なんでお前は、いつもそんなに俺の心をかき乱すのだろう。
「ふ…わぁ〜…。」
大きなあくびを隠そうともせず、翼宿は眠そうに目をこすった。
砂漠で幻覚を見せられてえらい目にあった、その数日後。
朱雀七星士一行は西廊国の昴宿の家にお邪魔していた。
翼宿、井宿、張宿、軫宿の四人は体力の消耗が激しくて、
ずっと寝込んだままだったが、さすがといおうか、
翼宿は早めに体力を回復させることができ、
いまだに寝込んでいる張宿や軫宿の世話をしていた。
今は一休みして階段の所に腰を下ろしながら、夕焼け空を見上げている。
「井宿のやつ…どこいってもうたんやろ…。」
井宿は自分より先に回復していたはずだ。
しかし、今日一日姿が見えない。
星宿との連絡に、戸惑っているのだろうか。
「ふ…わぁー…。」
もう一度大あくびをして、張宿と軫宿のいる部屋にちらりと視線を向ける。
張宿と軫宿も、もうすぐ回復するだろう。
そうしたら、また新座宝探しだ。
「…疲れたなぁ…。」
こてん、と、階段の手すりに頭を預ける。
いくら元気になったとはいっても、翼宿もまだまだ本調子ではない。
何かとあるとすぐに眠くなってしまう。
こんなとき、一番傍にいてほしいのは彼なのに。
その本人は、今ここにいない。
「…井宿ぃー…はよ、帰って…きぃ…。」
そういって、翼宿はまどろみの中に意識を落とした。
「美朱ちゃん、思いつめた顔してたのだ…。」
鬼宿との間に何があったのか。
あの二人にはいつもつらく、苦しい試練が課せられる。
少しでも、自分が身代わりになってあげたいと思うのだが。
あの二人だからこそ、その試練を受ける義務があり、
そしてそれを乗り越えていける力を持つのだろう。
「本当に、参るのだ。」
そんな彼らに比べて、自分はどうだろう。
ほんの少し、あの元気な少年に異常が見られると
仲間さえ心配してしまうほどうろたえてしまう。
「さてと、翼宿は、と…。」
星宿との連絡やら今後の予定やらで忙しく、
一日中あっちへ、こっちへ走り回っていたのだ。
おかげで翼宿の傍にはいてやれなかった。
「ん?」
翼宿たちが眠っている部屋の前の階段に、誰かが手すりに寄りかかっている。
誰だろう、と近くに行ってみて井宿はどきっとした。
「翼宿…っ。」
翼宿だった。
井宿は急いで翼宿に駆け寄る。
眠っているだけのようだ。
それがわかると、肩の力を抜いて目の前の翼宿をそっと抱きしめる。
「顔色が悪い…。」
まだ、本調子でないのにほかのものの世話をしていたのだろうか。
それとも、自分を探していたのだろうか。
そっと前髪をかきあげて頬に指を滑らせる。
やはり、以前より少し痩せてしまっている。
とりあえず、井宿は翼宿を自分の部屋まで連れて行くことにした。
ほかの者たちはまだ寝ているだろう。
彼らの眠りを、邪魔したくはない。
ふわふわ、と。
浮かんでいるような感じがする。
気持ちよくて、暖かくて。
いつまでも、この中にいたいと思えるような。
でも、なぜか起きなくては、と思う。
なぜだろう。
このまま眠っていたいのに。
心の奥で、早く起きろ、と声がする。
自分の声が。
起きて、目の前に何があるというのだろう。
ああ、思い出してきた。
そうだ、このぬくもりを与えてくれるのはあの人だけ。
あの人が、目の前にいるのだ。
待ち焦がれていたの人が。
早く。
早く。
目を覚まさなければ。
愛しいあの人の、顔を見るために。
「起こしたのだ、翼宿?」
目を開けて、一番最初に見えたのはやはり、
自分が一日中待ち焦がれていたあの人の優しい微笑み。
その微笑を見て、翼宿もやわらかい微笑みを返した。
「あんなところで、何をやっていたのだ?」
少し、咎めるような言い方。
多分、翼宿が言われたとおりに寝ていなかったからだろう。
「…お前のこと、探しとった。」
そういって、自分の髪を撫ぜてくれている手をそっと握った。
ああ、このぬくもりだ。
自分が今一番ほしかったのは。
「…ごめんなのだ。」
「ええよ、もう。」
今、ここにこうして、自分の傍にいてくれるのだから。
それだけで、もういい。
「星宿様と連絡はとれたんか?」
「ああ。もう心配はいらないのだ。
張宿と軫宿の様子は?」
「明日には起きれると思うで。
まだ、本調子とちゃうやろうけど。」
『そうか。』と井宿はまた微笑んで翼宿を優しい眼差しで見つめた。
目をそっと閉じると、井宿の暖かさを体中に感じる。
まどろみの中に感じたあの心地よさ。
あれは、井宿が見つめてくれているから、井宿が触れてくれているから感じるも
のだ。
「明日はオイラもやることが特にないから、翼宿は休むのだ。
張宿と軫宿のことは、心配しなくていいのだ。」
「んー…わかった。」
こういうときは素直になっておこう。
井宿に不機嫌になってはほしくないから。
そうすれば、もっとこのぬくりもりを感じていられるから。
「俺の面倒も、みてくれるか?」
井宿は、少し驚いて上目遣いに見つめてくる翼宿をまじまじと見つめた。
こんな風にあからさまに甘えられることはあまりないことだ。
しかし、すぐにまた微笑んで翼宿の手に口付けを一つ落とした。
「わかったのだ。」
「おおきに。」
くすくす、と二人の笑い声が小さい部屋に響く。
「オイラは、ゲンキンなのだ。」
「ん?」
少し苦笑して井宿は続ける。
「さっき翼宿があそこにいたとき、
もしかしたら倒れたのかと思って寿命が縮まる思いをしたのだ。」
まだ本調子でないのに、目の前のこの恋人は動き回ってしまうから。
「でも…今みたいに甘えてくる翼宿を見て、すごく喜んでるのだ。」
翼宿の一挙一動で、こんなにも心をかき乱される。
心配したり、怒ったり、喜んだり、悲しんだり。
少し前までの自分では現れなかった感情が、
翼宿を前にするとこんなにもたやすく現れる。
「んーええことなんとちゃうの?
それだけ、俺のことが好きっちゅうこっちゃろ?」
にっこりと、そういわれて井宿は思わず赤面した。
まったく、翼宿は時々こうやって井宿を困らせる。
普段は素直じゃないのに、こういうときはとことん素直なのだ。
そのギャップがまた、井宿には愛しくてたまらないのだが。
「まあ、そうなのだ。」
「へへ〜。」
翼宿は井宿の手を今度は両手で包み込む。
「大好きやで、井宿。」
井宿は幸せそうに微笑んで。
「俺も、愛している…翼宿。」
「あー、ずるいでー!
俺が先に言おう思てたんに!」
「早い者勝ちなのだ。」
二人でそんな風にじゃれあって。
心をかき乱されて。
それが、とても心地よい。
一生、こんな関係が続けばと、井宿は願わずにはいられなかった。
☆管理人からのコメント☆
・・・・・、素敵!!!すっごく素敵!!!!!
もうありえないよ〜(>▽<)
さすがは柊様w
もう素敵ですvvv
2人が甘々で幸せそうで・・・
あ〜鼻血が(爆)
キリ番踏んでホントよかった!!
柊様、ホントにどうもありがとうございました☆
(みじかっΣ(・Д・))
※HP用に多少加工いたしました。
尚内容はまったく変わりありません!