言えぬ思いを、今・・・



コンコン

「誰だ?」
「角宿です。入っても良いですか?」
「あぁ」

ガチャン


角宿は心宿の部屋を訪れていた。

心宿は自室の机の前に向かったまま、角宿に背中を見せていた。
話しかけて良いものかと一応悩んでいた所へ、心宿が先に話しかけてきた。

「何の用だ?お前は唯様に付き添っているようにと言ったではないか」
「唯様が、あんたに来て欲しいって言うから呼びに来たんです」
「そうか。
やらなくてはならない事があるから、それが終わり次第伺います、
と唯様に伝えてくれ」
「俺は伝言役かよ、ったく・・・。はいはい、伝えときますよ。」

そう言って角宿は心宿の部屋を出ようとした。
しかし、何故か急に、随分前から気になっていた事を思い出した。
その事を考えていた為、足が止まっていた。
心宿はすばやくそれを察知した。

「どうしたのだ?」
「あっ、いえ・・・」
「何か、私に言いたい事でもあるんだろう?」

心宿は角宿に背中を見せたまま角宿の心のうちを言い当てた。

「なな、何言ってんだよっ?!」

かなり動揺している。
図星です、と言っているようなものだった。

「ふっ、図星だな」
「うっ・・・」
「なんだ、言ってみろ」

角宿は思い切って言ってみる事にした。

「あっあの・・・
心宿さんは、本当に・・・、ゆ、唯様の事が好きなんですか?」

しばらく沈黙が流れたかと思うと、心宿が角宿が部屋を訪れてから
初めて角宿の方を向いた。
角宿は一瞬ドキッとした。

「なっ、なにか・・・?」
「確かに、唯様は私にとって大切な方だ。」

無表情なままこう答えた。

「たい、せつな方?」
「あぁ、そうだ。」
「でも、それじゃあ・・・」

角宿は更に渋る。

「大切って、それは好きではない、とも取れます!!」

心宿はいつもの薄い笑みを浮かべた。
角宿は心宿の心のうちがまったく読めない。

「何故そう思う?」
「あっ、いえっ・・・なんと、なく・・・」

逆に聞き返されるとは思わず、慌ててしまう。
角宿は、自分の思い違いだと思うことにした。

「あっ、変な事聞いてすみませんでしたっ。
じゃあ俺唯様に伝えに行きます。それじゃあ」

足早に部屋を出ようとする。
が、しかし・・・

ガチャガチャ

「あれっ?!」
「まだ話の途中だったのではないのか?」
「でっ、でも・・・」
「それでは、その扉は一生開かないぞ?」
「えっ、じゃあ、これはあんたが・・?」

再び口に笑みが浮かぶ。

「でも、続きはあるのかよ?」
「ふっ。聞きたいのか?」

思わず唾を飲み込む。
そして、意を決した。

「本当の所はどうなん、ですか?」
「・・・・・、確かに、お前の言うとおり、唯様は大切な方だが、
好きと言うわけではない。」
「あんたって奴は・・・それじゃあ唯様の気持ちはどうなるんだ?!」

角宿は心宿に掴みかかっていった。
心宿は相変わらず薄い笑みを浮かべている。

「なんとか言えよ!!」
「・・・・・」
「・・・あんた、人をホントに好きになったことないだろ?!女の
気持ちなんてわかってないだろ?!」

心宿は、こんな状況にもかかわらず、顔に浮かんだ笑みが濃くなった。

「なんで笑ってるんだよ?!」
「面白いから笑ってるのではないか」
「何が面白いんだ?!」
「確かに、私は本気で好きになった女はいない。
でも、本気で好きになった者なら、今いるぞ。」

さらりと言う心宿に、呆気にとられた。
掴んでいた手が離れる。

「・・れは・・・・だよ・・・」
「なんだ?」
「それは、誰だよ?てか、言ってる事が矛盾してんじゃんか!!」
「矛盾などしていないぞ」

角宿には、何がなんだかわからない。
本気で好きになった女性はいないのに、本気で好きな人はいる
さっぱり理解できない

心宿の手が角宿の顎にかかった。
そして、宙を彷徨っていた視線を自分に向けさせるかのように、顎を
持ち上げた。
2人の視線が合う。

「こういう事だ」
「なかご、いったい・・・・・」

言葉の続きは心宿の口に吸い込まれてしまった。
心宿が角宿に口付けたのだ。

角宿は、何故か抵抗出来なかった。
いや、したくなかったのかもしれない。

角宿は心宿に初めて会った時に芽生えて、今までずっと隠してきた、
今では自分も忘れていた気持ちを思い出した。

『俺は、この人が好きなのか・・・?』


心宿の唇が離れていく。

「どうした、抵抗しないのだな?」
「っ・・・!」

角宿はその場で俯いていた。
見えている部分は少ないが、耳が赤くなっているから、きっと顔一面
赤くなっているのだろう。

やっと角宿の口が開いた。

「なっ・・・なんで、こんなこと、したんだよ?」
「なんでって、そのままの意味だぞ?」
「それ、って・・・?」

心宿の顔に、また薄い笑みが浮かんでいる。

「私が好きなのは角宿、お前だと言う事だ。
矛盾などしていないだろ?本気で好きになったのが”男”だったのだからな。」
「あんたって、そういう趣味なのかよ?!」
「そんな事関係ないのではないか?それに、お前も同じであろう?」

角宿が思わず心宿の顔を見つめた。

「俺が・・あんたと?一緒にするなよ!!俺はホモなんかじゃないぜ?!」
「そうか?では、何故私が口付けた時、お前は抵抗しなかった?いつもの
お前なら、抵抗するのではないか?」

何故か出てくる言葉は、相手を非難する言葉ばかりであった。

もっと前に言って欲しかったからなのか
この気持ちを認めたくなかったのか
わからない

でも、隠してきた気持ちはもう隠せない

「じゃあ、なんでもっと速く言ってくれなかったんだよ?!」
「八つ当たりか?でも、そんなお前も可愛いがな」
「何でだよ?!おれは・・・、俺はずっと、ずっと好きだったのに・・・」

語尾の方は震えて消えそうだった
心宿が再び角宿の顎に手をあてる
しかし、今度は視線を合わせるに留まった

「綺麗な瞳だ・・・」
「答えろよ」
「なんでだろうな。俺も初対面の時からずっと思い焦がれていたのだがな。
お前の兄、亢宿がいたからであろうか・・・」
「あに、き・・・?」

『もしかして、焼きもちって奴か?
心宿も、可愛い所があるんだなw』
などと角宿は考えていた。

心宿が離れていった。

「さぁ、唯様に伝えに行くのではなかったのか?」
「あっ・・・」

なんだかはぐらかされた気もしたが、ひとまず唯の部屋へ行く事にした。
しかし、足が動かなかった。

もっといたい、そういう気持ちが無意識に現れたのかもしれない。
心宿はそんな心中をも読んでいる。

「なんだ?お前は気持ちを確かめたその日すぐに夜を共に明かそうと
でも言うのか?」
「あっ、いえっそんなんじゃっ・・・」


なんとか足を動かした。
ぎこちないがなんとか足を扉へと向けた。

扉はいつのまにか開くようになっていた。

「それでは、しっ、失礼します」
「角宿?」

扉の前で振り返った。

「また来い」
「えっ、いつですか?」

キョトン、とした顔で聞いた。

「いつでもいいぞ。私達は恋人となったのだ。夜でも構わないのだぞ?
なんなら、私から出向いてやろうか?」

一瞬何を言っているのか理解できなかったが、全てを理解した時、
再び顔が真っ赤になっていた。

「なっ、何言ってるんだよ?!」
「本当の事だぞ?」

角宿はもう諦めた。

「まったく、俺はなんであんたの事が好きになったんだろうなぁ」
「私だからではないのか?」
「なにそれ?
まぁ、良いや。それじゃあ失礼します」

角宿は今度こそ心宿の部屋を出た。



「角宿遅かったじゃん。心宿、なんだって?」

唯が角宿に尋ねる。

「えっ?あっ、仕事が終わり次第来るそうです。」
「角宿どうしたの?ぼっとしてるわよ?」
「えっ、そうですか?」

角宿は心宿と唯の事を考えていた。

『唯様は今も心宿の事が好きなんだ。
それなのに、俺は・・・』

ごめんなさい・・・
「えっ?何か言った?」
「あっ、いえ・・・、何でもないです!
では、俺はそろそろ休ませていただきます。」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい・・・」

角宿は、嬉しいような悪いような、複雑な気持ちのまま唯の部屋を
後にした。



言葉に出すのが苦手な2人の恋が、今日、始まった・・・・・











  ☆管理人からのコメント☆

やりました〜 久し振りのキリリクUP☆

心宿に悩まされる事1週間?
私、ぶっちゃけあんまり心宿好きじゃないんで考えるのが大変でした(>_<)
書き始めてからも、苦しめられました〜
口調がわからないんです!!
何となくでしか出てこなくて、あってるかな〜(−−;)
この口調は変だ!!というご指摘もお待ちしております(^^;)

心宿はスパッと、角宿はシャイに!をモット〜に書かせていただきました
ちょっと可愛い心宿ってのも想像したのですが、やっぱり彼はこっちの方があってるかと思いまして・・・
気持ちをスパッと言っていただきました!
でも、焼きもちやくなんて、やっぱ可愛さも出てるかも(汗)

こんなんでよろしければ、夏海様!!どうぞ頂いてやって下さい(^^;)