「どわっ！？お前、何しに来たん！？」
「いやぁ私も独りになっちゃったからさぁ；」

攻児の幼馴染であるが�至t山にやって来たのは数ヶ月前の事。
知り合いという誼で女禁である此処にもおいてもらった彼女だが、
今じゃすっかり女山賊だ。





恋慕日誌は前途多難




「やぁ！通行人の皆さんじゃあ〜りませんかっ！」

大事な荷物を抱えている数人の中年男たちの前に、
木の上のから降りてきたのは二十歳前後の娘。
綺麗な瞳をカッと見開いて悪党たちを見下した。


「何だ姉ちゃん！？」
「私？保安官のステファニーです。」
「んな訳ないやろ〜っ！！」


ドサッと彼女に声は荒げているものの、
行動は優しく突っ込んだのは、
オレンジ色の髪の毛を逆立てた青年。
中年男達は突然の足止めに顔をしかめた。


「アンタら何なんや！？俺らは急いどんねん。どいてくれんかっ。」


荷物をよいしょと持ち上げた恰幅のいい男は、
２人の間を通ろうと突き進む。
しかしその勢いはガシッと両腕を掴まれて阻止された。
おっととつんのめりそうになる男。


「アカンな〜通行料払うてもらわんと。」
「貴方たちの悪行の話は聞いてるのよ？」
「その汚らしい金を此処で浄化せな。」
「な、何言ってやがんだっ！若造がっ！」


苛立った中年男がどかっと２人を放そうとした時、
掴んだ腕をぐるりと回され、ステンッと尻餅をつく。
その隙に持っていた手荷物は娘の手にひょいと渡った。
まるで機械のように動くスムーズな行為。
そして娘と青年はニカッと笑って言う。


「私らこれが仕事なんですよ〜。」
「そんでもって俺らは世界が羨む名コンビ！」
「んな訳ないやろ〜っ！！」


ドサッという鈍い音と共に先ほどと同じパターンで、
オレンジ頭の上に降りてきたのは頬に傷のある整った顔の好青年。
しかしさっきの登場と唯一違うのはそのツッコミ具合に優しさが皆無である事だ。
どうやら、登場が遅れたことに腹を立てているらしく、
娘を挟んで自分と同じほどの背丈の青年に怒鳴りついた。


「はよボケんかいっアホッ！登場が遅れたやないかいっ！」
「東条が遅れた？何処にいるの？東条さん。」
「「意味わからんわっ！」」


青年達のやり取りを前に、
きょとん顔の娘の両肩にビシッと２人のツッコミが入る。
その下手な三弾攻撃を仕掛ける漫才を目の前にして、
もちろん、通行人の男達は「はぁ？」という顔で彼らを見ていた。


「あんた等なんですの？」

「「「　�至t山の山賊だっつーたやろ！！！　」」」


・・・・言ったっけ？と眉間にシワを寄せる男達を通り抜けて、
気持ちのいい位の同声が綺麗に山に呼応した。





「いや〜今日ののボケも快調やったなぁ！」
「ホンマやなぁ！」
「ボケ？・・・・私ボケたっけ？」
「「・・・・・・・・・・・。」」

山道を歩きながら、ケロンッとしている。
幻狼と攻児は顔を見合わせた。

（・・・・え！？東条さんってあれボケてたんやないの！？）
（はホンマの天然やねん。）
（て、天然ボケ！？あれが！？）


「そーいえば、東条さんはどうしたの？」
「・・・・せやなぁ何処行ったんやろな〜東条さん；」


ほらな、と幻狼を一瞥してははっと苦笑いをしている攻児の横で、
嘘やろ！？そりゃ天性のボケ力や！！と騒ぐ幻狼。
そんな事を言われているなんて全く気がついちゃいないは、
ニコニコとしながら祠の前に立った。

きちっと横隊に整列して手を合わせる３人の男女。
仕事終了報告の後、
それぞれがそれぞれの願をするのが毎日の日課である。


「に変な虫がつかんように、お願いします。」
「が俺の傍にずーっとおるように、お願いします。」
「いつか私が頭になっちゃったりなんかしちゃって！・・・・いや切実にお願いします。」


仕事は意気投合しても願の目的はバラバラであった。
そして自分の願望に満足しながらニカッと笑うと祠から回れ右。
館へ帰るのであった。
その途中、は何となく疑問に思っていた事を口にしてみる。


「２人はさ、祠で何のお願いしてるの？」
「俺っ！？そ、そんなん何でもええやんけっ！！」
「・・・・・？」


なぜか顔を赤めて返答する幻狼。
その行動には首を傾げながら、同じ質問の返答を、
今度は攻児に求めた。
ぎくっとした攻児も視線を反らしながら言う。


「いやっ・・・・願い事っちゅーのは言ったら叶わへんねん。」
「・・・・そっか。それもそうだ。」


とりあえず納得した様子のに２人はホッと一息をつく。
当然、自分の願い事を彼女に言えるはずがないのだから。


（（　鈍感にも程があるわ・・・。　））


幻狼と攻児はそう思いながら、
鼻歌を歌って前方を歩いていくノー天気娘を眺めていた。




　　　　　　　　　　　　　＋＋＋＋＋＋＋




が館の自分の部屋へ入っていくのを確認してから、
もう１つの毎日の日課を始める。
それは幻狼と攻児だけの秘密の日課。
キッと鋭い視線でお互いを見つめ、
火花を散らすと、一目散に大広間へ向う。


「よっしゃあ勝負じゃ攻児！今日こそ負けへんぞ！」
「はんっ！そんなん言えるのも今のうちやで！の事知り尽くしてるんは俺やからなぁ！」
「昔は昔で今は今やっ！！」


大声で怒鳴りあっている男二人を炊き出しの米花ばあさんは、
ご飯の入った樽を運びながら、やれやれと見つめていた。
彼らの秘密の日課とは・・・・・『夕食時のの隣の席争奪戦』なのだ。

�至t山の館の大広間は長机に長椅子。
だからを真ん中にすれば２人とも隣に座れるのだが、
なぜかはいつも決まって端っこに座るのだ。
その為に、このバトルは連日繰り返される。
正面に座る事も可能だが、やはり密着できるのは隣の席。
にほれ込んでいる幻狼と攻児はそれを掛けて勝負をするのだ。

その勝負内容とは・・・・


「じゃんけんポンッ！」
「あっち向いてホイッ！」


である。それはそれはこんなに真剣なあっち向いてホイは、
世界中の何処を探してもないだろう。
開始早々から試合はデットヒート。
両者一歩も譲らない激戦が執り行われる。


「・・・・っちっくしょ〜そろそろ堪忍し〜や攻児。」
「お前にだけは・・・負けられへんねんっ・・・！」


ゼーハーと息を上げながら勝負をする頭と最高幹部。
何をやっているんだか、
と部下たちが、とっくに食事を済ませて、
冷やかな視線を送っている事なんぞこれっぽっちも気がついちゃいない。

そしてついに・・・・



「よっしゃぁぁぁ！俺の勝ちやぁ！！」
「こ、この俺がこんアホに負けるとは・・・・。」
「ほんなら今日は俺がの隣やんなっ！」


どうやら本日の勝者は幻狼だったようだ。
八重歯をニッと出して喜んで席に着くと、
今か今かと姫君の登場を待っている。
その笑顔といったらこの上ない。
今の彼には何も見えちゃいない様だ。

しかしいくら待っても愛しのは現れない。
また一人・・・また一人・・・と、
部下たちは続々と食事を終えて去っていく。


「何で？何ではこんの？」


幻狼がはてと首を傾げる。
食堂には気がつけば自分１人。
相棒の攻児も、いちゃついてる所見せられてたまっかいっ！
と、さっさと夕食を食べて去って行った。


そしてバタンと開いた大広間の扉に輝かしいばかりの瞳を贈るが、
現れたのはではなく、米花ばぁさん。
幻狼は「なんやねん」と表情を歪ませる。
そんな彼を見ながら、そろそろ片づけを終らせたいと思った彼女は、
１人寂しげな幻狼に申し訳なさそうに近づいていった。
事情を知っているからか、今から口にする事はたいへん言い難い内容らしい。


「幻ちゃん。ちゃん今日は新人達と食べて行ったよ？」
「はぁ！？どーいうこっちゃねんっっ！！」
「なんか指導だったみたいだねぇ。気がつかなかったのかい？」


なんちゅー事や！！！と三白眼を吊り上げる幻狼。
どうやら幻狼が勝利の幸せに浸っていて気づかぬうちに、
何時もの席ではなく別の場所について、
しかも新人山賊と共に食事をとったらしいのだ。
幻狼の掴んだ勝利はご破算となってしまうのであった。




　　　　　　　　　　　＋＋＋＋＋＋＋




夜も深まる中、幻狼と攻児は浴室の脱衣所にいた。
いつもならもっと早く済ませているのだが、
この日は野暮用が絶えず、
珍しく遅い時間の入浴となったのだ。

結局、幻狼はと食事ができず１人寂しく夕食を済ませたという話を聞いて、
攻児はケラケラと笑う。


「はぁのやつ新人と何してたんやろ？」
「ええ加減あきらめーや。ククッ！！」
「せやかて！！初めて勝ったのに・・・・っ！！」
「それはな、お前がとくっつくなっちゅーとるんや神様が！」
「何ほざいとんねんっボケェ！」


恋敵同士、そんなやりとりをしつつ、浴室の扉を開けた。
真っ白の湯気がすーっと立ち込める中、よく見ると奥に人影が見える。
どうやら浴槽に誰かつかっているようだ。


「なんやねんこないな時間に入る奴なんておるんやな？」
「新人かぁ？」


かつてまだ自分が新人だった頃を思い出す。
最後に入って風呂掃除をしたあの懐かしくも苦い記憶。
雑用で一番面倒だったのが浴場清掃だったなぁとふと思いながら、
幻狼と攻児がヅカヅカと奥へ足を進めていくとそこには・・・・


「「　！！？？」」


２人は同時に大声をあげる。
人物の正体は新人などというむさ苦しいものではなく、愛しのだったのだ。
ハッと気がついたが一驚して、
白濁している湯舟にしっかりつかりながら、その声の主を見上げた。

当然、素っ裸の幻狼と攻児は、慌てて近場にあった桶を手に取ると、
”自分のは見てもいいがコイツのは見るな！”
とでも言うように、なぜかお互いの大事な部分を隠し合う。
そしてはすぐに視線を反らして言った。


「見てない！見てない！！比べてない！！」
「（く、比べよったなぁ！？）い、いやぁ参りましたねぇ攻児サン。」
「（俺の勝ちやろ？）ほ、ホンマやねぇ幻狼クン。」


余所余所しい態度で台詞を棒読みする幻狼と攻児。
覗くつもりなんてサラサラなかったのだが、
どう考えたってこの状況はオイシイ。
の入浴シーンを拝めるなんて思ってもみない幸運ではないか。
２人はゴクリと唾を飲んだ。

するとはお湯につかったからか、
はたまた別の理由からなのか、顔を真っ赤にしたまま告げる。


「い、今から出るから２人とも後ろ向いててっ！！」
「「　わ、わかりました・・・。　」」


止む終えず素直に指示に従う。
自分一人ならば放送禁止事項への行動突入も考えられたが、
さすがに男２人で手を出すのは気が引ける。
幻狼と攻児は桶を動かさないように、それは器用に、
ちょこちょことした足取りでに背を向けた。

それを恐る恐る確認したは、
ゆっくりと浴槽から立ち上がる。
バシャンというお湯がはじける音が響き渡った。


（････浴槽からは出たな？っちゅー事は今、真後ろにおんねんな？）
（絶対振り向くなよっ幻狼！）
（そっそれはこっちの台詞やでっっ！）
（あ〜でもこんなんあるかぁ！？蛇の生殺しやで！）
（ホンマや〜！どぉっぁっ！？アカンアカン！俺の息子しっかりしてや〜！！）
（どわっ！お前なぁ桶で隠れなくなるやろっアホ！！）


そんな下ネタなヒソヒソ話の後ろを通過し、
は足早に脱衣所に向う。

しかし・・・・



ステンッ！！


「ギャッァッァァ！？」


の悲鳴が響き渡る。
そう、は無情にも濡れた地面に足を滑らせてしまい、
転んでしまったのだ。
勿論、そんな叫びを聞いてしまったら、
当然あの２人は変な意味ではなく、じっとしていられない訳で。


「！？」
「どないしたん！？」


状況を忘れて慌てて振り返る。
そして丸くなっているへ近づいた。
そう、桶を手放して生まれたままの姿で。


「だっ大丈夫か！？」
「怪我せーへんかったか！？」


攻児に支えられたの目の前には、
自分を心配する幻狼の姿。
この中で唯一状況を的確に判断した者の叫びが、
先ほどの１００倍になって浴場に響き渡った。


「ギャャッャャャャャヤヤヤヤヤヤ！！！！」



バチコーン！！！


「「痛っぁぁぁぁ！？」」






翌日。
新人山賊が頭と幹部の元へ朝の挨拶にやって来た。
昨日、何か良い事があったのか、
新人によって景気よく開けられる幹部室の扉。


「おはよーございますっ！頭！攻児兄キ！・・・ってどないしはったんですかその顔！？」


新人は目を丸くして、
憧れの男達を見上げる。


「カッコエエやろ？」
「山賊注目のこの秋流行の男メイクやで？」


苦笑いする幻狼と攻児の頬には、
同一人物が同時に両手で叩いたのであろう左右対称の赤い手形が、
仲良くクッキリと鮮明に残っていた。










　　☆管理人からのコメント☆

伽夜のサイトで見事キリ番を踏みまして、「天然な夢主が幻狼と攻児に愛される」なんてリクをした結果・・・・・
こんなにも素敵な小説が出来上がってまいりました（＞▽＜）
マジ、幸せです〜ｖｖ
天然キャラって憧れるんですよね〜
私はどっちかって言うとそういう子に突っ込むタイプなんで；；
とまぁとにかく、幻狼と攻児がめっちゃ素敵でしたｖｖｖ
あんな�至t山の１日を過ごしてみたいなｖｖ

更に・・・下ネタが面白かった（笑）
可愛いね〜２人ｖｖ
あんな２人もベリグッド！！（爆）

なにはともあれ・・・・・素敵な小説をどうもありがとね〜（≧▽≦）


※ＨＰ用に多少加工いたしました。
　尚内容はまったく変わりありません！