歩き続けた 真っ暗な世界

       深い暗闇は全てを飲み込むかのように広がっている

       その先に待っているのは、何―?

       


孤独な吸血鬼( vampire)









闇を抜けると其処にあったのは大量の十字架。
辺りの闇とは反対に、真っ白な十字架はその中でやけに目立つ。
お化けとかそんな物は信じていない。でも、こんな場所なら居てもおかしく無いと思う。
多少の気味の悪さを感じたが、 は何かに誘われるように墓場に足を踏み入れていった。

辺りは不気味な程静まり返っている。
自分の足音が一切しないのが分かる。意識して音を出そうとしても何の音もしないというのは一体…?
不思議に思いながらも前に進む。行く当ても無いし…進み続けるしかない。





墓場の真上に月が昇った。怖くなるほど美しい金色の月が。
月明かりに照らされて、十字架の影が出来る。

誰か、居る。

十字架の上に人影がある。月の光で此処からじゃ相手の顔が見えない。
墓の上に座るなんて罰当たりな…祟られるよ。


「今夜は…月が綺麗やと思わん?」


聞こえてきた声は何処かで聞いた事のある様な物だった。
何処で聞いたのかなんて覚えていないけど…でも、確かに聞いた事のある声だった。
影が動いた。
ひらりと十字架の上から飛び降り、月明かりの下へ。
真っ黒なコート、鮮やかなオレンジ色の髪、血の様に赤い瞳。それから…牙?


「なぁ、血ぃくれへん?腹減って死にそうやねん。」

「……吸血鬼?」

「せや♪」


見た目はちゃんと吸血鬼。しかし口調のせいか、どうもイメージと違う。
関西弁の吸血鬼には疑いの目を向ける。
そんな事はお構い無しに、にこにこと笑う吸血鬼。


「で。あんた、血ぃくれへん?」

「"あんた"じゃなくてね」

「じゃあ。あ、俺は翼宿な!」


翼宿と名乗った吸血鬼のお腹が鳴る。
は『よっぽどお腹空いてんのね』と思いながら溜息をつく。
元々困っている人間を放っておける様なタイプじゃない。そう、困っている『人間は。』


「……吸血鬼に血吸われたら自分も吸血鬼の仲間になっちゃうんでしょ?」


前に本で見た。とは付け加える。
それには吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になってしまう…と書いてあった。
疑わしげな目で自分を見るを見ながら、翼宿は言う。


「それは嘘や、首から吸うたら何もならへん。相手を同族にしたかったら此処や。」


そう言いながら自分の唇を指す翼宿。


「仲間にしたい奴と俺の血が交わればええねん。それも此処やないとあかん」


意地悪そうに笑うとの顎を掴んで上を向かせる。
突然の事に驚くは目を大きく見開いた。翼宿の顔が近づいてくる。


「俺の仲間に…って、同族なん?」


驚いた様にの深紅の瞳を覗き込む。
血の色を宿した瞳と、深紅の瞳が見つめ合う。


「残念。目の色は生まれつきなの」


はからかう様にそう言いながら、翼宿の手を振り解く。
翼宿から一歩離れると
「一滴単位で売ってあげようか?」
といたずらっ子の様に笑う。深紅の瞳に月の光が反射し、きらきらと光る。


「……………。」

「飲む気無くなったでしょ?」

「…ってか俺見て怖がらへんなんて、おもろい奴やな!俺が怖ないん?」

「別に?だって無理やり血吸ったりとかしないでしょ?

「分からんで?」

「大丈夫。貴方は絶対にそんな事しないから」


『絶対』という自信が何処から来たのかは分からない。
そんな根拠の無い自信を信じる事が出来たのは、多分この吸血鬼の目を見たから。
は自分でも気付かないうちに、翼宿の瞳の奥にある孤独を感じていた。





     ■ □ ■ □ ■






翌日も、その次の日も…は此処に来た。
最初は自分に近づいてくる人間が珍しいから話してみただけやった。
でも、今はが来るんが楽しみになってる様な気する。
今まで感じた事の無い感情が俺の中で生まれた様な…。


「吸血鬼が不死身ってホント?」

「本間やで、ある程度まで成長したら後は年だけや。外見は何も変わらへん。
 でもな、大体が生きるん嫌になって消えてまうねん。


俺もいつか、そうなってまうかも知れへん…
弱い所なんて見せたないから言わへんけど、
一人で時を過ごして一人で消えてしまうんやと思うんはやっぱり辛かった。


「今は?いくつなの?」

「418歳」

「結構な歳じゃん。あたしより400も上」


は外見だけなら俺より1、2歳下位。
でも俺は『人間』やないから、これ以上外見が変わる事はありえんし、寿命なんて物も無い。
俺も人間やったらと一緒に生きていく事が出来たかも知れんのに…。


「ずっと一人で此処に居たの?」

「…まぁな」

「寂しかった?」


はそう言いながら俺の髪に触れる。
何て答えたらいいのか分からなくて戸惑う俺に向かって彼女は微笑む。
いつもの笑顔とは違う、俺の見た事の無い優しい笑顔だった。














「あたしの血、あげようか?…此処から」


そう言いながらは自分の唇を指す。
正直最初は彼女が何を言っているのか分からなかった。


「あたしが吸血鬼になれば一緒に居られるじゃない?
 …独りじゃないよ?あたしがずっと、ずーっと一緒に居る」


頭で何かを考える前に、俺の頬を涙が伝った。寂しかったんや。ずっと、ずっと。
気ぃついたら此処に居って、何をする訳でも誰かに会う訳でもなく独りで過ごしていた。
ずっと誰かに『独りじゃない』って言って欲しかったのかも知れん。
でも、その誰かがやなかったらきっとこんな気持ちにはならんかったと思う。


「……本間にええんか?後から後悔しても戻られへんのやで?」

「後悔なんてする訳無いじゃない。だってあたしが望んだ事なのよ?」


一緒に生きたい、と初めてそんな感情を持った。
が吸血鬼になる事を本間に望んでるんは俺の方やろうな。
照れ臭いから絶対には言わへんけど。









俺は自分の唇を噛んだ。
鋭い牙が其処にチクリと痛みを残し、紅い血が流れ出す。
そっとの頬に触れれば彼女は「冷たい」と言って笑う。
自分の心臓の音がやけに大きく鳴っている様な気がする。 に聞こえとったら恥ずいよな…。
不思議な気持ち。欲しかった物をやっと手に入れた子供の様な…。

ゆっくりと唇を重ねた。
短いキスの後、再び互いの唇を重ね合わせる。
の形の整った唇を噛むのは酷く悪い事に思えた。
でも、それ以上にが欲しかった…―

                

                   口内に広がる鉄の匂いが、何故かとても甘く感じた






「愛してる、…」







初めて言った言葉。
に会わなければ、俺は一生この言葉の意味を知らなかっただろう。
愛して、愛されて…大切な人が隣にいる喜びを。















               独りじゃないよ

               これからの『時』はあたしがずっと一緒に居るから

               飽きるくらいに 二人で居よう

               いい所も 悪い所も

               全部ひっくるめて 見ててあげるから

      
               だから





               二人で永遠を生きよう











  ☆管理人からのコメント☆

夏海様のサイトで、希望者に配布していたハロウィーンの日の作品。
なんと、フリー配布のほかにももう1つ作っていらっしゃったんですよ〜!!!
尊敬&感激ですw
しかも、すっごくお話が素敵v
なんだか、切ない系で、でも最後はキュン、とくるような・・・
なんだか、言葉では表しきれません(>_<)
でも、とにかくすっごく素敵なんです(*^−^*)
夏海様、メールで何度も送って頂いちゃいまして、本当にすみませんでした(>_<)
本当に、ありがとうございます!



※HP用に多少加工いたしました。
 尚内容はまったく変わりありません!