周りを木々に囲まれたこの場所で、下手に動いては迷ってしまう。
だが、このまま此処に居ても始まらない。
「どないしよ…。完璧に迷ってもうた……。」
「攻児達心配してるよね。」
「もう日も暮れて来よったし…。今夜は此処で野宿するしかあらへんな。」
その言葉には疑わしげな目で翼宿を見た。
視線の意味を理解したのか、慌てて翼宿が口を開いた。
「べ、別に変な意味やあらへんからな!?」
「どうだか。」
「〜〜〜〜お前なぁ…。」
「冗談だよっ♪」
楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。
月が真上に昇り二人を照らしている。
鳥の鳴き声も静まり、辺りに静寂が訪れる。
その静寂を打ち破ったのは、何かが二人に近づく音。
木々の間をガサガサと音を立てながら此方へ向かってくる。
しかもその音は一つではない。
複数…
それもかなり多い。
を庇う様に背中へ隠し、翼宿は鉄扇を構えた。
次の瞬間、二人の耳に届いたのは低く枯れた醜い声。
『人間だ。 …女も居るぞ』
『久々の人間だ。飯だ』
『此処に来る人間なんて中々居ねぇからな』
『逃がさねぇ様にしろよ』
翼宿と違って戦闘の術を知らないは
身近に迫る恐怖に身を固めた。震える指で翼宿のコートの端を掴む。
姿を現した敵は予想もしない数で…。
見る限りでは20。いや、それよりもっと多い。
『餌だ』『飯だ』そう言いながら二人に近づく妖怪達。
「っ!俺から離れるんやないで!!」
その言葉と共に鉄扇を振りかざす翼宿。
「烈火神焔っ!!!!」
呪文と共に現れた炎に数匹の妖怪が塵と化す。
仲間を殺された事により、妖怪達も黙ってはいない。
次々と翼宿に向かって襲い掛かる敵を確実に倒していく。
後3匹。
手前から向かって来る二匹の敵を倒す。
最後の一匹は後ろ。の方へと…。
翼宿がそれに気付き、体を反転させる。
しかし、翼宿の方が一歩遅かった。
ザ ク ッ 。
「翼宿っ!!!」
鈍い音と共にの視界から翼宿が消える。
崩れ落ちていく際、翼宿は力の限り鉄扇を振った。
「っ!…れっか……神焔っ!!!」
最後の一匹が塵となった。
翼宿は腹部から血を流している。出血が多く、顔が青白い。
「翼宿!」
「…怪我しとらへんか?」
「私は大丈夫。翼宿こそ血がっ!!」
「…が怪我しとらんならええわ。」
そう言うと翼宿の目が閉じた。
顔から血の気が失せ、額に冷や汗が浮かんでいる。
嘘………?
「翼宿っ!翼宿っ!?
誰かっ、誰か来てーーーー!!!」
■ □ ■ □ ■ □
あれから二日。
あの後翼宿とは、二人を探しに来た至t山の山賊達によって発見された。
処置も早く、翼宿は一命を取り留めた。
しかし、二日経った今でも意識は戻らぬまま。
翼宿が目覚めたら 言いたい事は沢山ある。
『これからは無茶しないで』とか『心配してたんだから。』とか…。
それに 『助けてくれてありがとう』
「…………?」
ふいに翼宿の声が聞こえた。
「何やってるん?」
何やってるって…。
自分そんな怪我してるのに呑気なんだから。
部屋の前を通りかかった攻児は、二人の明るい笑い声を聞いた―――