翼宿と井宿とタマと



「たま〜!たまいるか〜!」

翼宿はたまを探していた。
もちろん鬼宿の方を、である。

そもそも、何故翼宿が鬼宿を探しているのかと言うと、
今からかれこれ1時間前・・・

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「鬼宿を〜?!」
「そうだ。ちょっと用事があってな。だが、私はこの通り仕事が忙しい。
他の者たちもこの通りなのだ。」

確かに、いつも星宿の周りにいる人たちも、今は1人もいなかった。

「せやかて、なんで俺なんですか?」
「お前が1番暇そうだったからだ。それに、お前が1番鬼宿の事を知って
いるだろうと思ってな。」
「そんなに俺は暇に見えるんか・・・?それなら、美朱はどうなんです?」
「お前は女子を使えと言うのか?」
「そっそういう訳や・・・」
「だったら頼むぞ。」

もう翼宿には言い返す余地はなかった。

「わかりました。で、どこへ来るように言えばええんですか?」
「ここへ来るように伝えてくれ。夕方までに頼むぞ。」
「ほな、行ってきます。」
「頼んだぞ」

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という事だったのだ。
翼宿としては、誰かに使われるのは嫌だし面倒だったので、かなり機嫌が
悪かった。

「後でたま見つけたら絶対におごらせたる!」

などと決め込んでいた。

しばらく歩いて探してみたが見つかる気配はない。
翼宿は中庭全てに響かんばかりの声で、もう1度叫んでみる事にした。

「たまぁ〜!どこにおるんや〜!!!」
「にゃ〜」
「にゃ〜?」
「たまならここにいるのだっ。」

翼宿が声が聞こえた方を見てみると、木の裏から井宿とタマが出てきた。

「なんや、そっちのたまか・・・」
「違ったのだ?」
「俺が探してたのは鬼宿の方や。」
「だったら、そう言って欲しいのだ〜。」
「にゃ〜」

井宿の返事に同意するかのようにタマまで返事をしてきた。

「ほんまにお前ら似たもん同士やな〜。」
「そんなでもないのだ〜」
「にゃ〜」
「ほらやっぱし。」
「そうなのだ?」
「にゃ〜ぁ」
「今度はちょっと鳴き声違ってたで!」
「きっと違うのだ〜と言ったのだ」
「にゃ〜」
「ぷふっ!」
「あははははっ!」

2人と1匹(?)は自分たちのやり取りのおかしさについ笑ってしまった。

「タマまで笑ってるのだ」
「ほんまや!人間みたいなやっちゃな・・・」
「んにゃ〜!」
「人間と一緒にしないでほしい、と言っているのだ」
「お前猫語わかるんか〜!?」
「いや、なんとなくなのだ」
「なんとなくって・・・」
「にゃ〜」
「ほら、当たってると言ってるのだ。」
「・・・、もうええわ・・・。」

そういうと井宿の横に腰掛ける。

「あれっ?翼宿、鬼宿君に用事があったのでは・・・?」
「あぁ、皇帝はんから頼まれたんやけど、夕方まででええって
言っとったから大丈夫やろ。」
「そうなのだ・・・」

しばらく2人、と1匹(笑)は黙っていた。


「良い天気なのだ。」
「そうやな」
「にゃ〜」

タマは井宿の膝の上で気持ち良さそうに寝ている。
なぜか、翼宿はその時ちょっとムッとした。

『タマの奴〜俺が隣にいながら井宿の膝占領しおって〜!!』

ちょっと闘争心が燃えてきた。
珍しく井宿はこの状況に気づいていない。
タマには、もちろん関係のない事ではあるが・・・。

「んにゃ〜あ」

タマはのんきにも欠伸をした。
翼宿にはそれがまた許せない。

と、その時・・・・・

「にゃ〜あ」
「にゃ?」
「猫なのだ〜。宮廷内にいるなんて珍しいのだ」
「ほんまやな〜」

2〜3m離れた所から、真っ白な子猫がこっちを見ていた。
とっても可愛らしかった。

タマは目を覚ましたかと思うと、スッと井宿の膝の上から降りてその
子猫の方へ進んでいった。

「にゃ〜」
「んにゃ〜あ」

2匹はお互いを気に入ったのか、じゃれあっている。

「2匹とも仲良くなったみたいなのだ。」
「そっそうやな・・・」

翼宿にとってこの状況はとても嬉しいものであった。

『あの白猫サンキュウやで〜!!後で食べ物でもなんでもやるで〜!』

井宿を取るものが誰もいなくなったのである。
翼宿はウキウキだった。

「にゃ〜」

タマがこちらに向かって鳴いた。

「しばらく出かけてくる、と言ってるのだ。」
「なんやタマ。手早いなぁ」

などと言いつつ、心の中ではタマを応援していたのであった。

「んにゃあ」
「翼宿、怒られてるのだ」
「あ〜生意気やで〜!」

タマは聞かぬふり(?)をしてさっさと白猫を連れて行ってしまった。

2人だけが残された。

「まったくタマは・・・。軫宿にしっかり言っとかんと!

ついでに魚を食わせるようにもな・・・
「なんか言ったのだ?」
「なっなんでもあらへん!」

井宿は素直に引き下がった。

さわやかな風が通り過ぎる。

「気持ち良いのだ」
「そっそやな」

翼宿は半分うわの空であった。
せっかくタマもいなくなったのだ。

翼宿は意を決すると、行動に出た。

ゴロンッ

「翼宿っ?どうしたのだ!?どっか具合でも・・・」

翼宿が突然井宿の膝の上に寝転んできたのである。
井宿は心配でたまらない。

「なんでもあらへん。せやけど・・・しばらくこうしててもええか?」

井宿はホッとするとこう言う。

「まったく心配掛けないでほしいのだ・・・。
本当にしょうがない奴なのだ・・・」

そう言いながらも、井宿は翼宿の頭をそっと撫でてやる。
翼宿はつい気持ちよくて眠たくなった。

「ちちりぃ、このまま寝てもええか?」
「良いのだ・・・」

井宿はにっこりと笑った。

翼宿はその笑顔を見ると静かに目を閉じた。
井宿は翼宿の頭を撫でてやっている。

『俺は、幸せ者や・・・』

翼宿は深い眠りについていった・・・。





「ん・・・?もう暗くなってもうてる・・・」

翼宿が起きた時、外はもう真っ暗になっていた。
ふと見上げると、井宿の顔が目の前にあった。
井宿は翼宿を膝枕したまま眠ってしまったようだ。
更に、自分の袈裟を翼宿にかけてくれていた。

「こんなんしたら自分が寒いやんけ・・・」

紅南国は1年中比較的に暖かいとはいえ、この時間になれば涼しく
なってくる。
眠っているのだから風邪でもひくかもしれない。

「ほんま、お前は馬鹿や・・・」

そんな事を言いつつ、翼宿はすごく嬉しそうである。

「これは、ほんのお礼やで。目、覚まさんといてな・・・」

そう言うと、翼宿は井宿に口付けた。
本当に軽いものではあったが気持ちのこもったものだった。

翼宿は唇を離すと、井宿を抱き上げて宮殿内へ向かった。



「翼宿ではないかっ!」
「あっ、皇帝はん。そんな急いで一体どないしたんですか?」
「どうしたのだではない!お前は私の頼み事を忘れたのか?!」
「頼み事・・・あぁ〜〜すっかり忘れてもうてた〜!!!!!」
「今頃思い出しても遅いぞ!」

星宿は怒り気味である。
翼宿は小さくなっているばかりである。

「お前は皇帝の命を忘れたと言うのか!?良い度胸だな。」
「それは、その・・・。」
「そのではない!」
「すんません・・・」
「誤って済みはしない!」

もう翼宿は困り果てていた。
その時・・・・・

「ん〜翼宿〜、寒いのだ・・・」

そう言いながら、なんと翼宿に抱きついたのである。
翼宿はもちろん、星宿も驚いてものも言えない。

どうやら寝言らしかった。
それがわかりやっと翼宿は我に返った。

「あっ、俺井宿をひとまず部屋に置いてきてから、たま探しに行って
きます!」
「・・・もう良い。他の者に行かせる。」
「さっさよですか。」

翼宿は内心ホッとしていた。
星宿にはこの光景にはちょっとショックが大きかったようだ。

『井宿、サンキュウやで〜!』

「ほなら、失礼します」
「あぁ」

と、振り向いて歩き出した時柱の裏からタマが姿を見せた。

「にゃ〜」
「なんや、タマもいたんか?一緒に行くか?」
「にゃ〜」
「そうか。ほなら行くで」

翼宿はタマと一緒に井宿の部屋に向かった。


「井宿・・・、今のは狙ったのか?」

星宿はそんな事を考えてみたが、さすがに考えすぎだと思い直した。
そして他の者に鬼宿探しを頼もう、と思い歩き出した。


実は、星宿の読み通り、井宿は起きていて翼宿を助ける為に抱きついて
きたのだ、と知る者は他にはいなかった。

いや、もしかしたらタマならわかっていたのかもしれない。
しかし、それは井宿以外には誰にもわからない・・・











  ☆管理人からのコメント☆

1111HITを踏んで下さったみずち様へ、この小説を捧げます!遅くなってしまって大変すみませんっ!

今回「タマと井宿」と最初リクを受けました時、私は「鬼宿と井宿」かと勘違いしてしまい、「それなら小説でも!」
などと馬鹿な事を思いこんな作品になったのです(−−;)
でも、なんか手を抜いたような感じになってしまいました(;;)ちゃんと考えて書いたのに・・・。納得いってません。
でも書き直せません(;;)忙しいって嫌な事です(TOT)

今回はリクを受けたので頑張ってほのぼの系にしました。
私にしては(^^;)珍しくほのぼの系になったのではないかと思います。もちろん、落ちはちゃんとつけましたが
(ちゃんと・・・?)

タマの鳴き声を書くのが結構大変でした・・・。なんか1・2通りしかない気が・・・。そこは、皆様の想像力にお任せ
いたします(^^;) (ってなんて無責任なっ!)

みずち様、いつもお世話になっています。
改めましておめでとうございます!!