共同作業



「……り?おーい、井宿耳ついとるか?」

「だ……?」

深い思考から急に現実に引き戻され、井宿はすっとんきょうな声を上げた。

「だ?やないで。そないに耳が遠うなるまで何考えとったん?
 それとも三十路前のみそらでもう耳が遠うなったか?」

「失敬な。オイラ、そんなに歳じゃないのだ」

「せやかて、確かもうあれから二年やから……それでもやっぱ28いっとんのやろ?」

「それをいったら翼宿だって」

「俺?俺はまだセーフやで。まだまだぴちぴちの21や。初めて逢うたときのお前よりまだ三つも若いんやから」

「ぴちぴち……って、自分で言ってて恥ずかしくないのだ?翼宿」

「それいうたら、お前の方こそええ歳して、そないにすぐ三頭身になんのやめたらどうや」

「よけいなお世話なのだ」

「……なんや井宿、さっきから珍しく機嫌悪そうやな」

「そりゃ、そうなのだ。何が悲しくて二十過ぎた男が二人も揃って……草むしりなんかやってるのだ」

草むしり。

そう。ここは翼宿の心の故郷・至t山。

彼らは今、地べたにこれでもかというくらい近い距離で這い蹲り、草をむしっていたのだった。

しかし、井宿の機嫌がやや悪いのには他に、というより、ここに至る過程にその原因があったのだが。

「しゃーないやん。人手が足りんかったんや。こうたまには山道の掃除もしとかんと、荒れてまうからな」

「オイラが言っているのはそこじゃないのだ。
 ……わざわざ念で人を呼びつけるから、いったい何があったのかと一瞬焦ったのだ〜」

いくら井宿が仲間の念を受信できる身とはいえ、この能力は状況が差し迫ってこそ意味を成すもので、

このように雑用に用いるべき力でないことは、傍目にも理解しうることである。

なるほど、井宿の怒りももっともというわけなのだ。

「せやから、それは何度もあやまっとるやないけ。ええ加減、機嫌直して仕事に集中してくれや。
 呼ばれてちゃっかり俺の上に降ってきたくせに、いつまでも根に持ちすぎやで」

「それとこれとは関係ないのだ。翼宿の上に落ちてしまうのは仕方ないことのだ」

「仕方ないの数文字で片付けんな。それいうたら、こっちかて仕方なかったんや。
 実際、俺一人でこんなにやんの無理やったし」

「……はぁ。まぁ、念が届いたってことは、よほど切羽詰っていたことでもあるのだし、
 今日のところはおおめに見て、最後まで手伝ってあげるのだ。
 ところで翼宿、さっきから攻児くんたちの姿が見えないけどどうかしたのだ?」

このときのこの質問が、かえって己の言ったことの重要さを現すことになろうなどと、

旅の途中で呼びつけられた、何も知らぬ井宿がどうして感じえたであろう。

「あぁ。……せやから今言うたやん。人手が足りんて」

「え?」

翼宿がさも当然のように言った。

それに対し、井宿は数秒考えた後はっと眉をひそめた。

「だ〜!!まさか、これ全部オイラたちでやるのだ!?」

「せや。そのまさかや。攻児たちは今、山の反対側のほうやっとって、こっちに手がまわらへんねん」

「ほ……他の仲間は?こっちには一人もこないのだ?」

「贅沢いうなや……あっちも少人数で大変なんや。他の連中は今、ハリセン中やさかいにな」

「凱旋?」

「せや。今の季節人通り少なくて仕事にならへんから、この時季だけ国中でいくつか分かれて活動しとんのや。
 まぁ、これも最近はじめたことなんやけど、どや?俺らの山賊もなかなか顔広いもんやろ?」

「なんでまたそんな忙しい時季に、山の掃除なんてしなくちゃいけないのだ?
 第一、頭の君がこんなところにいていいのだ?」

「あぁ。俺はええねん。凱旋いうても一応、ここが本部やしな。
 それに、俺はもうすぐ実家の畑仕事にかり出される予定なんや」

井宿は、それはそれは深くため息をついたのだった。

そして、改めて目の前に広がる広大な面積を見渡してみて、

さらにそんな折、一陣の風が駆け抜けたものだから、

たくさん敷き詰められた道端の草はさらさらとゆらいで、

これらをすべてむしらなければならないと思うと、彼はまたもや前以上に大きな息を吐いたのだった。

「オイラやっぱ歳だから、遠慮したいのだ」

「今更逃げんのは許さへんで。これ全部今日中に終わらせなあかんからな」

「今日中になのだ!?」

「せや。……あ、まさかええ歳した男が、一度最後までやる言うたことウソにせえへんよな?」

「……」

井宿は心の底で、しまったと思った。

しかし、いくら後悔してみたところで今となってはすべて後の祭りであった。







草を全部むしり終わるのに、朝早くから初めてしめて十三時間。

ほぼ日の当たっていた時間すべて、草をむしることに費やされたのである。

簡単に言ってしまえば、まさに一日中働きづめとはこのことだろう。

だが、実際はそう簡単に片付く話でもなかった。

それこそ、一度は術を使い、まして翼宿など鉄扇を振りかざせば一発であろうと、考えなかったわけではない。

しかし、それには問題があったのだ。

今の季節と山の構造上での風向きいかんを考えたとき、風はふもとから峰へと向かうため、

どうしても炎は大きく山全体、もしくは頂上めがけて広範囲に展開してしまい、山火事を招きかねない。

無論、炎の大きさを変えれば良いとも思われるのだが、それではこの辺の真の強い草を根ごと焼き切るには、

いささか火力不足であった。

変わりに井宿が衝撃波で草を散らす案というも、なかったわけではない。

しかし、それもまた威力上の様々な要素が邪魔をして、不可能というよりは実行範囲外であるとわかった。

最悪山の形を変えかねない彼の術を、そもそもこのようなところで草を刈るためだけに用いては、

それもまた様々な意味で実行するのに一種の恐怖を覚えるのであった。

「第一、こんなことにせっかく与えられた七星士の術を使ったら、さすがに太乙君のいかずちが落ちるのだ」

さすがの井宿も師の怒りに勝る恐怖対象はないらしい。

しかし、作業中何度山を一気に吹き飛ばしたい衝動にかられたかしれない。

そこに身をおいている翼宿でさえ、四、五時間後には実際鉄扇を握り締めるまでにいたっていたのである。

そんなこんなで、やっとこさ大仕事を終えたふたりは情けなくも、互いにしばらくその場から動けずにいた。

「あ……あかん。腰痛いわ」

「お、オイラもなのだ……」

軍手をしてはいるが、彼らの両手は見事な真緑に染まり、その一見地味な仕事の秘められた激しさを物語っていた。

「へへ。手が麻痺しとるわ」

「オイラも手が草をつまんだ形からもとに戻らないのだ……」

「ひょっとして足も痺れとるか?」

「なのだ」

「今も?」

「だ?そうなのだ。ずっと痺れてて、しばらくこのまま立てそうもないのだ」

「勝った!!」

「だ!?」

翼宿がいきなり叫んだものだから、井宿が驚いた声を上げた。

「へへ。やっぱ歳の差やな。ほれ!」

「#〇$★д@Σ!!?」

「ぎゃははは!!痺れたやろ?俺の足の痺れはもうとっくにとれとったんじゃ」

地べたに寝転がった形のまま、翼宿が起用に井宿の足を蹴っ飛ばしたのだ。

井宿はたまらず、妙な悲鳴をあげて横のままうずくまった。

そんな彼の様子を見て、翼宿は嬉しそうにけたけた笑った。

「……た〜す〜き〜!!」

日も落ち、暗い中互いの顔も不確かであったが、今の井宿の顔はかえってはっきり見えるようであった。

「まぁまぁ。抑えて」

「抑えてられないのだ。人をさんざん手伝わせといて、いきなり何するのだ!?」

「せやったな。正直、俺ひとりでやっとったらこんなはやく終わらんよな……なんか礼考えんとな」

「……」

「なんや井宿、珍しいもんでも見るような目しおって」

「いや、翼宿の口からまさかお礼なんて言葉が聞こえるとは思ってなかったから、ついなのだ」

「お前のほうこそ失敬やな!俺かて、そこらへんの礼儀はわきまえとるわい。
 特にお前には……いつも感謝しとるし」

「???」

「せやからやめい!!その疑問たっぷりつまった顔で俺を見んな!」

「翼宿、ひょっとして照れてるのだ?」

彼が声を大きく張り上げるときといえば、怒ったときか照れたとき。そんな定義があった。

「じゃかましぃ!それ以上言ったら怒るでほんまに」

そして、照れた後にはたまに逆ギレに近い言葉を放つ。

井宿はあまりに翼宿の行動が読みやすすぎて、かえって嬉しくなってしまった。

翼宿もなかなかかわいいのだ。

「やっぱり歳の差なのだ。オイラには今の翼宿の感情が手に取るようにわかるのだ」

「――――――っ!!」

今度は翼宿が相手にしてやられる番となった。

その顔はカアァッと音が聞こえそうなくらい、もの凄い勢いで真っ赤に染まっていった。

そんな彼を見て、今度は井宿が満足そうに笑む。

そして、足の痺れもとれたのだろう。彼はそのまま上半身を起こした。

「翼宿、翼宿はさっきお礼をしてくれると言ったのだ。何かくれるのだ?」

まだ横になったままの翼宿を見下ろすように言った。

翼宿は、やはり照れ隠しか、ふいっと顔ごと井宿から逃げるように視線をそらした。

「あぁ、ええよ。なんだかんだいうても、こうして手伝ってくれたしな。なんでもくれたるで。何がほしいんや?」

「……だったら今すぐ、翼宿の視線をオイラに戻してほしいのだ」

「は?それだけか?」

「それだけのだ」

なんや、こいつ俺の赤うなった顔が見たいんかい。

嫌味なやっちゃなぁ〜!!

とは思いつつも、彼とて一度、何でも礼をすると言ってしまった以上、後には引けない。

「お前も嫌な趣味やな!ええわ。好きに見……」

言いながら振り返った彼だったが、なぜか台詞をすべて言う前に途切れてしまった。

否。台詞を続けられない状況になってしまったからだ。

当然、翼宿本人とて一瞬何が起こったのかわからなかった。

ち……ちちりぃ!?

彼が心の中で叫ばざるを得なかったのにもまた、原因があった。

井宿が彼の口を塞いでいたからだ。

しかし、翼宿にはそれこそ長い時間に感じられたが、実際井宿が翼宿の自由を奪ったのはほんの一瞬のことで、

唇のやわらかい感触が離れるその瞬間にさえ、状況判断ができずにいた。

「なっ……」

やっとこさしぼりだした声も声にすらならない。

「お礼、確かにもらったのだ」

「っちり〜!!おまえなぁ!」

「だ?」

「こういうんは時と場所を考えろや。誰かが見てたらどないすんねん」

「大丈夫なのだ。誰もいないのだ。それにこう暗ければ誰か来てもわからないのだ」



「そういう問題ともちゃうやろ……。俺、柳宿にデリカシーないて言われとったけど、実はお前んがよっぽど神経太いんちゃう?」

「だ……?オイラにはなんのことだかさっぱりなのだ〜v」

「こらこらこら!!何かわいくごまかしとんねん、三十路前が!!」

「……今なんか言ったのだ?」

「いえ。なんでもありません」

なんだかんだ言っても、翼宿とてこんなお礼も別段、悪い気はしなかった。

やっぱ、こいつには敵わん……。

井宿のこの行動も、ひとえに彼が翼宿の心の奥底を読んだ上でのものであったのだから、たちが悪い。

すべて手に取るように……。

なんやずるいやんけ。そんなん。

翼宿はそういった思考の中、ややふてくされたような顔になっていた。

無論、本人は気づいてはいまい。

井宿はそれをみてクスクスと笑った。

「今度はなんや!?」

「別に。なんでもないのだ」

「なんや今日のお前やっぱおかしいで」

「そうなのだ?……きっと疲れたのだ」

「せやな……俺もや。今日は疲れきってもうて、もうダメや」

「翼宿、立てるのだ?」

はじめに疲れていると言った当の本人は、流石は旅慣れた身体というべきか、

身体的な体力こそは翼宿よりかは劣るであろうが、立ち直りの速さは熟練されたものがあった。

ついさっきまで痺れていた足で、いとも簡単に立ち上がる。

一方、翼宿はというと、

「……あかん。立つの嫌や」

「い、いやなのだ?」

立てないのでなくて?嫌だと?

暗にそう訊いている井宿の顔を直視せずに、翼宿は続けた。

「アジトまでその笠で一瞬にして飛ばしたってくれへん?」

「だ?」

「せやから、その便利な笠で上まで送ってくれ言うとんのや」

「……立ちたくないってそういうことだったのだ?まったく世話がやけるのだ」

「ええやん。ついでにお前も上で休んでいけや。疲れとんのやろ?」

「あぁ、まぁ。でも、これくらい旅をしていれば慣れてることなのだ」

「遠慮すんなて。まぁ、酒くらいはでるよって。たまにはええやろ?つきあえや」

たまには。

確かにこの二年ろくに他人とは話していなかった。

なりゆきで話した人間はいても、翼宿ほどに自分に近い相手とは最近会っていなかったのも事実。

道中、話していた相手といえば、せいぜいたまくらいだろうか。

そういえば、たまはどこにいるのかといえば、これはこれで、はじめに頂上に井宿と共に現れた際に、

既に山賊のアジトの中で、くつろいでいるのだった。

どちらにせよ、井宿はたまを迎えにいかなければならないのである。

「……じゃあ、せっかくだからお邪魔させて頂くのだ」

「おう。そうくると思っとったで。ほな、頼むわ」







アジトに着くと、攻児以下数名が、こちらのほうが作業が早かったのだろう、だいぶ元気を残した顔で出迎えてくれた。

「おぉ!幻狼、遅かったな。ようやくそっちも終わったんか?」

「おう!この幻狼様をなめんなや。これくらいコンマで片付けたったわ」

「ウソもいいとこなのだ……」

「あれ?井宿はん、おったんですかい?……なんや幻狼、ひとりでやっとったんやないんか?
 お前があんなに言うから、俺らお前のほうにいこうにも、行ったらあかんと思っていかんかったんやで。
 手伝いがほしかったんやったら、別に少ないといっても困るほどでもないよってに、いつでも協力したったのに」

「だ?」

井宿が攻児の言葉にきょとんとなる。

一方、翼宿はというと“うわっ、やっばぁー”といった顔。

「……翼宿?」

しばしの沈黙の後、井宿が彼を呼ぶ。

「はい!!」

これは条件反射というものだろう。

翼宿は飛び上がったように背筋を強張らせた。



「あ……せやから。その……やな。攻児もいらんこというなや!!」

「は?俺なんや言ったらまずいことでも言うたか?」

「攻児くんのせいにしないのだ!どういうことなのだ、翼宿」

「は、ははは……。まぁ、抑えて。どうどうやで、井宿」

荒れた馬を落ち着かせるような仕草をする。

「これが抑えていられたらどんなにいいか、なのだ」

「ほな、攻児。後は任せたで!三十路前の疲れた腰でも押したってくれ。俺は寝るよって」

「は?おい、幻狼!!俺、話みえてきーへんぞ!?」

「翼宿!!」

逃げるように翼宿は奥間へと消えてしまった。

しかし、その後の足音が聞こえなかったことからすると、未だそこに留まっているのだろう。

だが、あえて井宿はその先へは踏み込まずに、変わりに残された攻児に問うた。

「翼宿はわざと攻児くんたちに来なくていいと、言っていたのだ?」

「え、……あぁ。そやけど、あの量やろ?ひとりでやるんは絶対無理やって、
 何度も言うたったんやど聞く耳もたへんかったんや、あいつ」

「なんでまた……」

「なんでも、きっとひとりで寂しい奴おるから、困ったときはそいつ誘うわ、とは言うとったんやけど、
 まさか、それが井宿はんやったとはなぁ〜」

と、ここで翼宿がバンッと先ほど閉めたはずのドアを開け放った。

「攻児!それ以上言うたら絶交やぞ」

戸を開けざまにこんなことを言う。

しかし、井宿などはあっけに取られてぽかんとなったが、

攻児はそれを聞きピンときたようで、なぜか急にニヤつきだした。

「はは〜ん。そういうことやったんやな。なるほど」

「な、なんなのだ?」

「ええから井宿、やっぱ俺の部屋来い。ここやと危険や」

危険というのは、彼の思考がばれてしまうのが危険といいたいのだろう。

なるほど、ここで攻児に暴露されては、せっかく彼が、

わざわざこんな面倒な口実を作ってまで井宿を呼んだ意味がなくなってしまい、

すべてが水の泡になってしまうのだ。

「翼宿……ひょっとしてオイラを呼ぶ口実を作るために、わざわざこんな回りくどいやり方したのだ?」

「……」

井宿の腕をひっぱり前を歩いていく翼宿の顔は、十中八九真っ赤であろう。

「そんなんええやん。もう終わったことや」

「はぁ……?」

「こうしてお前は来てくれたんやから、もうええ言うとんねん!」

「翼宿……」

“ひとりで寂しい奴がおんねん。俺みたくお前らのような仲間にいつも囲まれてるわけでもない。
 心では仲間がおるって思っとってもやっぱ、そばに誰もおらんと寂しくなるもんやろ?
 第一、本人が言うとってん。人はひとりでは生きられへんて。
 俺は幸せ者なんやなぁ、攻児。まったくあいつもたまには顔出してもええもんを。
 強がって離れとんのやったら、こっちからいぶり出したろう思ってな。”

攻児はそんなふたりの後ろ姿を見送り、ふと翼宿が山の大掃除を思い立ったときの言葉を思い返していた。

「幻狼も、素直やないからな〜。ま、今夜のところは七星士ふたりきりにしたったるわ。
 ……おーい!誰かあいつらに酒でも持ってったれや。それから、誰か俺の腰押したってくれ〜……。
 俺もそろそろ冗談で肉体労働やるにはきつい年齢やってこと、あいつわかってくれへんのや……」







「翼宿、ありがとうなのだ」

「なんやいきなり……」

「なんでもないのだ。ただ、いいときたかっただけなのだ」

「へっ。なんでもええわ。せや、井宿。これからは、気が向いたらでええからここへ来いや。
 酒くらいならいつでもつきおうたるさかい。……あんま、ひとりで無理すんなや」

「ありがとう、翼宿」

井宿の言葉の最後のそれがいつもと違った。

声のトーンもいささか低い。心からお礼を言っているのだとわかった。

「俺らは死ぬまでずっと朱雀七星士や。なんや古い言葉やけど、運命共同体やねんで。
 天コウの四天王と戦こうとったとき軫宿もいっとったけど、
 自分の生きている証が仲間の存在や、もっと甘えてくれてもええんやないか?
 せや。気が向いたときやなくても、ちょっと寂しいときとかいつでもええから来いや。
 俺はいつでも待っとるで」

「……まったく翼宿には敵わないな」

「お?なんや、お前の口からそないな言葉がでるんかい!?」

「珍しいものでも見たような目で見ないでほしいのだ……。
 オイラだって確かに寂しいと思うときはあるのだ。
 まったくもって翼宿の言う通りなのだ。
 でも、これといって理由もないのに、せっかく翼宿が仲間や家族といられる空間へ、
 いきなりオイラのような者がいっても、場合によっては迷惑かと思ってただけで」

「せやから、それがいらんお世話やっちゅーねん!
 ええ加減、年長者ぶって遠慮すんのはやめや」

「いや、別に年長者ぶってたわけじゃ……」

でも、遠慮していたという点で一理あるかもしれないと、井宿は思い直した。

「すまなかったのだ。じゃ、これからは遠慮なくご相伴に与るのだ」

というと、井宿は小卓の上の酒瓶に手を伸ばした。

「……はっ!!ちょー待って、井宿!」

「?」

「飲みすぎはあかんぞ。飲みすぎだけは……」

「大丈夫なのだ。今日は疲れてるから、たぶんすぐ酔いが回って、あまり飲めないと思うのだ」

「さよか。……って、ある意味それが一番危ないんじゃボケェー!」







この夜、案の定酔った井宿が何をしでかしたかといえば、またそれは別の話で、

この事があってからというもの、井宿が旅の途中に不意に思い立って、

翼宿の頭上にいきなり降ってくる回数は、やたらと増えたのだった。

攻児曰く、この頃から翼宿は前にも増して敏感に頭上の気配を感じ取るようになったとか。 











  ☆管理人からのコメント☆

珠珠様の旧サイトで踏んだキリ番のリクで書いていただきました(>▽<)
しかも!!最後のキリ番取得者だったので、特別に挿絵、しかも2枚も付けていただいちゃいました〜〜vv
もう大感激です(≧▽≦)
リクを言ったらホントすぐに書いて下さって・・・休止明け1番の更新ですよ?!
もう幸せすぎです〜(*^^*)
しかも、読んでもう素敵さに飛び上がってしまいました(笑)
ホントの本当にありがとうございました(≧▽≦)
つたない感想しか述べられなくてすみません;;


※HP用に多少加工いたしました。
 尚内容はまったく変わりありません!