上手く言えないかもしれないけど

聞いてくれますか? 私の気持ち。

貴方に届けたい 溢れ出しそうな 苦しいほどの…

この思いを――





愛のチョコは誰のもの!? 〜後編〜





バレンタインを翌日に控えた職員室。会話の内容はその話ばかり。
この紅南女子高校はチョコレートの持込を認めていない、表向きは。
実際、先生達は毎年沢山のチョコを貰っている。
この学校の理事長である星宿先生だって、沢山の女生徒からチョコを貰っている。
女の子達は皆、ドラマの様な教師と生徒の恋物語に憧れているのだろう。

毎年必ず人気のある生徒というのは居て…。
今年一番の人気は一年生の。顔よし、性格よし、おまけに勉強も出来る。
完璧かと思えば体育が苦手という可愛らしい面も。
明るく元気な性格から、同姓にも好かれ、昨年の校内人気投票では1位を獲得した。





さんは誰にチョコをあげるんでしょうね?」

テストが近いというのに、誰もそんな事は気にしていない。
この時期気になるのはバレンタインのチョコだけ。
先生同士の会話の中にもよく登場する
チョコの話だって自然にからのチョコは誰の物になるのか、という流れになる。


「俺やろ」

「あら、誰が貰えるかなんて分かんないじゃない」


冗談っぽい口調だが、相当本気の様な攻児先生。
家庭科の柳宿先生も、口調からして本気のようだ。柳宿先生は理事長を狙っているらしいが…実の所は不明。
キィーっと椅子を動かし、会話の中に入る。


「柳宿先生は理事長が好きだったんじゃないのだ?」

「でもさんってしっかりしてるし、優しいし…。あんな子からもらえたら嬉しいじゃないv」

「少なくともオカマにチョコはやらんて♪」

「〜〜翼宿先生?」

「だからと言って翼宿先生がもらえる訳でもありませんし…」

「分からんやん、そんなん。」

「そーそ、俺が貰うかも知れへんし♪」


体育担当の関西弁コンビは二人とも本気のよう。
今年はのチョコだけ競争率が高そうだ。まだ一年生だからきっと…来年、再来年も。
ふと気付くと会話に参加してない人が二人。
英語担当の梶原先生と、数学担当での担任である鬼宿先生。


「鬼宿先生と梶原先生はぁ?」

「いや…俺達は……。」


なぁ、と言って二人は顔を見合わせる。
二人のその表情は何処か幸せそうだった。


「ははーん?二人とも特定の人が居るのね?」

「…なんか、意外やな」

「梶原先生とか特にな」

「余計なお世話だっ!」









        ■ □ ■ □ ■









さんちょっと手伝ってもらっていい??」

さん資料運ぶの手伝って欲しいのだー」

さーーん!!」 「さん!!」


何で…?
今日に限ってこんなに先生に呼ばれるの!?
は朝から先生達に呼ばれっぱなしだった。先生達の狙いは勿論からのチョコ。
その証拠に、資料室での資料探しなど二人きりになるシチュエーションが多かった。
はテキパキと頼まれた仕事をこなす。が教室を出て行った後、先生達は揃ってがっくりと肩を落としたらしい。








ー!次移動だよー?」

「待ってー!!!」


は階段の下で待つ美朱達の所へ走っていく。
後数段という所で足を踏み外してしまった。
キャっ、という短い悲鳴の後、は足を捻って転んでしまった。


!大丈夫!?」

「〜〜いったぁ…」


保健室へ行こう、と唯がの手を取った時。タイミングを計ったかのようにチャイムが鳴った。
次の教科の担当、心宿先生は遅刻などに厳しい。二人が付き添ってくれるというのは嬉しいが、
保健室の付き添いなど一人で充分だ、と言う心宿先生の冷たい声が脳に響いた。


「私保健室行ってから行くからさ、二人とも先行ってていいよ!!」


でも…と心配そうに自分を見る二人に、は大丈夫だからvと笑顔で言ってみせる。
自分のせいで二人に迷惑かける訳にも行かないし…と。半ば強引に二人に教室に行って貰った。
二人が行った事を確認するとは手すりをもって階段を下り始めた。
ふと右足を見ると捻った場所が赤く腫れているのが分かる。右足は熱を持ち、痛む。


?何やってんのや?」

「翼宿先生!」


翼宿はが右足を庇うように歩いている事に気付く。
三白眼を細め、よく見ると靴の上からでも腫れている事が分かる。
向かう方向からして次の授業の教室ではなく、恐らく一階の保健室。
でも今日は確か…?


「軫宿先生なら今日出張やで?」


え…と困ったような表情になった
翼宿は優しく微笑むと、よっとを抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこの抱き方で。
は突然の事に驚きつつ、重いから…と降りようとする。


「重ないって!!それどころか軽すぎや」

「でも…っ!」

「気にせんとき♪それよりちゃんと掴まりや?落ちるで?」


好きな人にお姫様抱っこ…。気持ちは凄い嬉しい、嬉しいんですがっっ!!!!
は自分の顔が赤くなっていくのを感じていた。そして、私はこの人が好きなんだなぁ…と改めて思った。
ちゃんと掴まりや、翼宿に言われたとおりには、翼宿の首に回す手に少しだけ力を込めた。
赤い顔を隠すように翼宿の肩に顔を埋めて。







「出来たで♪」


の足には綺麗に湿布が張られていた。
彼みたいなタイプが…と少し意外な気持ちもあったが、体育の先生だからという事で納得できた。
腫れも先ほどに比べれば少しは落ち着いたようだ。顔が熱いのはさっきと変わっていないが。


「すいません、わざわざ…」

「ええて。あんま気にせんで…」


その後、チャイムが鳴りは自分の教室に戻った。
美朱達と作ったトリュフはかばんの中。折角二人きりだったのに…とは肩を落とした。
捻った右足は先程の痛む熱さとは違う熱さに包まれていた。
鼓動が普段より早いリズムで鳴る、顔が熱くて……少し楽しいような、ドキドキするような。
愛とか恋とかいうものは、意識すればしてしまうほど、嬉しく…そして苦しくもなる。







放課後。美朱と唯は一緒に渡すらしく別行動。
は翼宿がよくいるグラウンドへ向かった。さっきのお礼と…自分の気持ちを伝える為に。
予感は的中。伊達にずっと見てきた訳ではない。
翼宿の方へ走り出そうとしただったが、ふっとその場で止まってしまった。
不安で、怖くて、心臓の音なんかさっきとは比べ物にならないくらい早い。


気持ちを込めて、丁寧に丁寧に作ったトリュフ。
ちゃんと味見もしたし、ラッピングだって…。
喜んでくれるかな? でも相手は先生だし…こういうの、迷惑かな…。
他の子からも沢山貰ってたみたいだし…あたしなんかがあげたら迷惑なんじゃ…。


不安な気持ちは、グルグル回る。
そう思えば思うほど、踏み出す勇気が無くなって…。
戻ろうか、告白なんてやめてしまおうか…そうも思った。
しかし、「」と自分の名前を呼ぶ翼宿の声が心の中に響いた。
無理でも、伝えたい。私の気持ちを…聞いて欲しい。大きく息を吸い込んで、大きく息を吐いた。
踏み出した一歩が、何かに繋がる事を祈りつつ。







「翼宿先生!!」









        ■ □ ■ □ ■









は生徒で、俺はこんなんでも一応教師で…。
名前が可愛ええから呼び捨てで呼ぶ、そんなんは表向きの理由。
好きなヤツの名前を呼びたいから…だから名前で呼ぶだけ。

例えが他のヤツを見とっても、俺の気持ちは変わらんと思う。
初めて会った時から、ずっと…ずっと持っとった気持ち。
あの長い髪に触れたいってずっと思っとった、頬とか触れたら柔らかそうやなって。

勉強かて元々出来る訳ちゃう。
図書館で一人で勉強しとった…努力しとるんもちゃんと知っとる。
俺の担当の体育が苦手なんも、全部、全部……。

の全てが      イトシクテ








「翼宿先生!!」


声で誰か分かってしまう。それだけ彼女が愛しいから。
の事を思ってた時に、本人が来るなんて…これって以心伝心ってヤツか?
が俺の所へ走ってくる、バレンタインだという事もあり、心臓の音が普段より早く聞こえる。
さっきはありがとうございました!と頭を下げる
少し頬が赤いんは、俺の気のせいやろか……。


「…それと…コレ…」

「……義理じゃないんです、…私、初めて会った時から……っ…!」

「、翼宿先生が好きなんですっ!!!」


夢かと思った。
こうなったらええな、って言うんがそのまま現実になったから。
の顔はさっきとは比べ物にならないくらい真っ赤で、チョコを差し出す手が震えている。
そんな姿も、愛しくてたまらなくて……。
『好きな子に意地悪したい』そんなんは子供の心理かもしれん。でも、それは相手の気を引きたいから……。
にちゃんと、真っ直ぐに俺を見て欲しいから、俺は少し意地悪な笑顔で笑ってみる。



「一応チョコとかアカン事になっとんねんけど……」

「…俺が没収って事にしとくわ」

「他の先生にのチョコはやれへんしな♪」

「教師と生徒の禁断の恋ってのも悪ないと思うで♪」



そう言った途端、がバッと顔を上げる。やっと俺を見てくれた…。
大きく目を見開いて俺を見るに、いつもと同じ笑顔で笑ってみる。
いつもと同じ?それは少しちゃうかもしれん。
だって、の気持ちと俺の気持ちは同じやってんから。嬉しくない訳が、無い。
の頬を、涙が一筋伝った。
彼女は俺に向かって、幸せそうな、嬉しそうな、今まで見た事の無い様な笑顔で微笑んだ。


「……、なんか…ドラマみたいですね…」

「ええんちゃう?ドラマみたいな恋ってのも。」

「………そうですねv」


高鳴る鼓動。
これはきっと、と一緒に居る限り変わらんと思う。
を思って胸が痛いんも、変わらんと思う。
でもそれは、とても…とても、幸せな事やから……。
この先ずっと、何度でも、俺はこの言葉をに伝えるやろう。






「俺も…、俺ものコト好きやってんv」

「…愛しとる」


「私も、翼宿先生が…大好きですvv」







これから何年経ってもきっと…

いや、絶対に…

の愛のチョコは俺だけのもの











  ☆管理人からのコメント☆

なんて素敵な小説でしょう〜(≧▽≦)
まず設定からしてツボです〜(*^−^*)
翼宿が先生〜w
夢主も素敵ですよね(>▽<)
でもでも、夢主の設定が、頭がいいけど体育だけ駄目、ってのが、私と逆だなぁって思って、ちょこっと重ね切れなくて残念だったけど・・・
でもでも、翼宿に特別指導してもらえるなんて、羨ましすぎ〜(≧▽≦)
もう幸せすぎて死にそう〜 あれぇ〜(バタッ)



※HP用に多少加工いたしました。
 尚内容はまったく変わりありません!