ひらひら
ひらひら
ひらひら
春風
晴れた空に舞う、春の妖精。
毎年季節の訪れを告げるように、その花は咲く。
ここ、至t山でもその花は咲いていた。
山は花の色に染まり、風がそっと吹く度にひらひらと桃色の雪が降る。
麓の村では昨日から盛大な桜祭りが開かれていた。
桜を見ようと遠くの村からも人が集まるほど、此処の春は美しかった。
あちこちで花見が行われ、にぎやかな声が聞こえてくる。至t山でも、昨夜は夜通し花見が行われた。
山で一際大きな桜の木。
麓の村の騒ぎもここまで来ると聞こえない。静かで穏やかな時間が流れる、この場所。
木の上には攻児・幹に背を預け楽しげに話す翼宿…、いや、此処では幻狼と呼んだ方がいいか。
そして、二人の話に時々相槌を入れ、此方もまた楽しそうな。
が木の下で読書をしていた所に二人が来た為、膝の上には読み掛けの本。
他の七星士達は、今日は村の祭りへと繰り出している。昨夜あんなに騒いだのにもかかわらず、だ。
山賊達は此処には滅多に来る事は無いし、何より皆二日酔いに頭を抱えているだろう。
「あん時はお前が」
「ちゃうって!アレは絶対攻児やった!」
「いや。ぜっっったいお前やった」
毎年恒例になっている山賊達の花見。
当然、毎年いろんな事があった。思い出話は尽きない。
だんだん気温も高くなり、ついうとうとしてしまう、この時期。
根元に座り、上を見上げて笑っていたの声が聞こえなくなった。
そっと顔を覗き込めば、彼女は小さく寝息を立てている。
「」
「……寝かしといたり、幻狼」
よっ、と地面に降り立つと攻児はを見、微笑った。
柔らかな春の風が三人の前を通り過ぎていく。
ひらりと舞い落ちた花びらがの髪の上に落ちる。ん…、と小さく声がもれたが、起きる気配は無い。
安心しきったような表情で眠るを、二人は穏やかな瞳で見つめていた。
「昨日の騒ぎで疲れとるんやろ」
「あんな騒がしかったんも久しぶりやったからなー」
幻狼は苦笑すると、自分の上着をそっとに掛ける。
起こさないように、起こさないようにと心の中で念じながら。
いつのまにか彼女のペットである鷹が、木の上から彼らを見下ろしていた。
二人と目が会うと、微笑むように瞳を細め、大きな翼を広げて飛び立った。
その姿は彼女の兄や父のようにも見え、姉の心配をする弟のようにも見えた。
「朱雀の巫女に初めて会うた時も思ったけど、本間なんか不思議やんなぁ。」
青空に消えていく鷹を見送り、攻児は苦笑して言った。
異世界からやってきた、この世界を救う者。全く違う文化、服装…、違う所をあげればキリが無い。
でもその違いを感じさせないほど、美朱も彼女もこの世界に馴染んでいる。
時々違う世界の住人だという事を忘れさせるくらいに。
「改めて言うような事でも無いけどなー。」
いつか此処から消えてしまう事を、忘れさせるくらいに。
しかし、今それを考えても仕方が無いのは他でも無い幻狼が一番分かっている。
先の事より、大事なのは、今。いつだったかもそう言っていた。
いつ来るかもしれない別れに怯えるよりも、今此処にが居る、それだけでいい。
「しっかし、本間ええ天気やなぁー!」
幻狼は夏海の隣に寝転んだ。空の青と桜の桃色、まるで絵を見ているよう。
穏やかに眠ると、空を見上げる幻狼。そんな二人の様子を見て、攻児は笑った。
「なんか空気が柔らかなったなぁ」
「…そんな感じするわな。ま、俺の影響ちゃう?」
そう言って何処か誇らしげに笑って見せる幻狼。
攻児はあぁもう言うんやめようかな、と苦笑しつつ、彼の隣に腰掛けた。
そして「アホ」と、幻狼の頭を軽く小突く。
「お前もや、幻狼。」
「は?俺??」
よっぽど予想外だったのか、きょとんとした顔。
彼はむくりと起き上がって、そのまま胡座をかいた。
こんな小さな動作や仕草などは何も変わっていない。多少の幼さを残した、昔のまま。
でも何か変わった。冗談なんかじゃなく、真剣にそう思う。
「なんかなぁ、上手く言われへんけど…。変わったわ。」
「何やねんそれ」
真面目な話をしても、またすぐ二人笑い合う。
眠っているお姫様を起こさないように、くくっと喉を鳴らして。
友情なんて、って言う奴も居るかもしれないが、男同士の友情も悪いものではない。
■ □ ■ □ ■
「さて、他の人らも今は居らへん事やし。俺は砦に帰ろかな?」
よっ、と立ち上がり幻狼に向かってニッと笑ってみせる。
からかうように悪戯っぽく。正直な彼からは正直な反応が返ってくる。それが面白くて仕方ない。
本人に言えば怒られること間違いないので、絶対に秘密だが。
「ほな、お邪魔虫はこれで」
さっきのからかうような笑みが気に入らないのか、後ろから声が聞こえる。
でももう振り返らない。後ろ手にひらひらと手を振り、砦に向けて歩を進める。
きっと奴は今頃顔を赤くしているんだろうな、と思うと自然と攻児の顔に笑みが浮かぶ。
「…ま、せいぜい幸せ噛み締めとき?」
振り返らない親友の背を見ながら、幻狼はふっと苦笑した。
少し顔が熱いのは春の陽気のせいだろう。きっと、そうだ。自分にそう言い聞かせてみながら。
春の風がそっと頬を撫でて、花びらを運んでいく。遠くで鳥の声が聞こえる。
自分の隣には、静かに眠る眠り姫。他には大きな桜の木と、果てなく広がる青い空。
を見、そして空を見て幻狼は笑った。
本間、平和やなぁ…。
☆管理人からのコメント☆
夏海ちゃんのサイトでフリー配布していたものを頂いてまいりました〜★☆
2周年記念小説ですv
素敵ですね〜てか、このほんわかした雰囲気が大好きです(*^^*)
私では、絶対に出せませんから(私が出せるのはシリアスかごくたまにギャグ、って位だから(^^;))
良いですね〜攻児も、優しいねw
私的には、攻児と幻狼で夢主を取り合ってくれても良いのに(笑)
まぁ、たまにはこういうのも・・・ねw
ホントに素敵です(*^^*)
夏海ちゃん、どうもありがとう!!!
そして、2周年本当におめでとう★☆
これからも頑張ってね!!
※HP用に多少加工いたしました。
尚内容はまったく変わりありません!