
「良かったのだ〜」
にこりと軫宿に笑いかける。
軫宿の目は井宿に釘付けになった。
「綺麗だ・・・」
「ん?何か言ったのだ?」
「いや、なんでもない・・・」
その言葉は自分の心の中にしまっておく事にした。
今度は軫宿から微笑みかける。
それが井宿には嬉しくて、あちこち飛び跳ねている。
「軫宿〜!!!」
遠くから自分を呼ぶ声がして、軫宿はそちらを向く。
「なんだ?」
「こっちに来て欲しいのだ〜!!」
軫宿が小走りで呼ばれた方へと駆けて行く。
「どうしたんだ?」
「軫宿、かくれんぼしようなのだっ」
「かくれんぼ?」
「そうなのだ。まぁ正確に言えば、おにごっこ&かくれんぼなのだ」
「どういうことなんだ?」
軫宿はわけがわからなかった。
井宿が得意満面、といった表情で説明し始めた。
「ここのひまわり畑は、中に道が出来ていて、迷路のようになっている
のだ。まぁ、外に出る道は沢山ある、ようはひまわりの中を歩けるよう
になっているのだ。
で、この中で見つからないように逃げているのを鬼が捕まえる、だから、
おにごっこ&かくれんぼなのだw」
「なるほどな」
ようするに、ひまわり畑の中にある道を使って隠れながら鬼から逃げる、
というものであろう。
「じゃあ、最初はどっちがおにになるんだ?」
「オイラ逃げるのだっ」
「じゃあ、俺が鬼だな?よぉし、じゃあ数えるぞ!」
「オイラが入って30秒したら入ってくるのだっ。
じゃ行くのだっ!」
井宿はひまわりの中へ入って行った。
軫宿は井宿にも聞こえるように数を数える。
時折、井宿が動いているかさかさ、という音が聞こえている。
30数え終わった。
軫宿がひまわり畑の中に入っていった。
思っていたより道は入り組んでいた。
軫宿は気合いを入れた。
井宿は目標の場所に着くと腰を下ろした。
実は、初めてこの場所を見つけた時に、すでにここに入って道を調べて
おいたのだ。
そして、ある程度見つかりにくそうだが見つけてもらえそうな所を
予め見繕っておいたのだ。
「さぁて、それにしても暑いのだ〜」
上を見上げると、ひまわりの間から眩しいほど輝く太陽が見える。
「軫宿〜、早く見つけて欲しいのだ〜!」
まだ初めて3分も経っていない。
しかし、井宿にはもう何十分も離れているように感じられた。
そういえば、最近ずっと軫宿といなかったような気がした。
自分が暇になったかと思えば、軫宿が患者を見ていて、時に自分も
戦いの地へ赴いてもいた。
急に寂しさを感じた。
こんな気持ちは初めてだった。
いや、隠れていただけで、本当はずっと抱えていた気持ちなのかも
しれない。
『もしかしたら、オイラの片思いだったのだ?・・・』
寂しさが井宿を襲う。
ある事を思いついた。
井宿が立ち上がる。
そして、ひまわり畑の中を歩き出した。
最初入った時とは違って、強い意思を持って歩いているようだ。
右へ左へ、次から次へと道を曲がっていく。
目的の場所に着き、もう1度座り込んだ。
そこは、先ほど座っていた場所よりかなり奥に進み、ひまわりが
かなり密集して咲いている。
先ほどの所よりもかなり見つけにくそうである。
実は、先ほどいた場所を見つけた時に、この場所も見つけていたのだ。
しかし、ここでは絶対に見つからないと思ったのでやめたのだ。
迷路の奥の奥、行き止まりになっていて、更に、この道への入口は
ひまわりで隠されていて、そう簡単に見つけられない。
そこへ、井宿はあえてやってきたのだ。
軫宿に追いかけてもらう為
そして、捕まえてもらう為に・・・
軫宿は一生懸命に探していた。
しかし、今の所見つかってはいない。
走り回るがまったく見つからない。
その時、ひとつの声が聞こえた気がした。
1つの、弱弱しい、自分を求める声が・・・
『軫宿ぇ・・・』
確かに、自分を呼ぶ声が聞こえた。
軫宿は無意識に辺りを見渡したが、井宿の姿は見当たらない。
軫宿は再び走り出した。
力強く・・・・・
「軫宿・・・」
「ちちりっ!!!」
軫宿が井宿に駆け寄ってきた。
それは、井宿がここに腰を掛けてから10分も経っていなかった。
「どっどうして・・・」
「まったく、随分うまく隠れてたな。探すの大変だったぞ。しかも、
お前の声が聞こえた気がしたし・・・」
「オイラの声が・・・?」
「あぁ、小さかったがな。だから、余計心配になって・・・。
それはさてより、これは鬼ごっこも入ってるんじゃなかったの・・・」
言葉の続きは井宿に抱きしめられた事で掻き消えてしまった。
井宿が、いつもより1回り、2回りも小さく感じられる。
軫宿は息も切れ切れにそう語った。
井宿は、軫宿の服が汚れて、更にあちこち切れていることに気付いた。
あたり構わず、とにかく井宿を探していたのだろう。
しかも、とても走り回っていたのだろう。
自分を一生懸命になって探してくれていた事が伝わってくる。
それを知った井宿は更に強く抱きしめた。
「井宿・・・」
軫宿は、強く抱きしめ返した。
「えへっ・・・、今日は悪かったのだ」
「気にするな。
・・・・・・・、なぁ井宿?」
「なんなのだ?」
井宿が軫宿を見る。
「すまない・・・。俺がお前といられないばかりに、お前に寂しい
思いをさせていたんだな・・・。
本当にすまない・・・」
軫宿が深く頭を下げる。
「気にする事ないのだ。軫宿は、自分の仕事をしていただけなのだ。
確かに、美朱たちみたいに、仲良くしたいとも思ったことはあるのだ、
でも、軫宿から医者を取ったら、軫宿は軫宿じゃなくなってしまうのだ。
自分のせいで、軫宿が軫宿じゃなくなるのは、嫌なのだ・・・」
「井宿・・・・・。」
軫宿は、改めて、自分は幸せなのだと知る。
井宿も、自分の片思いではなかったのだ、と改めて思う。
「井宿?」
「なんなのだ?」
「俺は、これからも医者を続けたいと思う。井宿が俺にくれるような
幸せを、みんなに分けたいんだ。」
軫宿の顔は輝いて見えた。
井宿も、その強い思いを受けとめた。
「わかっているのだ」
「だが、その幸せをくれたお前に、これからは寂しい思いは決して
させない。一緒にいられる時間ももっと作っていく。」
「軫宿・・・、ありがとうなのだっ」
2人が再び抱きしめあう。
それを見ているのは、畑に咲くひまわりたちだけ・・・・・
☆管理人からのコメント☆
うわっ、みなさん!砂吐き警報発令です!!
って、言うの遅いっすね・・・
こんなはずじゃ・・・
なんとなく、井宿が受けに回ったら絶対に恋人(笑)に甘える!!って思って・・・
そしたらこういう形になりました(^^;)
この設定の中のひまわり畑というのは、私が旅行で行って来た所が元になっているんです。
一面に咲くひまわり、そして、ひまわりの迷路・・・
本当に見てきたものなんですよ(^^)
雰囲気を掴みたい方は、こちら→
まぁ、迷路の方は多少脚色もされていますが・・・
書いていて、とっても楽しかったです(*^−^*)
それでは、遅くなりましたが・・・
夏海様、どうぞお持ち帰りくださいませw