+ 三人娘 +



「美朱っ、柳宿っ!そっち行ったよっ!」
「おっけーっ!!」

紅南国、栄陽の宮殿で元気な声があがっていた。
ある、平和な春の一日。
日本でいうともうすぐ桜の季節だろうか、と思える気候だ。

「あっ、っ、今度はそっちっ!」
「にーがーすーかーっ!!」

次元の狭間に開いた穴やらのせいで、
四神天地書の世界へやってきてしまった
栄陽の宮殿で美朱たちと暮らすことになってから
まだ日も浅いというのに、柳宿と美朱とはすでに
何年も前から知り合いだったと思えるほど仲良くなっていた。


そして、彼女ら三人が一緒になるとかなうものはいなかった。


「翼宿ーっ!!観念しなさーいっ!!」
「っざけんなーっ!!」

今回の三人の標的は、朱雀七星士が一人、翼宿だった。
『今回の』というのには少し御幣があるかもしれない。
彼女らの標的は、大体の場合翼宿なのだから。
何かと理由をつけては彼らは翼宿で遊ぶ。
はじめは甘んじて受けいていた翼宿だったが、
その横暴さとはちゃめちゃさにさすがに嫌気がさし、
今となっては全力疾走で逃げている。

「あいつらしつこすぎや!」

なんとか彼女らをまいて翼宿は栄陽の町へと逃げ込んでいた。
町に入ったらこっちのものだ。
だてにひまなとき町をまわってはいない。
しかし、そういう理屈関係なしに彼女らはいつも
翼宿を捕まえてはいるのだが…。

「翼宿、翼宿!」
「お!タマ!」

建物の影から手招きしている鬼宿を見て、翼宿はほっとする。
多分逃がそうとしてくれているのだろう。

「タマ…ッ!」
「そぉーれっ!!」

鬼宿のいた場所へと滑り込んだ瞬間、
巨大な木材が振り上げられているのを見た。
そんなことができるのは、柳宿しかいない。
『はめられた』と思うひまもなく、翼宿は頭を強く殴られた。
地面へと落ちる途中で『悪い、翼宿。』と鬼宿の声が聞こえたような気がしたのだが
反応する間もなく、翼宿は意識を失った。



「さぁーて、どういう格好にする?」
「翼宿ってそれほど女顔じゃないからねぇー…。」

気が付いたとき、翼宿はいつものように縛られていた。
しかも、そこは後宮だ。
何度もつれてこられたから知っている。

「…あのぉー…。」
「あ、翼宿起きたの?」

目の前には、先ほどの(柳宿の場合は微妙だが)三人娘。
さも嬉しそうに化粧品やら女物の着物やらを物色している。

「ここは、どぉこなんでしょおか?」

すでに答えは知っているが、きかないわけにはいかなかった。

「後宮よ。ここの方が着せ替えには便利だから。」

『着せ替え…』と翼宿は一瞬気が遠くなった。
今度は着せ替えか。
しかもこの様子だと。


女装である。


「ねーねー、
翼宿って女顔じゃないけどけっこう美形だから
化粧を工夫すれば十分な美人になると思わない?」
「うんうん。目鼻立ちはっきりしてるから、
薄めの化粧でもいいよね。
柳宿、お願いできる?」
「おっけー!じゃあ、と美朱は服の方をお願いv」

翼宿は真剣に思った。
彼女らが本気を出したら世界征服でさえ可能なのではないか、と。
本当は暴れて騒いで出て行きたいのだが、
相手が彼女らではそれも無駄とこれまでの経験からわかっていた。
柳宿からなんとか逃げても、や美朱がまだいる。
そして彼女らに本気を出すわけにもいかず結局またつかまるのだ。
変にフェミニストなところが災いしたようだ。

「翼宿にはやっぱり赤系が似合うと思うんだよね。」
「あ、美朱もそう思う?
やっぱり赤だよね。それで、お相手の井宿が青!
ぴったりだよねーv」

そう、この三人は翼宿と井宿の関係を楽しんでいるのだ。
だから翼宿で遊んだり、井宿をけしかけたり、としている。
多分、今回も女装させられたら井宿に自分を押し付けるに違いない。
それを思って翼宿はまたげっそりとした。
井宿はそんな彼女らの行動は気にならないらし
(あえていうなら彼自身かなり喜んでいるようなのだが)、
時々いっしょになって翼宿を追い詰めたりさえする。


翼宿の味方は、誰一人としていないようだ。


『実際、タマのやつは裏切りおったし。』

きっと、美朱に脅されでもしたのだろう。
何かといって鬼宿は美朱に弱いのだから。

「翼宿はお上品な色香っていうより、
元気で活発な人特有の天然の色香、って感じじゃない?」
「そこが井宿も好きなんだよねーv」

と、三人は嬉しそうに騒ぎながら準備をすすめてゆく。
翼宿は『もう、どうにでもなれ。』と呟いて、あきらめのため息をついた。



夕刻。
井宿が星宿の用事から帰ってきた時刻。
彼は真っ先に翼宿がいないことに気づいた。

「翼宿?」
「ちーちーりっ!」

そういって出てきたのはだった。
その後ろには美朱もいる。
なにやら嬉しそうな笑顔を浮かべていることと、
翼宿がまわりにいないことから、
彼女らが何かをしたということはすぐに察しがついた。
しかし、彼女らがすることは自分にとって都合のいいことばかりなので、
井宿は『今度はなんだろう。』と少し楽しみにさえなった。

「どうしたのだ、ちゃん、美朱ちゃん?」
「きてきて!見てもらいたいものがあるのv」

二人は井宿の腕を引っ張って宮殿の奥へと進んでゆく。
どうやら井宿の部屋に向かっているようだ。

「今度はなんなのだ?」
「けっこうな傑作なの。」

美朱とは嬉しそうに顔を見合わせてから扉を開いた。

「お、来たわね。
ほら、翼宿。だんなのお帰りよ。」

こちらに背を向けて座っていた翼宿は柳宿に無理やり
前を向かされた。

「ほう、これはこれは…。」

翼宿は髪と同じ色のえりあしをつけられているようで、
長くなった髪の毛を腰辺りまで落とし、
所々に美しい宝石でできた髪飾りをつけていた。
薄く、けれど翼宿の顔を美しく着飾るには十分な
化粧が施されていてぱっと見、男とはわからないだろう。
着ている服はかなり高級なものだろうが動きやすそうで
赤をベースにオレンジや薄い赤の、鳥の模様に彩られている。
ゆったりとしたロング・スカートにはやはり動きやすさを考慮してか
かなり深いスリットが入っており、そこから覗く足がまた色っぽい。

「お見事なのだ、三人とも。」
「でしょ、でしょーv
がんばった甲斐があったね、美朱!」
「そうだね、v」
「さっ、これはあんたにあげる。」

柳宿が軽く翼宿の背中をたたくと、翼宿の体は目の前の井宿へとぶつかった。
井宿はすかさず翼宿の体を抱きとめる。

「そいじゃ、あとは煮るなり焼くなり好きにしてくださーいv」
「ばいばーいv」

といって、三人は部屋から出て行ってしまった。
翼宿は井宿の腕の中でいまだに黙り込んでいる。

「翼宿…?」
「見んといてや。死ぬほど恥ずかしいねんから。」

翼宿は自分の顔をこれ以上見られないように、井宿の胸に顔をうずめる。
井宿はそれに苦笑してぽんぽんと翼宿の頭を優しくたたく。

「でも翼宿。
せっかくちゃんたちががんばったのだ。
もっと見てくれたほうが、ちゃんたちも多分喜ぶのだ。」

そういわれて、翼宿は『う。』とうなった。
彼女たちの動機がなんであれ、彼女たちが一生懸命だったのは事実だ。
それを無駄にしたくはなかった。

「ほら、翼宿。」

耳元でそう、甘くささやくと翼宿はしぶしぶ顔を上げる。
そっと井宿の顔を覗き込むと井宿はいつのまにか仮面をとっており、
何もかも包み込むような優しい微笑みを浮かべていた。

「きれいなのだ、翼宿。
男にしておくのはもったいないくらい。」
「…うれしないわ。」

そう答えると井宿は小さく笑って翼宿の額に軽く口付けを落とした。

『…反則や。』

井宿がこうも優しいと翼宿も変に怒れない。
普段はむやみやたらとスケベでいろいろと押し付けるから
こちらも気兼ねなく怒れるのに、
そんな優しい微笑みを見せられたらおとなしくなるしかないではないか。
だってその微笑みは、自分が一番見たいものなのだから。
自分が一番ほしいものなのだから。
拒めるはずがあろうか。

「今日は、やらんの?」
「やってほしいのだ?」

そこで翼宿は口篭もる。
なんだかんだいって、井宿に抱かれるのは嫌いではない。
自分を愛してくれている、という証拠なのだから。
返答に困っている翼宿に、井宿はまた小さく笑った。

「今日はいいのだ。
できれば、ずっといっしょにいてほしいのだ。」
「…それくらい、なら…。」

翼宿はそっと自分から井宿に抱きついた。
井宿も嬉しそうに翼宿を抱き返す。
たまにはこんな日もいい、と、二人は思った。



「うわー、信じられないくらい甘いね。」
「まったくね。」

隣の部屋で聞き耳を立てていたのは、もちろん三人娘。

「ちょっとエッチなことも期待してたんだけどなぁー…。」

と、彼女らは残念そうだ。

「まあ、たまにはいいんじゃない?
毎回同じってのもつまらないじゃない。」

柳宿の言葉に美朱とは『それもそうね。』とうなずいた。

「ねぇ、今度はどんなことする?」
「井宿をかっこよく着飾らせるってのはどう?」
「あら、それいいかも!」

と、三人娘は早速次の計画を練り始めた。



そんな三人の思惑を知らずに、翼宿は幸せに浸りながら
三人娘に珍しく感謝していた。











  ☆管理人からのコメント☆

なんと!!
私が尊敬する柊様から、サイト開設半年突破記念に小説を頂いたんです!!!!!
しかも、なんと今回は名前変換付き!!=私が登場してる〜!!!(>▽<)
もう幸せ〜
それでいて、CPはしっかりちちたすなんだから、もう最高〜w

しかも!!!
翼宿が、今回可愛すぎです〜vvv
特に最後の方の翼宿のセリフ
「見んといてや。死ぬほど恥ずかしいねんから。」
ここ!!
とっても可愛くて、私叫びあがってました!!
頑張って口押さえながらも、
「翼宿、カワイ〜vvv!!!!!」
あ〜翼宿の女装姿・・・まるで目に浮かぶようでした!
ホントに可愛かったです〜vvvvv

私はホント幸せ者です(TOT)
ここまで頑張ってきてよかった(*^v^*)
柊様、本当にどうもありがとうございました!!



※HP用に多少加工いたしました。
 尚内容はまったく変わりありません!