勉強中の罠



「勉強・・・ですか?」



戦いも一段落したある日、翼宿が突然張宿の部屋を訪れてきて、
いきなり勉強を教えてくれ、と言ってきたのである。

「翼宿さん、頭大丈夫ですか?何か悪い物食べたなら軫宿さんに
おっしゃった方が・・・。」
「なに言うとるんやっ!俺は美朱みたいに何でも食べたりせ〜へんぞ!」
「あはは・・・。では一体どうしてなんですか?」
「それはやな・・・」
「まぁなんとなくわかりますけどね。」

張宿が翼宿より先に言ってみせる。

「わかったやと!?ほなら言ってみ!」

張宿は一瞬迷ったが、翼宿の耳に小声で言った。

「んなっ、なんでわかるんやっ!?俺は何も言うとらんのに!」
「翼宿さんが単純だからですよ。」

などとさらりと言った。

「俺は単純やあらへん!」

と言いながら張宿の頭を叩いた。

「痛いですよ〜。叩かれてもう1人の僕に変わったら勉強教えられませんよ。」
「うっ、せやかて・・・。」
「まぁ、さっきの事は違うという事にしておきますから。」
「あのなぁ・・・。」

翼宿はおとなしく引き下がった。
あまりの珍しさ(笑)に、張宿はよほど翼宿は勉強を習いたいのだろうと
悟った。

「では、早速始めますか。」
「始めるって、何をや?」
「何言ってるんですか?!勉強ですよ。」

翼宿は一瞬キョトンとした。

「今日からやってくれるんか!?」
「そうじゃないんですか?」
「セやかて準備が・・・。大丈夫なんか?」
「僕の方は大丈夫ですよ」
「そ、そか・・・。その・・・・・、サンキュウな」
「いえ。頑張って下さいね」

張宿は無邪気な笑顔でこう言った。
翼宿はそんな無邪気さについドキッときてしまった。

『あかんあかんっ。こんなガキになにドキッときとるんやっ!?』

翼宿はかなり動揺している。

張宿の方は、自分が翼宿を困らせてしまったのか、と思い

「じゃあ始めましょう。」

と話を逸らそうとする。

動揺を隠すように翼宿は

「おうっ!」

と掛け声をかけた。



そんな状況を部屋の外から盗み見ている者が1人いた。

「たすき・・・。なんで、あんな楽しそうなのだ・・・?」

井宿であった。
たまたま翼宿が張宿の部屋へ入っていったのを目撃していたのだ。
そして、そのまま井宿は2人の様子を窺っていた。

そして、見てしまった・・・。

張宿が無邪気に笑うのを見た時、一瞬心を打たれた表情をしていた
翼宿の顔を・・・。

井宿は張宿に嫉妬心を抱いた。
張宿はまだ子供なのに、井宿には同い年位の恋敵に見えている。

そんな事で、井宿はこのまま翼宿と張宿を見張る事にした。
勉強は順調(?)に進んでいるようだ。


「翼宿さん、これは今教えたばっかりですよ〜。」
「しゃ〜ないやろ〜!!難し過ぎるんや!」
「翼宿さんの学習能力がないのですよ〜」
「なんやと〜、この〜!」

翼宿が取っ組みかかる。

「なっ何するんですか?!」

ドタッ

取っ組み合っているうちに、翼宿はなんと張宿を押し倒してしまったのだ。
翼宿は顔を真っ赤にして困っている。

「あっ、すすすまんなっ。」

そう言いながらも翼宿は動けずにいた。
2人はしばらく見つめ合う。

その時・・・

ガチャッ
たたたっ

「翼宿、行くのだ!」
「ちっちちり!?一体何しとるんや!?」
「それはこっちのセリフなのだ!ちょっと来いなのだ!」

と言うと、井宿は翼宿の服を掴み引っ張っていく。

「あ〜何するんや〜!?
こら〜〜〜!!!!!

出せる限りの声を出したが、井宿には効果はなかった。

だんだん声が小さくなっていくのを張宿は感じた。

「やっぱ、井宿さん、見てらしたんですね・・・。まずかったですね・・・。
翼宿さん、大丈夫でしょうか?」

と言いながら、2人が出て行った方をしばらく眺めていた。



ドサッ

井宿は自室まで翼宿を引きずっていくと、部屋の真ん中で手を放した。
突然の事だったので、翼宿は頭をひどくぶつけた。

「井宿、痛いやないか!」
「・・・・・」
「あっ・・・井宿、さっきのは、その・・・」
「許されると思ってるのだ?」

井宿の声はいかにも怒っているものだった。

「しゃ〜ないやんか。あれは・・・」
「それだけじゃないのだ」
「なんや?」
「翼宿、張宿に1回ドキッとしたのだ?」
「えっ・・・?」

翼宿はドキッとした。

『まさか、全部見られてたんかっ?!』

翼宿は本能的に嘘をつくのはまずいと思った。

「井宿・・・、見てたんか?」
「なのだ」
「さよか・・・。俺の事怒ってるんか?」
「それもあるのだ・・・」
「それも?」

井宿の表情がますます険しくなる。

「張宿も許せないのだ。」
「なっなんでや!?悪いんは俺やないか!張宿は関係あらへんやろ?!」
「関係大有りなのだ・・・」
「なんでやっ!?」
「張宿が翼宿を誘ったのだ。意識的に誘ったのだ。きっとそうなのだ。
だから許せないのだ・・・。」

井宿は創造的なことだけで述べていた。

翼宿は俯いて震えていた。
さすがに井宿も、それを見て触れようとした、その時・・・

パシッ
「何するのだっ!?」 翼宿は井宿の手を払う。

「それはこっちのセリフや!なんでそんな事思たんや!?お前どうか
しとるんやないか!変やで。」
「変なのは翼宿なのだ!何故いきなり勉強など始めようとしたのだ?!
どうしてなのだ?!」
「それはやな・・・その・・・・・」
「やっぱり、張宿と仲良くしたかったからなのだ。そうなのだ!?」
「そやない!」
「じゃあなんなのだ!?そうじゃなかったら言えるはずなのだ!」
「せやから・・・」

井宿はこぶしをグッと握った。

「オイラ、翼宿が理由を言ってくれないのなら今から強引にでも抱くのだ!」
「何言い出すんやっ!せやから、んっ!?」

井宿は翼宿の唇を強引に奪った・・・。

体温がどんどん上がっていく事がわかる。
あふれた唾液は首筋を伝っていく。
それがくすぐったくて、耐えられない翼宿は唇を強引に離した。

「どうしてなのだっ!オイラの事嫌になったのだ!?」
「そやないて!」
「もう良いのだ!オイラ、翼宿を抱くのだっ!」

と言うと翼宿の手首を掴み、強引に引き寄せる。

その時、翼宿は決死の覚悟に出た。

「んっ!?」

今度は、翼宿から口付けたのである。
翼宿は自分の気持ちを伝えようと、井宿に熱い口付けをした。

「はぁ・・・!一体、どうしたのだ・・・?」
「俺の事わかっとらんのはお前の方じゃ!俺が勉強始めたんはな、
井宿のためなんやっでっ!!」
「へっ?」

井宿はキョトンとしていた。
翼宿が続ける。

「俺はな、井宿のために勉強始めよ思ったんや・・・。井宿は頭良いのに、
俺は井宿の話についていけん事が多いな思ってな。寂びしかったんや・・・。
井宿の恋人としてつりあえないと思ったんや・・・。」
「た・・・すき・・・・・・・・」

井宿は自分の間違いに気づき、とても切なくなった。

「たす・・・き、そんな事、考えてたのだ?馬鹿なのだ、翼宿は。
馬鹿なのだ・・・。」
「せやから張宿に勉強教えてもらお思ったんや・・・。」
「違うのだ」
「へ?」
「そういう意味の馬鹿ではないのだ・・・」
「じゃあ、どういう意味なんや?」
「それは、教えないのだ・・・」
「なんやそれ〜!?せこいで〜!」

と言うと井宿をどつく。

「痛いのだっ!何するのだ〜!」
「教えてくれんからや!」
「だから、内緒なのだw」
「あ〜許せん!こら〜!!」

2人は取っ組み合ううちに寝台の上に倒れこんでしまった。
お互いの目が合い、2人はつい笑ってしまった。

「このままやっちゃうのだ?」
「それもええなぁ。俺、今日は頭使い過ぎて疲れたんや。」
「慣れない事をするといけないのだっw」
「あ〜、そないな事言うな〜!」

今度は寝台の上で取っ組み合う。


2人は疲れ果て寝台に仲良く伸びる。

「あ〜疲れたぁ。」
「ホントなのだ〜」

「・・・翼宿?」
「ん、なんや?」
「無理して勉強する必要はないのだ。翼宿は、翼宿のままで良いのだ。」
「せやかて、俺これからも井宿の話についていけない事があるんやで・・・。
俺は嫌や!」
「そんな事ないのだ。それに、わからない事ならオイラが教えてあげるのだ。
それに、無理に詰め込んでもどうせ忘れるだけなのだ。」
「そんな事言うて、実は張宿と2人きりにさせたないんやろ?」
「翼宿、今日は冴えてるのだ〜。張宿との勉強が役に立ったのだ?」
「失礼なやっちゃな〜!この鬼畜っ!」
「それは認めるのだ。」

ポカン・・・

翼宿はもう言い返す気力も失せた。

「・・・不意打ちっ!」

井宿は覆い被さって口付ける。
でも、今度は優しいものだった。
井宿の心からの口付け・・・・・

翼宿は満たさせていくような気がした。

「ちちり・・・」
「たすき」

2人は、長い長い、2人の世界へ入り込んでいった。





翌日


「悪いなぁ張宿。昨日張り切ってくれたんにな・・・。」
「いえ、大丈夫ですよ。

井宿さんに許してもらえたのですね。良かったです。
「ん?なんや?」
「あっいえ、何でもないです!
さっ、早く井宿さんの所へ行ってあげて下さい。あちらでお待ちしてますよ。」
「おぉ、そうやな。そんじゃ、サンキュウな、張宿!」
「いえ。」

翼宿はだ〜っと駆け出した。
その間張宿は井宿がにらんでいる視線を感じた。
張宿は控えめに笑い返す。
井宿は、まだ完全に許していないのか、横に首を振った。

「僕はいつになったら許してもらえるんでしょう・・・?にしても、
翼宿さんも大変な人を好きになりましたね・・・。」

そんな事をつぶやくと、張宿は自室へ戻り書物を手に取った。











  ☆管理人からのコメント☆

999HITを踏んで下さったミ!様へ、この小説を捧げます!

今回は「理性の飛びそうな井宿」と言う事でしたので、理性を飛ばす(^^;)ために張宿を登場させました。
にしても、翼宿が勉強したいなんて言い出すでしょうか?
このネタは私自身が勉強してた時に思いついたもので・・・(なんと単純なっ!てかちゃんと勉強しろ!などと、
口調はともかく、張宿につっこまれそう・・・)

リクに合っていると嬉しいです(^^)
それでは、改めまして999HIT、おめでとうございます!!!