いつかは・・・
「もうそろそろこの旅も終わるのねぇ。」
「えっ?」
朱雀七星のみんなで魏の記憶の玉を探し始めてかなりの月日が経った。
天堽がつい先ほど宣戦布告してきたのだ。
こんな時に非常識かもしれないが、みんなこの旅ももうそろそろ終わり
なのだと感じていた。
そして、もう別れが近づいているのだと・・・
「やっと終わるわね〜。もちろんっ、最後は私たちのハッピーエンド
じゃなくちゃね、魏!」
「えっ、あぁ、そうだな。がんばら、なくちゃな・・・」
「な〜に〜たまちゃ〜ん、あっ、今は魏ね。元気ないじゃな〜い!
大丈夫よっ!美朱はあんたを選んだのよ!それで今は良いじゃない。
それに、今はあいつに勝つ事だけ考えなさい!」
「そうだな。俺はあいつに勝って、美朱と幸せにならなくちゃな。」
「よ〜し!その息よ!」
「おぉ!」
柳宿に、魏は多少乗り気ではなかったが、張り切っている。
翼宿は2人のやり取りを聞きながら、ふと自分の事を考えていた。
自分には、井宿との約束がある。
『この戦いが終わっても、オイラたちはずっと一緒なのだ』と・・・。
しかし、翼宿にはこれの他にもう1つ約束があったと言う事を、
思い出したのだ・・・。
「玲麗・・・。」
そう、まだ翼宿が朱雀のみんなと会う前、まだ至t山にいた頃の事である。
玲麗が死ぬ間際に言った事である。
『ちゃんと巫女に仕えるんやで。それで、それが終わったら、また
至t山に戻ってきてや・・・。』
玲麗は最後にこのような事を言い残した。
確かに、最初翼宿はもちろん玲麗に言われなていなくても、至t山に
戻るつもりでいた。
先代の頭を超えるような頭になり、攻児たちと一緒に至t山にずっと
いるつもりでいた。
でも、井宿と出会い、一緒に戦い、ただの仲間ではなくなり、ずっと
一緒にいたいと思うようになり・・・。
翼宿にはどっちの約束をとればいいのかわからなかった。
井宿と一緒にいたい。
でも、そうしたら死んだ玲麗に申し訳ない。
「はぁ・・・」
生きている人となら、会うこともでき、また約束を違える事も出来る。
でも、死んでしまった人との約束は違える事は出来ない・・・!
そうすると、やはり・・・・・
「やっぱそうやな・・・」
そうつぶやくと翼宿はある場所へと歩み出した。
「井宿っ!」
翼宿は池のほとりの石に座って月を眺めている井宿に呼びかけた。
「翼宿、どうしたのだ?」
そう言うと立ち上がり翼宿に近づく。
翼宿は、一瞬やはりやめよう、と思ったのだが、やはり言っておかねばと
思いなおし井宿に近寄る。
「どうしたのだ?」
井宿の顔は月の光に照らされ、にこやかな表情をしているのが容易に
見てとれた。
翼宿はやはりやめようか、と思った。
これから自分が言う事は、きっと井宿のこの優しい表情を奪い去って
しまうものだったから・・・。
でも、どうせいつかは言うのだ。
それなら、戦いの始まる前にはっきりさせておきたい。
それに、自分の気持ちが変わってしまう前に・・・!
翼宿は決心した。
「あのな、井宿・・・。もうそろそろやっと戦いも終わるやないか・・・」
「そうなのだ。やっと終わるのだ。みんなも自分の道を歩き出す・・・。
でも、オイラたちはずっと一緒なのだ。」
「うっ・・・・・」
翼宿はまた決意が揺らぎそうになった。
『あかん!言ってしまわなあかんっ!』
もう1度固く決心すると口を開いた。
「駄目なんや・・・。」
「えっ?なにが駄目なのだ?」
「せやから、この戦いが終わったあと、俺たち一緒にいられへんのや・・・。」
「なん、でなのだ?約束したではないのだ?!」
「約束したで・・・。でも・・・」
「でも、なんなのだ?!」
翼宿は一瞬井宿から視線を外したが、もう1度しっかりと見る。
「前に玲麗っちゅう奴の事は話したやろ?」
「そうなのだ。」
「実はな、そいつが死ぬ間際に約束した事があるんや。とは言っても、
あっちが一方的に言った事を俺が約束したて言っとるだけやけどな。」
「それで、なんなのだ?」
「実はな、玲麗とな、こう約束したんや。ちゃんと巫女に仕える。
それで、それが終わったら、また至t山に戻ってくる、てな・・・。」
「それは・・・」
「つまり、これが終わったら俺は至t山に戻らなあかんのや。」
井宿は何も言い出せなかった。
翼宿の言ってる事を理解できない。
いや、理解したくなかった。
『翼宿は一緒にいてくれないのだ?オイラとの約束より、その玲麗と
いう子との約束の方が大事なのだ?』
次から次へと疑問が湧き出てくる。
「俺も、もちろん井宿といたいんやで。でも、さっき思い出して
しもうたんや、この約束を。井宿は生きてるんやから、また会える。
でも、玲麗とはもう会えないんや。せめて、最後の約束位守ってやりたいんや!」
「・・・・・」
「俺かてつらいんや。井宿と一緒にいたいんや。でも、玲麗の約束は
破りたくない。それに、俺には至t山のみんなかている。
井宿ならわかってくれるやろ?」
井宿は俯いたまま震えていた。
そして、震える口からやっとの事で言葉を発した。
「・・・・・・・・のだ。」
「なんて言ったんや?」
「わからないのだっ!」
「ちちりっ?!」
井宿はバッと顔を上げる。
その顔は涙で濡れていた。
「なんでなのだ?!死んだ人との約束の方が大切なのだ?!死んだ人は
裏切られたからと言って悲しむわけでもないのだっ!それなのに・・・」
「井宿っ!なんて事言うんや!お前はそんなひどい奴やったんか?!
俺かてお前と別れるのは嫌なんやで!」
「だったら約束を守ってほしいのだ!」
「せやから、駄目なんや!玲麗との最後の約束位守ってやりたいて
言うとるやんか!」
沈黙が訪れる。
井宿は、何か言いかけたが、そのままなにも言わずその場を立ち去った。
翼宿はさすがに声をかけられず、そのまま見送る。
しばらくその場に立ち尽くしていたが、部屋へ帰ることにした。
「ちくしょっ!」
翼宿は自室に戻った後ずっとこの調子であった。
「俺は間違ってたんか?!確かに井宿との約束は大切に決まってる!
でも、玲麗のはまた特別や。この約束位、玲麗との最後の約束位守れんで、
男やってられるか!」
そう叫ぶと、寝台に倒れこむ。
すると、急に眠気に誘われた。
翼宿は誘われるままに眠りに落ちた。
『・・・ろうっ。げんろうっ!』
『ん・・・。だれや?』
『忘れたのかっ?!私だよ、玲麗だよ!』
『玲麗か?!また会えたんやな。あっ、会えたというより声聞こえた
だけやな。』
『まったく、幻狼は全然変わってないなぁ。』
『悪かったな、どうせ俺は変化のない男や・・・』
2人はしばらく笑いあった。
『幻狼?』
『ん?なんや?』
『幻狼は、私との約束、あんなに大切にしてくれてたんだね・・・』
『えっ?なんで知ってるんや?!』
『言ったじゃん。私はずっとあんたの事見てるって。』
『玲麗・・・』
なんとなく場の雰囲気がしんみりする。
『で、私が言いたいのはそれやなくて・・・』
『なんや?』
『・・・・・、幻狼、井宿さんとの約束を守ってあげて。』
『へっ?なに言うとるんや?』
『私との約束なんて忘れてええから・・・。』
『玲麗っ?!』
『だって、本当は幻狼はずっと井宿さんといたいんでしょ?』
『そんな事・・・』
『そんな事ないって?嘘言わなくて良いよ。だから、自分のせいで幻狼を
縛りつけるんは嫌なんや。だから、ええんや・・・。』
翼宿は呆然としていた。
一体どうすれば良いのかわからなかった。
『せやかて・・・』
『幻狼は幸せにならなくちゃ駄目なんや。私の分もね。それが、今度の
私と幻狼の約束。ねっ?』
『約束・・・。玲麗はそれでええんか?』
『しつこく聞かないでよっ!しつこい男は嫌われるよ!』
『なっなんやそれ!』
『あははw』
『あはは、やないで!第一、攻児がそれじゃ許さんやろ?』
『攻児なら、幻狼の事わかってくれるよ。』
『そっそうか?』
『そうや。』
『そうか・・・。』
また沈黙が訪れる。
でも、今度はしんみりしたものでは決してなかった。
新しい約束が生まれたのだから・・・
翼宿は今度の約束こそ絶対に守ってやりたいと思った。
自分は世界で1番の幸せ者になってやろうと思った。
自分の為にも、玲麗のためにも・・・
そして、その幸せには井宿が必要なのだと・・・・・
『玲麗、サンキュウな。俺、幸せになるで〜!』
『そうこなくっちゃ!じゃあ、また会えたら・・・・・』
「玲麗?!」
ハッと目が覚めた。
そこは自室・・・?!
「翼宿・・・。」
なんと、井宿が目の前にいたのである。
そういえば、部屋の雰囲気も違っている。
「ここはオイラの部屋なのだ。」
「へ?なんで・・・」
「オイラが連れてきたのだ。」
「なんでや?」
「オイラは、やっぱり納得いかないのだ」
「へ?」
「オイラとの約束を守ってほしいのだ!」
翼宿はしばらく悩んでいたが、ようやく理解した。
「ちっちがうんや、ちちりっ!」
「嫌なのだ!オイラ翼宿と一緒にずっといたいのだ!」
そう言うと、井宿は翼宿の上に覆いかぶさる。
「せやから、待てっちゅうに!」
「待たないのだ!翼宿が約束を守ってくれないと言うなら、オイラ翼宿を
監禁してでも一緒にいるのだ!」
「んなっ?!なに言うとるんや!やめいって!」
2人の取っ組み合いはエスカレートしていく。
翼宿は、なんとしても井宿が暴走する前にやめさせねば、と思った。
このままだと暴走して何されるかわかったもんじゃない。
声の限りに叫んだ。
「俺はお前との約束を裏切ったりせんで〜!!!」
「へっ?」
井宿の動きがふと止まる。
「今、なんて・・・」
「俺はお前との約束を裏切ったりせえへん。ずっと一緒にいたる。」
「でも・・・、なんで、なのだ・・・?」
「夢で玲麗と話してたんや。玲麗にな、自分との約束より井宿との約束
守ったれ、て言われて・・・。」
「たすき・・・」
「それに、もう1回約束したんや。俺が世界で1番幸せになったるって、
玲麗の分まで幸せになったる、ってな。そんで、俺の幸せにはその・・・、
井宿がいなくちゃあかんから・・・。せやから、これからもずっと一緒に
いたってや。」
「たすきぃ〜!」
そう言うと井宿は翼宿に抱きついた。
「わ〜なっなにするんやっ!?」
「もう心配かけるななのだ!」
「悪かったって。」
「悪かったでは済まないのだ!」
「しゃ〜ないやろ〜!」
「・・・、結局は玲麗ちゃんのおかげなのだ。」
「そうやな・・・」
「翼宿。オイラたち幸せになろうなのだ。」
「あぁ、もちろんや」
そんな2人を見ている人がいた。
『幻狼。もうあんたは約束守ったも同然やで。』
にこやかに笑うその人は、そうつぶやくとフッと姿を消したのだった・・・・・
☆管理人からのコメント☆
900HITを踏んで下さった空青様へ、この小説を捧げます!
今回は「シリアス」、とリクエストを頂いたのですが・・・。どうもシリアスになってない気が・・・。私自身、ぶっちゃけ
シリアスと言う意味をはっきりわかっていない馬鹿者でして・・・。
ホントすみませんっ!お怒りメールはちゃんと受け取ります!だから、書き直し、とは言わないで〜(;;)!!!
この話は、まぁまた玲麗が登場するのですが、実はこれを思いついたのは、友達と外伝の話をしていてたまたま
思いついたのです!今、学校の友達にたまたま貸していたので・・・。
私にしては、こんな思いつき方は珍しいんですよねぇ。いつもはこういう話にしたいから、と先に考えてから状況を
決めたりするので・・・。
にしても、最後に井宿を暴走させちゃいました(^^;)すみません、これは完璧私の趣味です(*_*)やってし
まった・・・。
まぁなにはともわれ、改めましておめでとうございます!!!(ってそんな締めくくりかいっ!?)