居場所
大雨の降るその日
井宿と翼宿に別れの時が迫ってきていた・・・
昇龍江が荒れ狂う
水位はすぐそこまで迫っていた
みなが逃げ惑う中、ただ1人、その川へ向かう者がいた。
朱雀一行は、昇龍江のほとりに宿をとっていた。
そう、この川は、井宿の親友・許婚・親族・生まれ故郷さえも
一夜にして奪い去った川
本来ならもう少し道程を進んだ所に宿を取るはずだったのだが、
突然の大雨に一向は歩みを止めるしかなかった。
みんなは、もちろんこの川が井宿にとって、どういう物なのか、知っていた。
みんなはもう少し進もうと言ったが、井宿は自分は気にしないから、
と言いここにとどまる事にした。
みんなに余計な迷惑をかけたくなかった。
しかし、それ以上に、自分はもう過去を振り切れていると思っていた。
美朱たちに会ったから・・・
そして、人を愛し、愛される事ができたから・・・・・
しかしそうではなかった・・・
大雨も重なってか
1人でいると、どうしても過去の事を思い出さずにはいられない。
翼宿と、飛行の事が同時に思い起こされる。
いたたまれなくなった。
思わず外へ飛び出した。
雨など少しも気にならなかった。
足が勝手に進む。
気付くと、そこは昇龍江のほとりだった。
川はあの日のように、荒れ狂っていた。
自然と、足は川の方へ進んだ。
頭の中で、第三者の声がした。
『お前は人を愛する事も、愛される事も出来ないんだ。
お前はもう、死ぬ事しか出来ないのだ・・・』
その通りなのかもしれない。
自分は、親友を殺してしまった。
その罪からは一生逃れられないのかもしれない。
だったら・・・
『死んだ方がいいのだ。』
歩速が増す。
バシャッバシャッ、という音と共に、井宿の体が川へと入っていく。
思ったより、水の抵抗が小さく感じられた。
「もっと深い所へいかないと・・・。今度こそ、死ぬ為に・・・・・」
第三者の声を聞いてから、決心はまったく揺らがなかった。
一瞬、翼宿の顔が頭の中でちらついた。
でも、井宿には謝ることしか出来なかった
『こんなオイラを好きになってくれてありがとう。
でも、オイラは翼宿を愛する資格なんてないのだ。
オイラが翼宿の前から姿を消す事で、許して欲しいのだ・・・』
胸まで浸かるほどの深さの所まで来た。
ついに死ぬのだと決意した。
その瞬間、誰かが呼ぶ声を聞いた気がした。
「―――りっ!!」
ついに地獄からお呼びがかかったのだと思った。
でもそれは、明らかに聞き覚えのある声で・・・
「ちちり〜!!!」
もう1度、今度はっきりと聞こえた声に、井宿は初めて振り返った。
そこには、ついさっきまで思い浮かべていた翼宿がいた。
全身ずぶ濡れで。
それでも、一生懸命こちらへ駆けて来る。
ついには、川へと入ってきた。
「翼宿、来てはいけないのだ!!」
「いやや、お前、そのまま死ぬ気なんやろ?!」
「翼宿頼む、オイラを死なせてくれなのだ〜!
もう嫌なのだ。もう、これ以上過去を背負って生きるのは嫌なのだ・・・」
濁流の中だったから、最後の方は聞こえなかったかもしれない。
いや、聞こえなくて良かったかもしれない。
こんな弱音な姿が、彼の記憶に残る最後の自分になるのは嫌だった・・・
「頼む、そのまま引き返してくれなのだ〜!!」
必死に翼宿に懇願する。
しかし・・・
「なにあほな事ぬかしとるんや己は!!そんなん絶対嫌やで〜!!!」
翼宿はあろう事か、どんどん自分に近寄ってきたのだ。
死んでしまいたかった。
でも、今そうしたら、翼宿は自分の後を追ってしまうかもしれない。
それだけは、嫌だ。
翼宿には、幸せに生きて欲しい。
それが、今の井宿の唯一の願いだった・・・
「翼宿〜頼むから、引き返せ!!このままだと、お前が流されてしまうのだ〜!!!」
「お前が死ぬ気なら、それでもええ!!俺は、お前無しでは生きていけないんや!!」
必死に追いかけてくる。
しかし、翼宿は泳げないのだ。
井宿は、自分が死のうとしていたことなんて忘れていた。
今はただ、翼宿の事だけしか考えていなかった。
「翼宿っ!!!」
井宿は必死に翼宿へと近寄る。
さっきまでが嘘のように、水圧が重く感じられた。
翼宿へ近寄りたいのに・・・
もどかしさが募る。
「翼宿っ、手を伸ばすのだ〜!!」
もう少しで手が届く。
2人は必死に手を伸ばした。
しかし、無常にもいきなり水量が増した。
翼宿がふと水の中へ消えた。
「翼宿っ、翼宿〜!!!」
井宿はただひたすら叫び、手を巡らした。
そして、掴んだ温もりを、必死に掴んだ・・・・・
「・・・・・、ここは・・・?」
「翼宿、気がついたのだ?」
「・・・井宿・・・・・」
あの後、なんとか翼宿を助け出した井宿は、翼宿を抱き上げると宿へ帰った。
2人の姿を見た仲間は、咄嗟に全てを悟った。
井宿は、そんな仲間たちに苦笑いを浮かべると、
無言で翼宿の部屋へと向かった。
「ここは、宿のお前の部屋なのだ」
「・・・そか・・・。」
「たすき・・・その・・・・」
言葉の続きは、翼宿に突然抱きつかれた事で遮られた。
翼宿がきつく、きつく井宿を抱きしめた。
「良かった、お前が死ななくて・・・ほんまに良かった・・・・・」
「翼宿・・・・・。」
井宿には、謝罪の言葉も紡ぎ出せなかった
ただただ、翼宿の抱擁に答えることしか出来なかった。
「お前が、過去背負って生きるのが大変なのはわかる。
でもな、お前が死んだら、俺はどないしたらええんや?
俺は、お前無しじゃ生きていけへんで!!」
翼宿の目から、涙が零れ落ちた。
真っ直ぐな彼の気持ちなのだろう。
それを知った井宿は、ただただ謝る事しか出来なかった
「ごめんなのだ、ごめんなのだ、翼宿・・・。本当に、ごめんなのだ・・・」
「・・・、もう、絶対こんな事考えるんやないで?
それに・・・・・」
「それに?」
翼宿は顔を真っ赤にしてこう言った。
「俺の居場所は、お前の所だけや。
せやから・・・、絶対に俺の傍にいてくれな?」
彼の精一杯の気持ちが伝わってきた。
自分が、お前の存在理由を作る。
だから、絶対に死ぬな、と・・・・・
「わかったのだ・・・
翼宿、愛してるのだ・・・・・」
「俺も、やで・・・」
井宿の心に、もう『死』の文字はどこにも無かった
あるのはただ、2人で分かち合う『生』と『希望』の文字だけ・・・
翌日、元気になった井宿を見た仲間がはホッとした。
柳宿がそっと井宿に話しかけた。
「もう井宿の命は自分だけの物じゃないんだから、死のうなんて考えちゃ駄目よ?」
何もかも見透かした柳宿の発言に、井宿は苦笑いを浮かべる。
でも、柳宿の言う通りなのだ
もう、井宿のの命は井宿のだけのものではない。
翼宿の傍に有り続けなくてはならないのだ・・・
でも、それは決して苦痛ではない。
お互いが、お互いを愛しているから・・・・・
ただ、最後に疑問が残っていた。
「オイラは、また人を愛してもいいのだろうか・・・?」
「なぁに寝ぼけた事言ってんのよっ!!
人間にはね、誰にも、人を愛して、愛される権利ってもんがあるのよ!!
それを放棄するしないは個人の自由だけど、欲しいのに自分から放棄しちゃ駄目じゃない!
愛されたくても、愛されない人だっているんだから・・・」
柳宿は、どこか自分に言い聞かせるようにそう語った。
井宿には、それだけで疑問はすっかりなくなっていた。
「ありがとうなのだ、柳宿・・・」
「どういたしまして。
さっ、私と長く話してると、相手に見放されちゃうわよっ!」
柳宿が自慢の(笑)怪力で井宿を翼宿の方へ送り出した。
背中をさすりながら、井宿は翼宿の元へと向かった。
満面の笑みを浮かべた彼がそこにいた。
そして、自分の名前を呼んでくれた。
「井宿っ!!」
井宿も、翼宿、と呼び返した。
お互いの居場所を確認するように・・・・・
この2人には、決して別れの時間は来ないだろう。
死が2人を分かつ時まで・・・
☆管理人からのコメント☆
書き上げた〜!!!
自分に感動です☆
にしても、私は一体何日間(いや、何週間?!)キリリク更新をサボっていたのでしょう(爆)
ありえね〜(−−;)
あっきー、ほんますまんな〜・・・
今回も、またしてもシリアスですね〜(^^;)
最後、ちゃんと明るくしようとしたけど、前半が暗すぎた(爆)
でも、こういう話、書きたかったんです!!
ちょっと、前書いた「縛り付けてや?」に似てたかも〜
翼宿が、やけに積極的ですよねw
いつもの井宿だったら、絶対頂かれているだろうに(爆死)
でも、あんな翼宿も素敵ですvvv
I love 翼宿〜vvvvv
あっきー、遅くなっちゃったけど、キリ番GETsおめでと〜☆